4-4

 俺は急いで扉を開けた。

 ニックがクリスを片手で抱え上げて中に引き込む。

「クリス、大丈夫?!」

 俺はやつの腕からクリスをもぎ取った。濡れた金髪が首筋にべったりまとわりついて、顔色はニックに血を吸われた直後より真っ青だったが、俺の腕を押し返したから意識はあるみたいだ。

 信徒席に座らせてやると、クリスはそのまま両手で顔を覆ってしまった。

 ニックに飛びかかろうとふりむいたときだった。

「な……なんなんだよ、あんたたち……」

 やっべえ、こっちのことをすっかり忘れてたよ。

 ダニエルは石の台座に背中を押しつけてガタガタ震えている。そりゃそうだよな、ゾンビに襲われそうになったと思ったら、死人みたいな顔色の男が神父に咬みつくし、おまけにそいつが二十歳も若返るのを見たら、自分の頭がおかしくなったのかと思うのも当然だ。

 ニックはそんなダニーを冷たく見下ろして、

「騒がれるのも面倒だな」

「ダニーに手を出したら許さないからな!」

 俺はふたりのあいだに割り込んだ。

「勘違いするな。記憶を消すだけだ。マクファーソン神父のおかげでほぼ完全に力を取り戻せたし、ちょっとしたサービスというところだな。お前だって、死人がよみがえった教会なんて噂が広まったら困るだろうが」

「そりゃ、そうだけどさ……」

 なにがサービスだよ。当人の許可なく術をかけるなんてサイテーじゃないか。

「けどさっき、ダニーのこと、悪魔憑きだから関わりたくないって言ったじゃないか。あんたがダニーにちょっかいをかけたら、中にいるやつに気づかれるんじゃないのか?」

「今は気配がしない――一時的に離れているんだろう。やつらは自分の領分を侵されると激怒する。だから、やるなら今だぞ。少なくとも私は、平穏な生活を望んでいるんだ。ゴースト・バスターズ気取りのやつらに追い回されたくはないんでね」

 それを言うなら、ヴァン・ヘルシング教授気取りのやつら、だと思うけど。

「お、俺……あんた……あなた……のこと、絶対に、誰にも言ったりしません。神様に誓って……」

 神様、という言葉もこの冷血漢には通用しなかったらしい。やつのグレーの目が、運悪く上を向いていたダニーの視線とぶつかった瞬間――サイレンの音が聞こえた。

「警察だ」俺は言った。

 ニックは舌打ちしてダニエルから視線を逸らした。ダニーはほっとしているみたいだが、わけがわからないって顔をしている。外はまだけっこうな勢いで雨が降っているし、距離もあるから、ダニーの――ふつうの人間の耳には聞こえなかったんだろう。

 俺は小窓に近寄った。

「誰が通報したんだろう? この暗さじゃ、表からはほとんど見えないと思うんだけど」

「どこにでもお節介なやつはいるものだ」

「どうしよう……クリスはあんなだし」

「死体が動いていたなんて与太話を信じる警察がいるとは思えんね。マクファーソン神父がああでは、私ひとりで後始末をするのはいささか骨だからな。動かない死体相手なら、警察に、埋め戻すのを手伝ってもらえばいいだろう。警官の人数が少なければ、できるが」

「なんとかってなんだよ」

 サイレンの音ははっきり聞こえるようになり、それに気づいたらしいクリスが立ち上がった。顔が真っ青だ。ニックと同じくらい死人に近い。

「クリス! 座ってなよ」

 俺は駆け寄って、肩を押してもう一度信徒席に座らせた。

 ちくしょう、だから言わんこっちゃない、やつに血なんか吸わせるべきじゃなかったんだ。クリスになにかあったら、今度こそお前の首を嚙み切ってやるからな。

 ついでにダニーを助け起こして信徒席に座らせる。ニックだけが悠々として、扉とベンチのあいだに立っている。

 やつがなにを考えているのかわからないけど――やっぱりダニーの記憶をいじってもらったほうがよかったとか思うようなことにならないよな?

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