04

――その後、メロディは自分を庇って死んでしまったタキジの死体を探した。


それが可能だったのは、この廃墟にいたオートマティックをすべてルイーザが殲滅してくれたからだったが、もしそうじゃなくても彼女はそうしただろう。


結果として死体は見つからなかった。


それは、ルイーザが彼を地面へと埋めて墓を建ててくれていたからだった。


どうやらメロディが気を失っている間に、彼女が鉄パイプや金属バットを墓標にしてここで殺された者たちを埋葬してくれたようだ。


タキジの墓に刺さった金属バットには、少女を守った少年とナイフで彫られていたため、気がつくことができた。


「タキジ、あたしは行くよ。ケダマと一緒に、またあの人に会うんだ。そしたら、また戻ってくるからね……」


メロディは決意していた。


ネオリベラのコミュニティから出て、もう一度ルイーザと会うのだと。


彼女に恩返しができるくらいの人物になるのだと。


あのとき一緒について行けばよかったのかもしれないが、今の自分ではルイーザの世話になるだけで終わってしまう。


もっと強くなるのだ。


自分を機械の化け物から守ってくれたタキジや、ルイーザのように。


誰かを救えるくらい強く――メロディはそう思うと、ケダマと共にネオリベラのコミュニティへと戻った。


コミュニティは廃材を使って造った強固な鉄柵で覆われた町だ。


その門の前で、メロディが自分はこのコミュニティの人間だと声をかけると、門番が中に入れてくれた。


ルイーザを追いかけるにしても、何の支度もなしに追いかけるのは無謀だ。


幸いなことに、施設送りにされていない自分には多少の自由が許されている。


このコミュニティで旅の支度を整えたらすぐに出発しよう。


――と、メロディは考えていたが、何やらコミュニティの人間たちの様子がおかしかった。


「恥知らずが」


「子供だからって許されるとでも思ってるの」


「ウィノウさんがかわいそう」


誰もがメロディの姿を見て、遠くから悪態をついている。


これはどういうことだと、メロディが戸惑っていると――。


「おう、よく戻ってこれたもんだな」


悪態をつくコミュニティの人間の中からウィノウが現れた。


ウィノウはこれからメロディに制裁を加えると言いだし、突然ショットガンの銃口を突きつける。


一体何のことだか理解できないメロディに、悪態をついていた者たちが次々に言う。


「集団でウィノウさんを襲っておいてとぼけるつもり!?」


「このコミュニティがなければみんな死んじまうんだよ! それなのにおまえらは!」


「秩序を乱したヤツは死ね!」


彼ら彼女らの言葉を聞き、メロディは理解した。


どうやらメロディたち一団は、外でウィノウに反旗をひるがえし、彼を殺してこのコミュニティを奪おうとしていたことになっていると。


事実はウィノウが突然現れたアームド·ホイールを恐れて、メロディたちを置いて逃げたのだが。


この状況で説明しても、とても信じてもらえそうになかった。


「おかしい……おかしいよ、こんなの……」


震えながら呟くメロディを見て、ウィノウは高笑い、コミュニティの人間たちはさらに声を荒げている。


ケダマは、そんな状況の中で必死に鳴いていた。


まるで何かを訴えかけるように、メロディの肩で喚いている。


その鳴き声でメロディは思い出す。


ルイーザが自分にくれたスマートフォンのことを――。


「最後に何か言い残すことはあるか?」


分厚い唇を歪めて歯を見せるウィノウ。


メロディは顔を上げると、ポケットに入れていたスマートフォンを取り出した。


すると次の瞬間、スマートフォンが変化していく。


少女の手の中で携帯電話からハンドガンへと形状を変えていく。


「それはセイビアーフォンッ!? なんでテメェみてぇなガキがそんなもん持ってるんだ!?」


セイビアーフォンとは、人類がオートマティックと戦うためにスマートフォンを改良して造られた携帯型戦闘端末。


ナノテクノロジーによって剣や銃などの武器へと変わり、最初の持ち主が決めた設定からは変えられない。


メロディがルイーザからもらった物は、カスタマイズされたハンドガンタイプ。


ちなみに弾丸は充電、またはバッテリーを付ければ補充できる。


ソードタイプなどの近接武器は、たとえ破損しても充電すれば数分で自己修復する対オートマティック用の兵器だ。


「あの人が……ルイーザがくれたの」


「ルイーザって、あの斑狼はんろうのルイーザかッ!? そいつをよこせ! それはオレにこそふさわ――ッ!?」


ウィノウが言い切る前に、メロディのハンドガンが火を噴いた。


その一撃でショットガンは破壊され、止まらない弾丸はウィノウの肩を貫く。


「ぐはッ!? このガキ……ッ!?」


メロディは、ウィノウの額にハンドガンを突きつけて訊ねる。


「あたしはここを出て行く。何か乗り物はないの?」


「わかった、わかったから殺さないでくれ! トラックならあるよ!」


「あんな大きいんじゃなくてもっと小さいやつ」


「そこの裏にマイクロカーがある! そいつをやるから許してくれよッ!」


ウィノウはそう言うと、車のキーを目の前に放った。


メロディがそれを拾おうとすると、ウィノウは彼女を取り押さえようと掴みかかったが、ケダマがその顔に爪を立てながら噛みつく。


「ギャッ!? 目が、オレの目が!」


「うっさい」


メロディは喚いていたウィノウの頭にハンドガンを振り落とした。


その一撃で気を失ったウィノウを放って、メロディがマイクロカーへと向かうと、コミュニティの人間たちは急に甲高い声を出して騒ぎ始めた。


「やった! 嬢ちゃんがウィノウのヤツをやっつけたぞ!」


「わたしはあの子のほうが強いと思ってたよ! これでここはわたしらのもんだ!」


「殺せ! ウィノウのヤツを殺せ! 今までの恨みを晴らすんだ!」


コミュニティの人間たちはウィノウを取り囲んでいた。


メロディはそんな彼ら彼女らをハンドガンを撃って黙らせると、大声で叫ぶ。


「なんなんだよあんたらは!? 自分より弱いヤツを叩くのがそんなに楽しいのかよ!」


思いの丈を口にしたメロディはキーを差し、ハンドガンになったスマートフォン――セイビアーフォンを車にセットすると、その場から走り去っていった。


それから旅に必要な物をウィノウの家から奪い、コミュニティから出て行く。


半壊した建物や割れた道路を走りながら、自分は彼ら彼女らのような人間にはならないと歯を食いしばっていた。


そして、恩人であるホワイトメッシュの入った黒髪の女性のことを想う。


「あたしはルイーザのようになるんだ……。強くなって、大事な人を守れるような人に……」


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機械殺しのメロディ コラム @oto_no_oto

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