レギュレーション:ペシウム

結騎 了

#365日ショートショート 210

「おお、どうしたウルティモマン。この星に帰ってくるのはいつぶりだ」

 宇宙の彼方、N88星雲。通称「光彩の国」にて。銀河警備職員ウルティモマンは、キングと呼ばれる彼の上官と面会していた。

「君は、地球という星で東郷とうごう秀雄ひでおなる男と一体化していたのではなかったのかね」

「その通りです」

 惑星そのものが放つ光が、ウルティモマンの銀色の体表を照らしていた。

「しかしキング、聞いてください。私はあることに我慢ができなくなり、ここへ直訴に来ました。東郷とは一旦別れてきたのです」

「ほう、それは由々しき事態だ。地球人との融合を簡単に切り離してはならぬぞ」

「だからこそ、です。キング、どうか私の訴えに耳を貸してください」

 ウルティモマンはゆっくりと、逞しい胸筋に手を当てた。キングはゆったり構えたまま、部下に発言を促す。「いいだろう、言ってみろ」

「ペシウム光線のことです」

 腕を十字に組み、ウルティモマンはポーズを取ってみせた。

「これです。ご存知、ペシウム光線です。我らが種族が体内に宿すペシウムエネルギーを、両腕をクロスさせ発生する磁場を介して直線状に放ちます。その高濃度のエネルギーは、銀河に散らばる害獣や犯罪宇宙人を粉々にするのです」

「そんなことは知っている。君もそのペシウム光線で地球の害獣を次々と撃破してきたはずだ。それがいったいどうしたというのだ」

「そ、それが。地球に派遣される前、あなたに言われたことが任務の足かせになっているのです。ペシウム光線は変身して早々に撃ってはいけない。それが、我々に課されたレギュレーションでしたね」

「その通り。それは守ってもらわなければならない」

「どうしてですか!」。ウルティモマンは静かに激昂した。「そのレギュレーションのせいで、私は何度も命の危機に陥りました。害獣に倒され、覆いかぶされ、たこ殴りにされたこともありました。泥水で体中を汚しながら、必死に抵抗するのも日常茶飯事です。時には溺れかけ、時には墜落しながら、それでもなんとか時間を稼ぎ、あなたに言われた約3分を目途にペシウム光線を撃っています」

「把握している。私はいつもちゃんと観ているぞ」

「しかし、キング。お願いです。我々の任務は害獣討伐です。変身してすぐにペシウム光線を撃てば、体力の消耗は最小限で済むのです。結果は同じではないですか。どうして3分も待たなくてはいけないのですか」

 沈黙が流れた。ぎらぎらと反射する光に照らされ、キングの顔の陰影が揺れ動く。思わず肩を震わせたウルティモマンは、上官の答えを待ち続けていた。

「ヌットフリックス」

 キングの言葉に、ウルティモマンは耳を疑った。

「えっ」

「だから言っているだろう、ヌットフリックスだよ。銀河最大の動画配信サービスだ。未曽有の財政難に陥った我が光彩の国は、数年前にヌットフリックと契約を結んだ。害獣討伐リアリティ番組。地球にも、その撮影クルーが派遣されているのだ」

「キング、なにを言って……」

「撮れ高だよ、ウルティモマン。君が怪獣を瞬殺でもしてみろ。週に一度、30分の枠で配信する番組が、成立しないだろう」

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