クラスの委員長さんとゆるふわちゃんに挟まれて平穏じゃない件

蕨 来希

1-1 詰みというやつでは?

「よーしじゃあお前ら引いた番号の所に移動しろよー」


担任の男性教師がそう言うと俺たちは机と椅子を、自分が引いた紙の番号と黒板に書かれている番号の場所を確認しながら移動した。俗に言う席替えというやつだ。


「なあ阿坂あさかー昼飯奢るから席交換してくれよ」

「お前場所どこだよ」

「教卓のど真ん前」

「真っ当に勉強して成績上げてくれ」


俺はよく話す友人の富里とみさとに場所の交換をお願いをされるが、これを丁重に断る。俺の場所は窓側の一番後ろ、大当たりだ。端っこは女子の列だから一番端ではないと言え、ここなら授業中居眠りに読書と時間を有効活用出来る。昼飯だけではとてもじゃないが等価交換とは言えないほどに価値がある。


「二学期の間よろしくね。阿坂君」


と思っていた…今挨拶してきたクラスメイト、学級委員長の湯布院凪ゆふいん なぎを見るまでは。


俺は思わずため息が漏れた。机と椅子を移動して疲れたから一息入れたのではない。この湯布院凪という女が頭の硬い典型的な委員長タイプの真面目ちゃんだからだ。絶対サボりなど許してはくれない。ってか、こんな真面目な奴が一番後ろの窓側だなんて特上当たり席が勿体ないだろ。


容姿だけでは言えば超上澄。身長は女子の中では高めで160センチちょっとはあり、赤茶色の長い髪をサイドテールに纏め、キリッとした二重は少女らしさを感じさせず美少女というより美女という印象を受ける。あだ名に「鉄仮面」なんて女子には失礼なものが付けられるほど彼女の笑顔を誰も見たことがない。勉強は全教科1.2位争いをするような秀才さに加え、それでいて運動はちょっと苦手というのがまたギャップ萌えを産んでいる。…偏見だが、可愛い絆創膏を使っていそうなイメージが俺の中でめちゃくちゃ強い。


この前秘密裏に男子だけで学校中の女子の人気ランキングなんかやっていたが、上から三人の中には入っていた。


さっき席交換を言ってきたあいつは湯布院と隣になりたかったのだろう。俺としては場所さえ悪ければ全然交換してあげたいくらいだ。湯布院の横など常に先生に見張られているのと全く変わらないと言っても過言ではないからだ。


「…どうぞお手柔らかに」


俺は移動したばかりの椅子に座り、机に肩肘を乗せ拳で頭を支えながら湯布院の方を向いた。


「君のサボり癖は色んな先生方からお話し聞いてるからね。私の接し方は阿坂君次第かな」

「はいはい…」


見惚れてしまいそうに美しいが、無表情とも見れるその生真面目な表情はどこか恐怖を感じた。こいつは眺める分には最高に眼福だが、逆に見られるとなると都合が悪い。これは長く厳しい二学期が待っていそうだ…。


「あれ〜?瀧弥たきや君よろろ〜ん」


俺が今後に絶望し大きな欠伸をしていると湯布院の逆側の席から明らかに頭の悪い挨拶が聞こえてきた。首だけ声の方へ向けた。おおかた誰かは分かる。俺のことを下の名前で呼ぶ女子などこいつ以外にいない。


「草津か」


草津胡桃くさつくるみ。随分と明るい茶色の髪をシニヨン、いわゆるお団子ヘアーで纏めている上、身長も150センチあるかないかの低身長、少女マンガか!と突っ込みたくなるようなぱっちり二重に出るところは特になしのロリ体型。小動物系と呼ばれるその人懐っこさを感じさせる性格は数多くの男子を勘違いさせ粉砕してきた天然の悪魔である。


ちなみにこいつがランキング1位だったりする。数多く男を下の名前で呼び、ボディタッチをして勘違いさせ告白された挙句には「え〜?付き合うとかは分かんないし無理〜」と一刀両断する彼女を恐れ、一部から「亜空気女」と呼ばれている。…ちょっと能力者みたいでかっこいいなと思った。


「草津じゃなくて胡桃って下の名前で呼んでよ!あたしも瀧弥君って呼んでるじゃん!」


プンプンと効果音が聞こえてきそうにまで頬を膨らませる草津。仕上げに駄々っ子のように腕を上下に振り回して大きくアピール、これが男落としテクニックの一つか。…なかなか手強いじゃないか。


俺は頬が緩んでないかを確認する為手で顔を隠しわざと咳払いする。


「いや頼んでないし、普通に阿坂呼びでいいから」

「え〜?だってそれだといいんちょーさんみたいに皆んなに怖がられちゃうじゃん!ふれんどりーが一番だよ!ふれんどりー!」

「あ、おい!」


草津は空気が読めない。(当社比)。こいつは天然で煽り性能が高い上に容姿もいい為女子からの評価は軒並み低い。それでいてなかなかの毒舌ときたから本当に目が当てられない。


「は?私怖くないんですが?」


凍て付くような低い声を出す湯布院。恐る恐る湯布院の方を向いてみると、口だけが笑っていた。目はただひたすらに睨むわけでもなく草津だけを刺すように見ている。小ちゃい子が見たら確実にトラウマだと思う。いや、湯布院さんめっちゃ怖いです。


「あ!ごめん、いいんちょーさんも瀧弥君の横だったんだね!」

「ええ、よろしくね草津さん。それより私怖くないよね?昔から笑顔の絶えない優しい子って皆んなから言われてるんですけど」


嘘つけ!なんて言えるわけもなく俺は選択コマンドから黙秘を選んだ。


「いやいや怖いよ〜。だっていいんちょーさん自分のあだ名知ってる?」

「私のことを『鉄仮面』だなんてふざけたあだ名で呼んでいる人がいるのは知ってる。でもあなたも大概じゃない?『亜空気女』さん?」

「それって勝手にあたしが向こうに好意を抱いてると思われて友達でいたいって言ったら、『空気感が分からない。亜空間だ』とかで付けられただけなんだけど〜」

「あなたは確かに距離感がおかしいですからね」

「いいんちょーさんが怖いから誰も近寄ってくれなくて、普通の人の距離感わかってないだけじゃない?」

「わかってますけど?」


こいつらが直接話してるのを今まで見たことがなかったから知らなかったが、間違いなく相性は最悪なのが分かった。水と油。竜と虎。犬と猿。例えはどうでもいいがこいつらはそれだ。俺が今仮に「お前らって犬猿の仲だな」なんて言ってしまえば、どっちが犬でどっちが猿だとかで口論になるのは火を見るよりも明らかだから黙秘を続行する。


二人の口論が自然と止むことはなく担任からうるさいと言われ、ようやく双方刀を鞘に収めた。


ああ…ちょっと席交換を断ったのがちょっと勿体ない気がしてきた今日この頃だ。

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クラスの委員長さんとゆるふわちゃんに挟まれて平穏じゃない件 蕨 来希 @fumitsukiraiki

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