2022年 38歳

 高校二年になって、美代は塾に通うことになると言った。私たちはそれがどういう意味なのかを知っていた。宣言通り、美代は四月から塾に通い始めた。間もなく、私と美代の交友は途絶えた。

 そして私は大人になった。女の人をパートナーに持ち、SEを職に日々忙しさに追われながら生きている。美代とは連絡を取っていない。瑠夏とも連絡を取っていない。実家を訪ねれば会えるのかもしれない、けれど私は実家を訪ねない。私は何もしない。

 記憶は劣化する。ぽいと机に投げ出しても構わない取るに足りない思い出も、掌中に大事に抱えていたい思い出も、何れも劣化して、細部が粉屑のように溶け出し、やがて芯の部分まで砂の城が砕けるように瓦解してしまう。砕け散った末には印象と共に濃く残った記憶の、部分部分だけが残る。この青春の記憶の結晶の抽出も、日を経る毎に摩耗して劣化して、細部はどんどん不明瞭になり、いずれはあらすじさえ前後し始めるだろう。

 叶わなかった悲恋。その奥ゆかしさと、中毒しそうな感傷と、どうにもできない不毛とを、私は人生であと何度、思い返すのだろう。あと十回。あと千回。それとも、割と早い頃合いに記憶は風化するかもしれない。

 季節は廻り、冷たい雪の冬の後に朗らかな春が来る。昨日が終わり、今日が始まる。自然の営為がとこしえに続いていく。

 有限の私は、きっと永遠に届かない。

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同級生 大和なでしこ @KakuKaraYonde

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