【閑話01】バニさんの昔話

 ヨールティで生活するようになって数週間。

 私たちの夕食は毎晩、ローちゃんさんの前の席に用意される。最初は居心地が悪かったけど、段々と慣れてきたかもしれない。

 まぁ基本的には、アイシャが話しているのを横で聞いてるだけなんだけど……。


「バニさんはねぇ、昔ここで踊ってたのよん」

「えー!?そうなんですか!?」

「やぁー、恥ずかしいねぇー。まぁー、昔のことだよぉ」


 今はすっかりおばあちゃん食堂といった感じだけど、昔は違ったんだろうな。外の薄れた看板跡から察するに、キレイなお姉さんが接客するお店だったんだろう。


「はぁー、こうやってねぇ。さぁー、踊ってねぇ」


 バニさんが杖をつきながら、片手だけ踊りの振りをしてみせる。動きは弱々しいが、踊りはしっかり覚えているのだなぁ。


「わぁ〜すごいですね!」

「まぁー、衣装もねぇ。やぁー、残ってるんだよぉ」

「へぇ……」


 ほーほーほー、と笑いながらバニさんは奥の部屋に入っていく。しばらくして戻ってくると、手には青い布きれと兎耳の頭飾りが握られていた。


「はぁー、これだよぉ」

「は?」


 差し出された布きれ……伸びる素材ではあるようだけど、これが服だと言うの……?

 だって……


「ピ?」


 この布きれ、うにぴーより小さいじゃない!!


「まぁー、着てみるかぁ?」

「いいんですか?」

「ダメです」


 布きれを受け取りそうなアイシャを、静止する。するとアイシャは少し残念そうに、こちらを見てきた。


「えぇ……せっかく出してくれたのに?」

「アイシャは一応勇者なんだからね!?何かのきっかけで、変な噂が広まったらどうするの!?」

「あらん、残念。じゃぁ、テルテちゃんが着たらん?」

「ムリです」

「あらんあらん」


 ローちゃんさんが、つまらなそうに目で訴えている。そんな顔されたって、着れるわけないでしょ!!


 私は着せ替え人形にされる前に、アイシャを連れて部屋に戻ったのだった。

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