第16話 キャンプ地に物資輸送

 拝命祭の物資輸送の依頼を受けた翌日、私たちは夜明け前に仕事を始めた。

 輸送先は北の街道の、各キャンプ地。ヨールティと大森林手前の要塞までを繋ぐ道で、国内最長の街道である。

 街道には一日歩いて移動する距離ぐらいの間隔で、キャンプ地が何ヶ所も設置されている。ここは警備の冒険者たちの拠点であり、村人たちの休憩や宿泊の場になっているのだ。


「こんな夜明け前に届け物かい?隊長呼んでくるから、ちょっと待っててくれ」


 影移動ナイト・スキップで夜明け前に移動するので、どこでも似たような反応をされた。それでも夜間の見張りがいるので、輸送の仕事は滞りなくすすむ。

 大森林に一番近いキャンプ地に荷物を届け終える頃には、ちょうど太陽が昇り始める。


「ここのキャンプ地が、一番大きいな」

「そうね。この辺の村の人達は、まずここに集まってくるみたい」


 旅人や冒険者たちが目覚め、身支度や食事を始めている。行商人たちもちらほらいて、物を売ったり馬車の乗車の交渉などをしていた。

 拝命祭に行く人達はここから約一週間、歩いてヨールティを目指す人がほとんど。子供にはなかなか大変な旅路である。


「少し見回りもしてみる?」

「うん!北側から来る人が多いから、そっち行ってみようよ」

「ピィー!」

「うにぴーも、警戒おねがいね」

「ピ!」



 キャンプ地からさらに北に向かうと、遠くに大森林が壁のように連なっている。かなり距離があるのに、存在感がすごい。

 魔王領に行くには、あそこを越えなきゃならないのよね。


「困ってる人はいなさそうだな」

「キャンプも近いし、午前中はそんなに魔物も寄ってこないみたいね」


 街道から離れた草むらには、ポツポツと人影が見える。警備にあたってる冒険者や、祭に向かう村人たちだ。

 特に救助の必要も無さそうで、私たちは少し見回りをしてキャンプ地に戻った。


「少し早いけど、お昼にしましょうか」

「そうだね。食べてから、また見回りに行こう」


 私たちは丸太が椅子のように並んでいるところに腰掛け、昼食をとりはじめた。バニさんに作ってもらった特製弁当だ。


「んー!美味しい!!」

「お肉たっぷりでってお願いしたからね。ボリュームすごいでしょ?」

「うん!!最高!!」

「ピィピィ!」

「はい、うにぴーもジェムどうぞ」

「お、なんか美味そうなもん食ってるじゃねーか!」


 わちゃわちゃ食事をしていると、一人の男性がよってきた。今朝荷物の受け取りをしてくれた、ドルフさんだ。

 ドルフさんは30人ぐらいの大型パーティの団長さんで、北の街道のキャンプ地を取り仕切っている。


「宿のおばあちゃんが作ってくれた、特製弁当なんですよ!」

「宿ぉ?お嬢ちゃんたち、どこから来てるだ?」

「ヨールティ」

「はぁっ!?ここから馬車でも早くて4〜5日はかかるだろう!?」


 驚くのも無理はない。彼らだってそれぐらいの時間をかけて移動し、キャンプ地を設置したはずだから。

 夜限定とはいえ、私の影移動ナイト・スキップはかなり特殊で便利な魔法なのだ。


「まぁ、ちょっとした魔法です」

「へぇー。ま、身体能力を高める魔法を使って、伝令や軽い荷物を運んでる奴もいたしな。魔法使いってのも、色んな商売があるんだな」


 彼は納得したように両手を組むと、私たちのお弁当をじっと見つめる。


「ところで嬢ちゃんたち、おつかいって頼めるかい?」

「ふふ。むしろ待ってましたよ、その言葉」

「テルテ?」

「なんだ、しっかりしてるなぁ」


 バニさんにお弁当をお願いするとき、売価や分け前も話し合ってきたしね。

 キャンプ地の冒険者は長く街から離れるから、ちゃんとした食事が恋しくなると思ったんだよ。


「その弁当、俺たちにも売ってくれ」

「これと同じくらいの量なら、千ポンデっておばあちゃん言ってました。お渡しは明け方です」

「あぁ、それでいい。とりあえず、十個売ってくれるか?いいかげん、野営の飯も飽きてきててな……」

「かしこまり!」

「ピィー!」


 一通り注文の話が終わると、ドルフさんは仕事へ戻って行った。

 横で食事をしていたアイシャは、あっけに取られている。


「テルテって、そんな計画も立ててたの?」

「物資輸送だけだと、他の人でも常識的に運べる量の依頼しかないからね。もっと色々運べるから、それを活かしたかったのよ」

「そっか〜、本当テルテはすごいな」


 食事を終えると、私たちは再び街道を離れて見回りに行った。午後も変わらず穏やかである。

 むしろうるさいのは人間の方で……


「おーい!あんたー、街道はこっちだぜー!」


 冒険者の少年が、こちらに向かって大声で叫んでいる。私たちを村人と間違えているようだ。大丈夫だと返したが、二人組の少年が駆け寄ってきた。


「ほら、ここは危ないから早くあっちのキャンプに行きなよ」

「あの……私たちも冒険者です」

「えぇー?お前みたいなチビがぁ?」

「ち……チビ!?」

「ピピィッ!!」


 あまりにも自然にチビと言われて、ショックを受ける。普段ほとんど女性としか関わらないから、言われたことなかったわ……。

 それも同世代の少年に、拝命祭に参加する子どもくらいに思われたってこと?く……悔しい!!


「マッシュ、失礼だぞ」

「だってよー」

「その子たち、さっきドルフさんと何か交渉してた。たぶん、行商の子だ」


 後から追いかけてきた別の少年が、マッシュと呼ばれた子をたしなめる。

 惜しい……でもこっちの少年は、しっかり周りを見てるタイプだな。

 すぐにこちらに対して、お詫びと挨拶を始めた。


「まぁ、レイルがそう言うなら」

「すまない。こいつ、口も頭も悪くて」

「はぁ!?そりゃないぜレィ……」

「俺たちドルフさんところで世話になってるんだ。何かあったら、よろしくな」

「わ……わかったわ」

「ピィ……?」

「テルテ……大丈夫?」


 チビと言われたのがあまりにもショックで……でも、ここは軽く受け流すのが大人の対応よね。

 大丈夫……私は大人、私は大人……。


「あの……取り込み中すみません。警備の冒険者の方たちですか?」


 私たちが立ち話をしていると、また別の人が声をかけてきた。

 振り向くと、村人を連れた女性神官さまが立っていた。

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はじめての仲間は勇者ちゃんでした ~闇魔法使いの私が魔王を倒しに行くんですか!?~ 明桜ちけ @hitsukisakura

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