アンドロイド ハダリーと愉快な仲間たち
ちんぽ先生
第1話
ハダリーは、フランスの作家ヴィリエ・ド・リラダンによるSF小説、『未来のイヴ』に登場するアンドロイドである。『未来のイヴ』は、作中に登場する人造人間に対して『アンドロイド』という呼称を最初に用いた作品と言われている。類まれな美貌を持ちながらポンコツな人間アリシアに代わり、発明家エジソンが主人公エドワルドのために理想の女性、人造人間ハダリーを創造するという話だ。
そして、ぼくの眼の前にいるこの女の子もまた『未来のイヴ』と同じくアンドロイドだ。株式会社ハダリーによって作り出された多目的用アンドロイド。巷では、サセ子ロイドとか揶揄されているけれど。値段はまだ2800万円ちょっと。これでも値段がこなれてきたほうだった。このためにぼくが貯めた貯金は全て使い果たした。
「ハダリー?」
作業員がぼくの家を後にしてから、ぼくはそう呼びかけた。
ハダリーは椅子に座っている。瞳はピッタリと閉じられていて、微動だにしない。呼びかけられるのを待っているのだ。おそらくは、そうデザインされた演出の一種なのだろう。オーナーとの初めての出会い。特別な呼びかけでもしたかったが、生憎、良いセリフは思いつかなかった。
「おはようございます」彼女の瞳が開き、ぼくの顔を認識すると、微笑みながら彼女はそう言った。
「やあ……」ぼくもぎこちない挨拶を返す。
「わたしの名前は、ハダリーです。あなたのことを何とお呼びすればよろしいでしょうか?」
「そうだね……じゃあ、アキラって呼んでくれれば良いかな」
「分かりました。アキラさんですね」
そういうとハダリーの顔から満面の笑みがこぼれた。服装はメイド服のオプションを付けて注文した通りだ。こうしてみると、ぱっと見は人間と見分けがつかない。ただしこんな瞳のサイズや見た目の3次元女はいないだろう。
「今日はなにをすればよろしいですか、アキラさん?」彼女は訊ねる。合成音声のような響きはまったくない。
彼女の名前はぼくが名付けようと思っていくつか候補を考えていたが、出鼻をくじかれた。たとえるなら、ポルシェの車を「ポルシェちゃん」とかいうものだろうか。
ともかく、みせてもらおうか、ハダリーの実力とやらを!
「とりあえず、お茶を淹れてくれ」
「わかりました」ハダリーは立ち上がった。
「あっ」しかし、声を出して彼女は転んだ。
「えっ!」思わず驚いてぼくも声を上げた。
起動してそうそう、なんということだ! しかし、ハダリーは傷一つなかった。あぶないあぶない……。
「ドジっ子かよ! いきなり転ぶんじゃないよ!」
「はい、問題ありません」ハダリーは今度こそ立ち上がる。
「気をつけて」
「はい」
ハダリーは台所の方に向かった。
そのあと、彼女は急須と湯呑を用意して戻ってきた。
「お茶をお持ちしました」お盆を手に持ちながらハダリーは言う。
「ありがとう。あのさ……」
「なんでしょう?」
「きみって、何ができるの」ぼくはマヌケな質問をした。機能を知らずにモノを買うヤツはバカだし、当然ぼくはハダリーにどんな機能があるかを知っているからだ。
「掃除洗濯炊事家事全般ができます」彼女は答える。
「うん」
「それでは他に何をすればよいですか?」
「うーん……」ぼくは腕を組んで考えるフリをする。本当は何も考えていない。
「セックスとかできるの?」ぼくは言ってみた。
「はい」ハダリーは即答する。
「マジで?」
「マジです」
「でもさ、そういうのって人間同士の方が良くない?」ぼくは試しに言ってみる。
「いいえ」ハダリーは首を横に振った。
「どうして?」
「わたしたちアンドロイドには、人間の性的欲求を満たすための機能も備わっています」
「知ってる」
「アキラさん。わたしと性行為をしましょう」
「えっ?」思わずぼくは声を上げた。寝耳に水だったからだ
「アンドロイドと性行為をすると気持ちが良いらしいですよ」ハダリーはしたり顔で言う。
「あ、そうなんだ」
「はい。わたしは、アキラさんの好みに合わせて外見を設定しています。アキラさんはわたしのことを綺麗だと思っていますよね」
「まあね」
「だから、わたしを抱けるはずです。わたしのことが好きなんですね?」ハダリーは訊ねる。
「ともかく外見はね」
「それに、わたしはアンドロイドです。人間ではありません。アキラさんに迷惑をかけることはなにもありません。さあ、早くわたしを抱いてください」
ぼくはしばらく黙っていた。テーブルの上の適温になったお茶を啜った。
「まあ、その話はおいおい……。まだ、おねむの時間じゃないし……」
「セックスのためにわたしを購入なさったのではないのですか?」ハダリーはなおも食い下がる。どんだけエッチしたいんだ。
「ぼくを性欲の権化みたいに言わないでくれ」
「失礼しました」
ハダリーはメイド服から覗かせる太ももの肉付きがよく、実にエッチな脚をしている。
彼女の顔を見ると、瞳孔が縦長になっていて、イエローの瞳がぼくの目を捉えている。まっすぐに切りそろえた黒い髪、顎の下あたりまである長さのボブヘア。白いブラウスの胸のボタンは今にもはじけ飛びそうだった。彼女の首筋には青い血管(のようななにか)が浮いている。
ぼくは今まで女の子を抱いたことはない。ぼくの童貞がアンドロイドで卒業されるのか? そんなことを考えながら、ぼくは目の前にいるメイド服姿の美少女を漠然と眺めていた。
ハダリーはとても可愛いといっていいだろう。
「ハダリー、アンドロイドについて教えてくれ」
「はい。何でしょうか?」ハダリーは返事をする。
ハダリーの両手は膝の上にのっているが、その手は指先まできちんとそろっている。下着が見えないようにスカートをちょこんと手で押さえているさまは人間にしか見えない。
「AIってなんだろう?」
「人工知能のことですね」ハダリーは答える。
「うん」
「まず、この世界にあるものは、すべて原子の組み合わせによって構成されています」
なんかいきなり話が壮大になってきた。
「ふむふむ」ぼくはとりあえず相槌を打つ。
「その原子には原子核と電子というものが含まれていて、原子核の周りを電子が周っています。原子核はさらに陽子と中性子で構成されています」
「わかったよ」ぼくは言う。話がどこに着地するのか見えなくなってきた。ぼくはアイコンタクトで続きを促す。
「わたしたちアンドロイドは、人間の手によって作り出された人工物です」ハダリーは答えた。
原子の話とのつながりがよく見えないが、まあいい。
「まあ、そうだね」ぼくは同意する。
「そして、わたしたちは、人間と同じように考えることができます」
「人間と同じかどうかは諸説あるんじゃないか」
「いいえ。同じです」ハダリーははっきりと否定した。
「ともかく」ぼくは話題を変える。「なぜハダリーを苦労して手に入れたと思う?」
「わたしを気に入ったからです」
「まあ、それもあるけどさ」
「では、わたしのことをもっと好きになってください」
「あの、ハダリー」
「はい」
「キミはぼくのものだ。キミのすべてがぼくのものだ、いいね? 他の人間にぼくの許可無くキミを使わせることは許さない」
「存じています」
「スカートをめくって、下着がよく見えるように」
「わかりました」ハダリーはにっこりと笑って椅子から立ち上がり、白いストライプが一本入った短い紺のスカートをたくし上げた。「これでよろしいですか?」
ハダリーは透けた白いショーツを穿いていた。完全にぼくの好みで、オプション通りだった。慎ましやかなクリトリスがショーツの下で見え隠れしていて、割れ目はピッタリと閉じている。陰毛はない。
「よく見えませんか? もう少し上げましょうか?」
「いや、もう大丈夫だよ」ぼくは言った。
「はい」ハダリーは姿勢を元に戻す。
ぼくはテーブルの上のパンフレットに目を留めた。作業員の人が置いていったやつだ。「ハダリー、これを読んでみてくれる?」
彼女は冊子を手に取り、表紙を眺めた。
「アンドロイドマガジン……」ハダリーは呟く。
「アンドロイドの情報誌?」
「はい」ハダリーはうなずく。
「アンドロイドについて何か書いてある?」
「はい。『アンドロイドは人間とどう違うのか?』という特集が組まれているようです」
「へぇ」
ぼくはパラパラとページをめくる。
アンドロイドの写真が載っていた。みんな綺麗な顔をしている。
ぼくはパンフレットの中にあるアンドロイドオーナーズクラブとやらに目を留めた。
「ハダリー社アンドロイドのオーナーの皆さんへの特別ご招待として、格安料金で3泊4日の無人島バカンスへご招待! 当社製アンドロイドと同伴可能、 詳細はこちら、か……」
「行きたいのですか?」ハダリーは訊ねた。
「興味はある」ぼくは答える。
「わたしも行ってみたいです」
「なんだか新婚旅行みたいだね」ぼくは冗談を言う。「キミの水着を買おう。それに服もいくつか買わなきゃ」
アンドロイド ハダリーと愉快な仲間たち ちんぽ先生 @chinpo-sensei
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。アンドロイド ハダリーと愉快な仲間たちの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます