第2話 怪談

 小学校六年の時、山で二泊三日のキャンプをするという学年行事がありました。その山は怪談の名所でもあり、キャンプの引率をする先生たちですら、怖がっていました。何故ならキャンプの一日目の夜に、肝試しがあったからです。ただ怖がるだけならまだしも、怖がらせる方は尚更怖いものです。何しろ、持ち場で生徒たちを一人でずっと待っているのですから。


 この年の六年生も、同じ山にキャンプへ出かけました。そして夜になり、お決まりの肝試しが始まったんです。五人くらいで一つの班を作り、三十分おきに、一班ずつ地図通りに進んで行きます。ゴールには班の名前が書いてある木の棒を、置いていきます。ゴールは心霊スポットとしても有名な神社で、その社の賽銭箱の奥に、名入りの木の棒を置かなければなりませんでした。神社の鳥居をくぐれば、引率の先生が待っていてくれます。怖くなくても、先生たちが各所で驚かせようとしていたので、ゴールした班は安堵の息をついていました。一班、一班と鳥居の外に出て、やっと最後の班が鳥居から出て来ました。よほど怖かったのか、最後の班のメンバーは泣きそうになっていました。


 しかし、最後の班のメンバーが泣いていたのは、怖かったからではありませんでした。班員の男児二人と、途中ではぐれてしまったと言うのです。先生たちに緊張が走り、不安は生徒たちにあっという間に伝染し、女児たちは皆泣きそうでした。先生たちははぐれた二人の男児を探そうとしました。そんな時です。風邪もないのに神社の鳥居の横の草むらが、がさがさと大きく揺れたのです。生徒たちは悲鳴を上げ、先生たちは生徒を守ろうと臨戦態勢を取ります。揺れる草むらの向こう。そこから二つの影が飛び出してきました。


 そこに立っていたのは、最後の班がはぐれたと言っていた二人の男児でした。男児二人は鳥居をくぐらずに、皆を驚かせようとわき道から出てきたのでした。この後この二人の男児が先生たちに大目玉をくらいました。


 そして、色々あったキャンプが終了して、全員無事に家に帰りました。しかし、本当の恐怖はここからでした。あの男児二人が、二人とも高熱を出して起き上がれないほどに衰弱して、死んでしまったのです。男児二人はいずれも「ごめんなさい、ごめんなさい」と、何かに謝りながら死んでいったそうです。後から聞いた話では、神社の鳥居をくぐらなかったのが、悪かったと言うことでした。




 ソファーのスプリングが音を立てて、犬飼が体を起こす。叶はよほど怖かったのか、鳥肌が立った腕を擦り合わせるようにしていた。そんな彼女の様子を見た犬飼は満足そうに、笑った。叶は血の気の引いた顔をして、「とても怖かったです」と感想を述べた。


「そんなに怖がらないで下さい。わたしも自分の実家の近くの神社で試しましたけど、こんなにピンピンしています。迷信ですよ、迷信」


「わー。試したんですか? 勇気ありますね。さすがプロです」


「叶さんに怖がって頂けて、怪談作家の冥利に尽きますよ。ありがとうございます」


「いえ、こちらこそ。ありがとうございました」


 二人が頭を下げあったところで、ボイスレコーダーの記録中を示す赤いランプが消えた。立会人はそのボイスレコーダーを文字に起こすために、先に退席した。



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