世界と明日が終わっても、あの娘の隣で笑ってたいし、世界と明日が変わっても、あの娘の瞳に恋してたい。

 夕暮れ時にヒグラシの鳴き声が聞こえてくる。日差しもやわらかくなりつつあって、人生最初で最後の16の夏もそろそろ終わろうとしていた。


 ここで皆さんに驚きの発表があるんですけども、わたくし櫻井秀人は西島佳奈子さんと今現在もお付き合いをしておりません。いや、マジで何で?


 夏に2人で夜の海に行ってチューしてさ、付き合えないってよく分かんないよね。

俺、遊ばれてんのかな? 西島いわく、まだその時じゃないらしいんだけど、その時って何だ?


 ほいでもって俺と西島の関係性の何が変わったかっていうと全然で、俺は相変わらずだらしないニヤけた面ぶら下げて、西島にごますったり、媚びたり、油断させて、弱ってるんじゃないかな? 今はもしかしたら寂しいんじゃないかな? っていうタイミングを見計らってデートか食事に誘うヒット&アウェー作戦を忍耐強く継続中。


 西島とは付き合いそうで付き合わない、今どきラノベでもやらなさそうな恋愛ロードマップを突き進んでて、たまにガチの喧嘩して落ち込んで、そんで由美子さんに相談して慰められて、それでまた性懲りもなく由美子さんに心が揺れたりもちゃんとしてる。


 いろんな人がいて、いろんな人に心惹かれて気持ちが揺れて、その人に対しての感情が膨らんだり縮んだりしながら、何となくその時の気分で好きだの嫌いだの宣言して風呂敷広げてそのまま放置。その日その日で言うことが違う矛盾と論理破綻の権化みたいになってきてるけどいいじゃん。矛盾したいし、論理破綻した人生が送りたいんだから。


 いくらでも屁理屈無双してやんよって気分の時もあれば、弱気になって自信無くなってきたわぁって時もある。わし、自分の感情とか気持ちと呼ばれてるものの変化に自分自身が追い付けてねっすって時なんてしょっちゅうあるし、その時に食らうブーメランのぶっ刺さり具合とメンタルの揺り返しのエグさは半端ない。


 例えばだけど、さっきの由美子さんの話みたいに、好きな女の子と喧嘩した直後のメンタル超弱ってる時に、自分がカワイイなって思ってる子から優しい言葉かけられたら好きになっちゃわない? 俺、なっちゃうんだけど。それで、めっちゃ好きだった相手を気持ちで上回ることはないにしても、かなり心揺れるよね? 揺れない? ホントに?


 っていうか、こんなこと女子の前で言ったりしたら、超叩かれそう。ヤなんだけどマジで。でも、そういうふうに生まれてきちゃったんだから、しょうがないよね。中学の頃とか、男子一生の仕事を成さねばとか思ってたけどさ、俺はそんなやつじゃないじゃん。多恋多情。水は高きより低きに流れじゃないけども、俺はかわいさと気分に流されてくだけだよね。


 死ぬまで止まらないジェットコースターに乗っちゃったのかも。結婚とかしたら止まんのかな? 知らんけど。


 感情や出来事に何が何でも名前を付けなきゃいけないわけでもなし、そのことに意味があるのか無いのかも分かんない。考えるな、感じろって、ブルースリーも言ってたことだし、直感で生きてみようと思う今日この頃。


 そういえばね、お隣のミヨコばあちゃんの家に、新潟から孫が遊びに来たことがあって、その子、1個下なんだけど、来年から本格的に芸能のお仕事するために、ミヨコばあちゃんの家から東京に通うことになるんだって。それ聞いた瞬間に出会いのパターンとデートの場所とシチュエーションの何やかんや全部セットで20種類は脳内で反復横跳び始めちゃったから、これはもう病名のある何かなので保険適用してください。


 俺は嘘つきで惚れっぽくて脳内弁慶。そんなやつを信じてくれったって、泥棒に金貸すような気持ちかもしれないけど、でもこれだけは信じてほしい。


 俺はずっと西島佳奈子が好き。よく笑う、笑顔になりやすい顔。めっちゃ怖くて綺麗な瞳。後ろから抱きしめてくれた、あの白い両腕。初めてだったキス。太陽に照らされると美しい赤毛に変わる、チョコレート色の髪。西島佳奈子を形成させるたくさんの要素が、いちいち俺をわくわくさせる。もし他の誰かと付き合って結婚して、その人との子供ができて家庭を築いておっさんになってても好きなもんは好きだと思う。


 大人になって自分の人生を振り返った時に、忘れられない恋愛とか忘れられない女の子っていうのがいるんだとしたら、あいつは必ず絶対に間違いなくランクインするだろうし、おっさんになって、おっさん同士が集まって、酒飲んで何かの拍子に酒のさかなの代わりに話すであろう女の子がこの世にもしいるのだとしたらそれはあいつだ。


 またその話かよって友達にもあきれられながら、お前も同じ子の話しかしねぇじゃんって言いながら、あの時あいつは俺に惚れてただとか、そんなわけねぇだろだとか、そんなしょうもない話でくだ巻いてを一生やり続ける相手がいて、その時に話す同じ子っていうのは西島佳奈子だ。


 これから先、平凡な人生だとか、つまらない人生だとか、自分にも他人にも思われたり言われたりする人生を送ることになったとしても、もし俺を主人公にした物語があったら間違いなくあいつはメインヒロインで、俺の人生の中じゃ主要な登場人物の一人だってことは言いたい。


 何の意味も価値も無い、別に得だってしなくて、でも誰かに言いたくなるようなそんな与太話をしてみたい。俺にとっての西島佳奈子ってそんな子で、俺の16の夏はその子と海に行った思い出ができて終わった。


 ハーレム帝国建国を志して、入学式に高杉と喧嘩して、同じクラスの沢ちゃんと仲良くなって、バイトし始めて中谷と村田さんと由美子さんに出会って、安田さんに習ったキックボクシングでアゴぶっ飛ばして、モテ始めてもう一回ハーレム帝国の野望を思い出したけど失敗して、中谷が好きだから中谷と仲良くなりたいって思ってたのに何故か村田さんを好きになっちゃって、パンチさんからリトルカブをローンで買って、村田さんとがっつり仲良くなり始めた頃に楢崎とパンチさんの3人で津田沼で暴れて、地元の夏祭りで西島と再会して村田さんにフラれて、バイトにどっぷりになったけど、人生最初で最後の16の夏が終わるっつって慌ててる頃に西島から連絡が来て、一緒に海に行ってキスしてやっぱり西島が一番好きなんですっていう、俺の長ったらしい本当の本当に混じりっけのないガチでしょうもない脳内浮気ミルフィーユと激イタ武勇伝に付き合ってくれてマジでありがとう。


 そうそう、思い出した。高校に入りたての頃にエックスの解を立証するとか何とかほざいたけど、ハッピーエンドって幸せが終わるっていう意味だよとか、つまんない能書き垂れるやついるから数式を変えます。


 夏+海+月=キス。 キス×エックス=ハッピー。 エックス=西島佳奈子。


 どう? これどう? お前どうせこれ、エックスが村田さんでも里山さんでも成立するんだろってね、そんな野暮は言いっこ無しにしましょうよ旦那。


 やっぱさ、俺ってば性根と脳みそが腐ってるからカワイイ子を見るとすぐ好きになっちゃうし、クソDQNだからすぐ喧嘩しちゃうけど、そういうの含めて全部許してくんないかな? それと西島が何でだか分かんないけど俺のことをずっと好きになってくれてるラブコメ展開が、俺のこれからの人生に待ち受けててほしいし絶対にマジで頼むから待ち受けててくれ。

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みんな16歳の夏は何してた? 望月俊太郎 @hikage_furan

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