Uninvited Guest

2-1

 見慣れない顔に出会ったのは、その週の金曜日の夕方のことだった。

 私の目はディーンほどよくないので、裏の墓地に通じる角を曲がったところではじめて誰かがたたずんでいるのに気づいた。

 はじめは不動産業者かと思った。住宅の多い地区ブロックで、ピンストライプのネイビーのスーツに革靴は、どう見ても、散歩に出てきた人には見えなかった。

「こんにちは」

 私が近くに行って声をかけると、彼もこちらに顔を向けて、かるく会釈した。

 少しグレーがかかった頭髪からすると、年齢は五十代半ばにさしかかったころか、実際はそれほどでないとすれば四十代の働き盛りといった感じで、ウィンドウに並べられた商品を見に来ただけというように、両手をゆったりとうしろ手に組んでいる。

「素朴な教会ですね」彼は緑青のふいた屋根を見上げた。疲れたような細い皺が刻まれた口元がふっとゆるみ、冷たい感じのするグレーの双眸が黄昏の光に細められる。「アイルランドの古い教会を思い出す」

「ええ、落ちつくんです」

「あなたがここの? 年配の神父さんがいたとうかがったんだが……」

「サルヴァトーレ・レオーニ神父でしたら、一昨年おととし亡くなりました。今は私が」

「それはそれは」彼はなにかを思いついたように、白い歯並びを見せて笑った。「ではあなたが、ボストンから来られたというマクファーソン神父?」

「そうです。クリスといいます」

「これは失礼、申し遅れましたが私はドミニク・ノーランといいます。最近引っ越してきたばかりで、こちらの話を聞いたんですよ。しばらく教会には足を踏み入れていないもので、このあたりで神と対話をするのも悪くないと思ったものですから」

「歓迎しますよ――告解を?」

 冗談めかして言うと、ノーラン氏はちょっと鼻白んだように、

「告解室はやめましょう。私は閉所恐怖症なんです。ほかにどこかありませんか、ほかの人に話を聞かれなくてすむような」

「でしたら……」

 聖堂にはまだ何人か近所の老婦人が残っていたっけ……。

「司祭館はいかがですか。今は私と助手のふたりしかいませんから」

「そうですか、ではお言葉に甘えて」

 教会の横手に回るあいだに、ノーラン氏は、自分は(不動産業者ではなくて)投資家なのだと自己紹介した。

「都会も悪くないですが、少々うるさいと思うようになってきましてね。こういう、田舎と都市の中間地点にあるような場所が、おだやかに過ごすには一番向いていると思いませんか……」

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