第三百六十九話 お礼と別れ
テントを建てて夜ご飯を作り、みんなでご飯を囲みながらゆっくりと何があったのかを説明した。
説明だけでかなりの時間を使ってしまったけど、時間をかけたこともあって二人にはしっかりと理解してもらうことができた。
「なるほど! そのフワフワ浮いている魔物は元魔女だったんですかい! 一瞬、ルインが操られているんじゃないかと思いやしたぜ!」
「私も流石に驚きましたね。でも、ライフの自生場所を教えてくれたりと親切にしてくださったようでありがとうございます」
「お礼なんかいらないよ! 私もルインに助けてもらったから、そのお礼をしただけだから!」
すっかり打ち解けてくれたみたいだし、ひとまず安心だ。
あの白い建造物まで案内することも納得してくれたし、後はペトラニーラさんを建造物まで案内してから、ヒューに抜け道を教えて帰るだけ。
火を囲みながら、お互いの冒険譚のようなものを話し合い、あっという間に時間は過ぎていった。
楽しかったキャンプから一夜明け、疲れも取れたし辺りも明るくなっている。
さっさとテントを片付けてから、帰路につくとしよう。
寝起きの悪いスマッシュさんを起こし、軽い朝飯を食べてから出発。
遠くからでも分かる白い建造物を目指して歩を進めた。
『トレブフォレスト』を出発してから、約二時間ほどで昨日訪れた白い建造物まで戻ってくることができた。
何度見てもやっぱり不気味で、研究内容が内容だけに入るのも躊躇ってしまう。
「ここが昨日話した研究施設です。何か分かりますか?」
「うーん……。外からじゃ長いこと使われていないってことぐらいしか分からないなぁ。でも、私が閉じ込められる前までは確実になかった建物なのは間違いない!」
「ということは、最近建てられてすぐに使われなくなったってことですかね?」
「最近って言っても、百年以上は経っているかもしれないけど……まぁそういうこと!」
これだけ大きな建物をわざわざ作ったのだから、すぐに使われなくなるってことはあり得ないと思ってしまう。
しかも実験は成功させている訳だしね。
「魔王というのものが益々分からなくなった気がします。莫大な労力を費やしたのに捨てるなんて」
「既に費やした労力に見合うだけの何かを発見したのかもしれないね! とりあえず私は色々と調べる予定だから、何か分かったらルインにも教えるよ! だからさ、また遊びに来てね!」
「はい、必ずまた遊びに来ます! ペトラニーラさん、本当にお世話になりました!」
ふわふわと浮いているペトラニーラさんに、深々と頭下げてお礼の言葉を伝えた。
交流した時間は短かったけど、本当にお世話になったし絶対にまた会いに来る。
俺は強くそう心に決め、お世話になったペトラニーラさんと別れを告げた。
それからは、ひたすら天爛山を目指して来た道を引き返していく。
逸る気持ちをなんとか抑えながら、くれぐれも魔王軍の監視兵器には気をつけつつ歩を進める。
ハエ蛾と戦った場所を抜け、ようやく深い森が見えてきた。
この森を西に向かって進んで行けば、デルタの泉が現れるはず。
デルタの泉まで辿り着いてしまえば、一息つけるし天爛山ももうすぐ近くと言える。
見えてきたゴールに体力の疲れも吹っ飛び、スマッシュさんの索敵を頼りに森を更に進んで行った。
「なんとも不思議なものですね。行きはあれだけ不安でしたのに、帰りはこんなにも楽に進めるんですから」
「向かうべき場所があるってのが大きいでさぁ! 行きにここを通った時は、何処に進めばいいのかも分かりやせんから!」
「慣れもあると思います! 未知から見知った場所になる訳ですからね」
「色々と油断しそうになりやすが、気を引き締めて帰りやしょう!」
そんな会話を挟みながら、深い森を進んで行くこと約半日。
行きはもっと時間がかかった気がするのだが、ほぼ半分の時間でデルタの泉までやってきた。
とりあえずこの泉で一泊して、一気に天爛山から魔王の領土抜け出す。
魔王の領土で魔物から襲われる心配のない唯一の場所だし、しっかりと英気を養わないといけない。
「やっぱりこの泉はいいでさぁ! 魔物がいないってだけで気分が晴れやかになりやすぜ!」
「ここは本当に魔物が多いですからね。下手したら、ダンジョンよりも魔物が多いかもしれません」
「ダンジョンは定期的にセーフエリアがありましたもんね! 魔王の領土はこれだけ広いのに泉の周辺だけ。教えてくれたヒューには感謝しかないです」
「そういえばヒューに抜け道を教えるんですかい? 約束してやしたよね?」
「約束ですので教えますよ! この泉に偶然来てくれればいいのですが、この間のようにスマッシュさんに侵入してもらうことになるかもしれません」
危険なお願いになるが、流石に約束を反故にする訳にはいかない。
ヒューが村の人に話を通しておいてくれていたら、かなり楽に事を進めることができるのだけど……。
仮に話を通してくれていたとしても、確証が持てない内はこっそりと侵入するしかない。
「あっしは構いやせんぜ! 見つかっても簡単に逃げられやすし、そもそも一度侵入した場所なら朝飯前でさぁ!」
「本当に頼りになります! 明日朝一に泉を出て、すぐに村へと直行しましょう」
「夜にこっそりとヒューの下に向かってもいいんですけどね。夜に動く方が目立たないでしょう」
「夜になんか絶対に行かないですぜ! あっし程ではねぇですが、ディオンも隠密行動は得意でさぁ! 行きたいならディオンが行ってくだせぇ!」
「私は……寝ますよ。明日に備えた方が賢いですから」
「なら夜に動けとか言うんじゃねぇでさぁ! あっしが馬鹿だから行くと思ったんですかい? …………おい、ディオン! 無視するんじゃねぇ!」
そんなディオンさんとスマッシュさんのやり合いを楽しく聞きながら、俺は明日に備えてデルタの泉で体を休めたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます