Ⅸ‐8

 ぶっちゃけさ、初めてのキスの味はレモン味とか昔の人はよく言ったもんだけど、あれ絶対に嘘だよね。それかキスする前にレモン味のガムとかお互いが噛んでなきゃ無理じゃない? あんまり話を盛るのはよくないと思うんだけど、でも特別なものだっていうのはしてみてマジでよく分かった。


 急に色気の無い話になっちゃうけど、例えると俺にとってはヤニクラに似てる。タバコを吸ってない人には分からないかもしれないんだけど、タバコ吸ってるやつも、しばらく時間を置いてタバコを吸うと頭がクラクラする時があって、これはタバコの中に入ってるニコチンが血管を収縮させて、そのせいで脳が貧血を起こしてクラクラってめまいがして、それをヤニクラって言うんだけど、その感覚と似た症状がキスしたら起きた。


 ヤニクラも人によっては吐き気とかして気持ち悪いって言う人もいるんだけど、俺は全然平気っていうかむしろ気持ち良くて好きなんだよね。なんていうか頭がぐわぁ~んってなるあの感じが好き。


 だからチューするたびに、ぐわぁ~ん、ぐわぁ~んってなったからキス超気持ちいいってなった。それで、何回もしたくなっちゃったから何回もした。何だっけな? 何回目かのチューの後、西島に「満足した?」って聞かれて「まだ」って言ったら「ムカついた、もうしてやんない」って言われて「ごめん、嘘。何でもするから」って言って、でもその後は家まで送った帰り際に1回だけであとはしてくれなくなっちゃったんだよね。


 仲がいい人との会話って、他の人に「そんなに長い時間、何の話をしてたの?」って聞かれても「普通の話だよ」とか「いろんなこと」とか言って、うまく説明できなかったり忘れちゃってたりするから、うまく説明ができないし、とにかくチューの衝撃がでか過ぎて俺はその後はよく覚えてない。


 ホントに2人してキャッキャしてただけかも。西島をおんぶしたまま砂浜歩いたり、花火したり、貝殻拾ったり、そういう他愛のないこと。


 太陽が顔をのぞかせて、白と薄いオレンジ色に染まった海と空。鼻と頬をくすぐるようになでていく潮風にさよならをして海岸線を駆け抜けた。


 背中に西島を感じながら、光と風と海が見える風景がゆるやかに流れて、トンネルを抜けるとそれは磯の香りとともに消える。目に見える景色は目まぐるしく移り変わるし、この先どうなるかなんて誰も分かりはしないけど、俺は俺の将来が何者だっていいし何者にだってなれるような気がした。

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