第15話 戦争の始まり
それは突然始まった。
それが起こってから何が起こっているか認識できるまで少しの時間を要した。
なにが起こったのか頭で整理できた頃にはそれは祭りの中で中規模な妖怪と人間の殴り合いに発展していた。
俺はすぐさま彼女の手を掴んで逃げようとした。
しかし彼女は俺が引っ張ろうと掴んだ手から引っ張り返してきた。
「あれを止めなきゃ。私達にはその義務があるんじゃないの」
彼女の凛とした言葉に俺はハッとして
「そうだな。俺たちはお互い、妖怪と人間の友好の誓いを結んだ一族の子供で恋人同士なんだからそれか当然の行動だな」
俺の言葉に彼女も元気に笑って返してきた。
そうして俺と彼女は別れてそれぞれの場所の鎮静を警備していた人達と共に開始した。
俺は人間側の避難誘導と鎮静にあたっていた。
彼女は妖怪側の鎮静に声を張り上げて尽力していた。
それぞれ少しずつだが警備の人も集まってきて沈静化に向かおうとしていたその時だった。
一つに大きな花火が上がった。
その花火によってその場の全員の目がそこに集中した。
そしてその者は現れ、声をあげた。
「妖怪よ、人間よ、聞け」
その者は今ではどこにでもいるようなひと目見て妖怪だとわかる姿をしていた。
黒が強く出ている着物を着ているその者の額のあたりから角のようなものが出ていた。
あれは鬼の妖怪だ。
鬼は現在の妖怪たちをまとめているいわば妖怪の長のような者たちだ。
その中にもいくつかの派閥のようなものがある。
わかりやすいのが俺の彼女の父親がその鬼の一族の現在の当主を務めている。
そんな平和について、戦争について一番考えるべき者からでる言葉とは思えない言葉が出て来た。
「妖怪は人間よりも優れている。それなのになぜ人間と同等の扱いをされなければならないのか。私たち妖怪には人間を支配し国を創れるだけの力がある。ならば今こそ、今一度妖怪の復権をしようではないか」
その言葉に即座に反論したのは人間と妖怪のトップに立つ者達だった。
「ふざけるな。今さらなぜ平和を壊す。同じ考える力がありながら争おうとする」
「その通りだ。今さらそんなことをしてなんになる。そんなものに付き従う者がどれだけいる」
そう言ってその者をすぐさま抑えようと動いたがそれを周りにいた妖怪であろう者達が妨害してきた。
「残念だがすでに多くの妖怪達が私の下に着いている。そしてその勢力は今の当主にすら並ぶぞ」
その言葉は動き出し、警備にいた者達を抑え込む者達が証明していた。
そしてそこからは武器を使ってくる相手に対してこちらも武器で対抗する戦いになっていた。
それからしばらく戦い続けてからのことだった。
親父がこちらに来て持っていた武器を俺のと交換して言ってきた。
「お前は彼女を連れてここから逃げろ」
「でもそしたら親父達は」
そこまで言って親父は強く言ってきた。
「これはただの暴動じゃあない。国を造り変えかねない反乱だ。その戦いで一族の頭を張っている者達が消えればそれこそ終わりだ。お前たちが生き残り、この反乱を抑えてくれ」
そう言って親父は俺の背中を無理やり押して行った。
俺は一族としての役割を全うした。
自分の思いを捨てて。
走り彼女の手を掴み、無理やりに引っ張って行った。
後ろからは彼女が何か言ってくるがそれを聞かずに走り続けた。
それからどれだけ走っただろうか。
気が付けば森から出て一本の桜の大木がある開けた場所に出て来ていた。
後ろでは彼女が泣いていた。
その涙は葛藤と情けなさからきているのだと痛いほどにわかった。
あの場であの妖怪達を止めれるだけの力が自分にあればと。一族として生き残らなければならない悔しさと。
そうしてこれからどうすればいいのかと考えているとその者は桜の木の影から現れた。
「珍しいな。生きてこの場所に来る者がいるのは。いや、それよりも現世は随分と荒れているな」
その言葉は俺たちに希望を与えてくれた。
「今の反乱を知っているのか」
俺は思わずその者に大声で問いかけた。
「ああ、もちろんだとも。もっともただ見ているだけだがな」
「それでもあれを知っているなら手を貸してくれないか」
「手を貸すことは出来ないが知恵を貸すことなら出来るぞ」
そう言ってその者はこちらに近づいてきた。
「だが少なくとも今の時代にあの反乱を抑え込むだけの力を有している者はいないだろう」
絶望、ただその一言に尽きる言葉だった。
「待って。今の時代ってどういうこと何ですか」
彼女が涙をぬぐいながらその者に問いかけて来た。
「後、数百年後かの。力を持った者達が人間側に最も集まる時が来る。その時、お主らの力がその場に来ていれば反乱を抑え込むだけの戦力になるかもしれないな」
「数百年後ってそれまで国が持つわけ「持つ。それはわしが保証しよう」」
そう強く言われ俺たちは互いに目を合わせそして
「「この命の全てをかけてこの世界を平和へと向かわせてください」」
その言葉を聞いたその者は目を閉じ深くうなずくと
「転生、記憶がなくなり数百年後の時代に産み落とされる。そして因果が必ずお主らを導くだろう」
その者がそう言うと桜の花びらが俺たちを中心にしてうずまき始めた。
俺たちの力を、命を全て吸い付くした。
そうして数百年後への因果は、運命は動き始めていた。
「そうだ。あんたの名前を聞いていなかったな。最後に教えてくれないか」
「最後か…。まあそうだな。儂の名は八相(はっそう)。しがない化け狸じゃよ」
それを聞いた俺は「ありがとう」そう言おうとしたがそれ以上言葉を喋ることはできなかった。
光に包まれ、消えた後には八相と二人の男女だけが残されていた。
そこに空より一つの光が現れた。
「なぜ今になって人と妖との平和を望む。昔の争いでは傍観者でしかなかったのに」
「興がのっただけのこと。それにあの二人にはなにか可能性を感じるものがある。そこに惹かれたのも一つの理由か」
「巫女の素質を持つものが過酷な運命を辿るのは我が力を与えてから必ずな運命になってしまった。彼彼女らが生まれるこの先の時代でそれが無くなることを願っているぞ」
そう独り言を呟いて光は消えていった。
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