第10話 最強の妖怪

 基地から爆発音がしてそちらを見ればそこから黒煙が立ち上っていた。

「お前たち、第一部隊に喧嘩を売ってどうなるかわかっているのか」

俺が妖怪の方を見ながらそう言いうと妖怪は笑いながら

「いつまでもお前たちが一番強いとは思わないことだな。今この場には近いうちに妖怪の長となるお方が来ている。そして今ここには天原と四神がいない。そして小隊長も数人しかいない。これではさすがのお前たちも勝てまい」

そう言った。

 こいつらは隊長と副隊長がいない時、小隊長が少くなっている時を狙って襲撃を行っている。

 ちゃんと準備されているあたり、しっかりとした組織が存在してるようだ。 

 今この基地にいる小隊長は月宮小隊長、竹原政(たけはらせい)小隊長、神楽凛小隊長の三人だ。

(どうする、こいつを足止めしても他にも強いやつはいる。なら俺がするべきことは)

 俺は目の前の相手を無視して基地へと向かった。

 相手は予想外に追いかけてはこなかった。

 よほどの自信があるようだ。

 基地に着くとそこは百体近い妖怪と隊員たちが戦っていた。

 防御中心に全体の指揮を月宮小隊長がとっていた。

 他の隊員達も持久戦の構え方で戦っていた。

 ところどころ押されている場所があったがそこには部隊の実力者たちが入って押さえている。

 この調子なら隊長たちが戻ってくるまで持ちそうだ。

 そしてこの状況で俺がするべきことは妖怪たちを背後から攻撃して陣形を崩すことだ。

 どこへ突撃するかを見極め行こうとした時

「待ちな」

一声、しかしその一声で動こうとしていた足が止まった。

 声の方を見るとそこには人と遜色ない、同じくらいか少し上くらいの少年が立っていた。

 しかしそれが妖怪であることはすぐに分かった。

 そして目の前にいるのそこらへんにいるような妖怪ではない。

 喉から絞り出された声で

「お前は一体何者だ」

目の前の妖怪に聞いた。

 妖怪は

「俺は妖怪の長の息子にして近いうちに妖怪の長になる者だ」

重く鋭いそう答えた。

 納得だ。これだけの圧を感じさせるのは多少強い妖怪でも無理だ。

 最強に近い妖怪、それを目の前にしてかろうじて刀は構えたもののそれは抵抗にすらならない。

 それがわかる程にこいつの強さがわからない。

 足元の葉が舞い上がった。そのことを認識することが少し遅れた。

 次の瞬間、横腹に衝撃が走った。

「がはっ」

 吹き飛ばされ奥にあった木にぶつかり止まった。

 ぎりぎりで体をひねることができていたためなんとか致命傷は避けることができたが今の傷も肋骨が折れているのか動けば痛みが走る。

 立ち上がり痛みに耐えながら刀を構えて相手を見た。

 ここで何をしても意味がないと思い一旦小隊長たちと合流することにした。

 ここから逃げられればの話だが。

 そんなことを考えていると目の前の妖怪が口を開いた。

「なぜこれほどまでに弱い生き物が国をもって生き続けているのか。今までいた妖怪たちは何をしていたのか。あの村のように全てを殺し、壊さねばな」

 時が止まったかのように感じた。その言葉だけが今の自分には感じられた。

 言葉を理解した時、俺の目の前には妖怪が立っていた。

 妖怪の顔は驚いたような顔で目を見開き、後ろへ飛んで距離を開けた。

 横には自分の振られた右腕と刀が地面に水平にあった。

「どうしてお前がその力を持っている、人間」

妖怪がそう冷たく言い放ったが俺にはどうでもよく

「力。なんのことだか知らないがそんなことはどうでもいい。問題はお前が俺の村を襲ったかどうかだ」

そう叫んだ。

「村、ああ、あの村か。まさか生き残りがいたとな。これは何か我らの凶兆につながるものかもしれないな。今この場で殺すとしよう」

そう言って妖怪は体が傾いた。

 直後、目の前に現れ右の拳を俺の体に向かって打ち込んできた。

 しかしなぜだろう。

 最初の時よりも動きが遅く感じられる。

 妖怪の攻撃を避けようとすると体が軽く思っていた倍くらい飛んでいた。

 その動きを見て、俺の目をはっきりと見て

「なぜだ。なぜおまえが、人間がその力を持っている」

今までの冷静な様子からは考えられないほどに激情を見せていた。

 そう聞かれても俺には身に覚えがなかった。

 今、経験がないほど体が動けているが別に何か力を使った覚えも身に着けた覚えもない。

 いったい何のことか聞こうとした時周りから十数の気配を感じた。

 それと同時に妖怪の横にもう一体妖怪が現れた。

 同じ人型の妖怪、俺より一回り以上年が上のように見えた。

 その妖怪が何か耳打ちをすると

「ち、引き上げるぞ。来ているもの全てを引き上げさせろ」

そう言って何か指示を出した後、こちらを見て

「運が良かったな。増援が来てくれたようだぞ。最後に名前を聞いておこう。少し貴様に興味がわいた」

そう言ってきた妖怪に俺は

「霊陰鬼人。それが俺の名前だ」

と、答えた。

 それを聞いた妖怪は

「そうか」

と、一言残し身をひるがえし立ち去っていった。

「待て」

俺は逃げようとする妖怪を追いかけようとした。

 妖怪がこちらを振り返った。

 その瞬間、動こうとした体が止まった。こわばり体が崩れて片膝をついた。

 凄まじい殺気が飛んできた。

「俺を目の前にして生き残れてたんだ。その命大事にしな」

殺気を止めて妖怪は去っていった。

 森の外にいた妖怪たちも引いていって俺はその様子を基地に向かいながら見ていた。

 体には最初の一撃で折れた骨の痛みと重く疲労が残っていた。

 

 

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