第二章

第15話 拝命祭の依頼

 拝命祭まで二週間とせまる頃、ギルドにも祭関連の依頼が出揃ってきていた。

 私達もそろそろどの依頼を受けるのか、相談も兼ねてギルドにおもむく。


「警備……護衛……警備……巡回警備……物資輸送……警備……護衛……冒険者ギルド向けだと、警備や護衛ばかりね」

「ねぇねぇ、どれにしようか?」


 アイシャが少しワクワクしたようすで、聞いてくる。そんな彼女とは反対に、私の気持ちはやや複雑だった。


「思っていたより、報酬がしぶいわ……」

「えー!?なんで!?この警備の仕事とか、いつもの倍の報酬だよ!?」

「報酬金額だけ見れば……ね……」


 依頼書の端には、小さく任務失敗時の賠償責任を負うことが記載されている。普段の依頼には、ほとんど書かれていないのに……。


「あら、アイシャさんたちも拝命祭の依頼を受けてくれるんですか?」

「イグサさん!」

「……こんにちは」

「めぼしい依頼はありましたか?お二人なら、どんなお仕事でも受けられると思いますよ」


 依頼の増加でギルドも忙しく、受付の人数を増やしているようだ。イグサさんはフロアに出て、こうして冒険者に声をかけている。

 なるべく多くの依頼を、適正のある者に振り分けるためだろうな。彼女は日頃から冒険者たちと交流があり、実状をよく理解しているから。


「護衛の依頼とかどうですか?お二人なら、報酬の高い依頼もお願いできますよ」

「そうなんですか?私、何でも頑張ります!!」

「あの……イグサさん。この賠償責任の記載って、最近追加されたんですか?」

「あぁ、それは」


 テルテさんは細かいところまで見てますねと、少し驚いた顔をされた。そして少し悩むような間を置いて、イグサさんは答え始める。


「拝命祭は教会からの依頼が多いので、毎年こう記載がされるんです。実際に問題が起きて支払うことは、ほとんど無いんですけどね」

「そう、ですか……」


 ほとんど無いって……支払ったことはあるのかな?それに賠償の内容や上限金額については書いてないし……。

 これは警戒したほうがいいかも。


「依頼は物資輸送を受けましょう」

「えー!?護衛や警備じゃないの?」


 珍しくアイシャが主張してくる。何か理由でもあるのかしら?


「アイシャはなんで、護衛や警備の依頼がいいの?」

「えっと……魔物から人々を守る役目だから!」

「……うん」


 いや、特に深い理由は無いな。いつも通りのアイシャなだけだった。

 むしろいつも通りすぎて、社会を生きていけるか不安になるよ……。


「魔王討伐は、アイシャの大切な目的よ。でもギルドの仕事は別、お金を稼ぐ手段なの。魔王討伐には、お金がたくさん必要よね?」

「え……う、うん」

「だから、ギルドでは安全・確実にたくさん稼ぐことが大切なのよ」

「テルテさんはシビアですねぇ」


 イグサさんは興味深げに、私とアイシャのやりとりを観察している。

 アイシャは……やや萎縮してしまったな。少し落ち込んだ顔をしている。

 なるべく丁寧に説明して、納得のいく条件に落ち着けないと。私は、いつもより少しゆっくりした口調を心がけて話し始めた。


「護衛や警備は拘束時間が長い上に、不測の事態が起きる可能性もあるわ。二人でやるには、負担が大きい仕事なの。この賠償についての記載も気になるし」

「でも、やっぱり……」

「それに住民の救助については、特例措置がありますよね?イグサさん」

「あら、詳しいのですね」


 私が一方的に話し続けるのを避けるため、イグサさんに説明を振る。彼女も、心得たように説明を始めてくれた。


「拝命祭に参加する子どもや同行者を魔物などから救助した場合、教会から報奨金が出るんです。ちょっと待ってて下さいね」


 そう言うとイグサさんはカウンターへ戻り、紙と何かを取ってきた。

 それを見せながら、説明を続ける。


「参加者にはこういう、特殊な魔法印が支給されています。救助した際に申請書類に押印をしてもらうと、教会に救助金の請求ができるんです」

「そうなんですね」


 少し萎縮していたアイシャも、興味を示し始めた。彼女にとって、魔物を倒したり人を助ける仕事のほうが、やりがいがあるのだろうな。


「依頼とは別に、こういう突発の仕事もあるのよ。だから朝一で物資輸送を終えて、昼は見回りをするといいと思うの」

「そっか。それならいいと思う!」


 アイシャも納得してくれたみたいね。いつもの元気を取り戻している。


「それじゃ私たち、物資輸送の仕事を受けます」

「かしこまりました。ではカウンターで受付を――」


 私たちは依頼の手続きをして、宿の部屋へ戻った。



■■■



 とはいえ、輸送の仕事は基本的に期間中に輸送ルートを一往復する前提なのよね。普通は、馬車で運んで戻ってくるだけで、二週間ぐらいかかっちゃうから……。

 それで六十万ポンデか……馬車も使わないし、夜には影移動で部屋に戻れるから、ほぼ全額が儲けになるんだけど……。

 もっと稼げないかしら?


「テルテ?テルテってば!」

「……え、あ。ごめん。なぁに?」

「そろそろ夕食の時間だけど、どうする?」


 アイシャに声をかけられて、ハッとする。窓の外を見ると、すっかり日が落ちていた。

 いつの間にそんなに時間が経ってたの……仕事のことを考えすぎてたわ。


「行くわ。ボーっとしててごめんね」

「ううん。テルテは仕事のこと考えてくれてたんでしょ?」


 いつもありがとう、と笑顔で返される。そんな面と向かって言われると、恥ずかしいわね。

 そんなやりとりをしながら、私たちは食堂へ向かう。

 美味しそうな食事の香りに、緊張がほぐれてくる。毎日食事まで用意してもらえるの、本当にありがたいなぁ。食事かぁ……。


「……お弁当……」

「ん?なに?」

「お弁当作ってもらおう」

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