第三百六十八話 帰還報告
ペトラニーラさんの家から『トレブフォレスト』の入口までの道のりは、魔力を張り巡らせることで視界を確保できるようになったお陰で、行きよりも何倍も楽に戻ることができている。
残りの魔力についてはかなり気になったけど、これだけ常に魔力を放出していてもまだまだ余裕があることから、魔力溜まりの洞窟で魔力を成長させた成果は予想よりも大きかった。
ちなみに、行きの道中で俺が一振りで両断した魔物も確認したけど、戦いながら想像していた通り人工魔物だったらしい。
ダンジョンには大きな魔力塊があり、そこから地形を変形させたり魔物を生み出したりしているけど、この魔物の死体には極小の魔力塊が埋め込まれていた。
構造はよく分からないけど、ダンジョンから発想を得て作られた人工魔物のようで、かなり革新的な技術が使われているとペトラニーラさんが言っていた。
知識の深いペトラニーラさんに驚きがあるけど、人工の魔物が実在することが本当に恐ろしい。
魔王軍の兵がほぼ無限に近いのではと恐ろしいことを考えつつも、俺は無事に『トレブフォレスト』の入口へと戻ってくることができた。
森の入口にはディオンさんとスマッシュさんの姿があり、色々ありすぎたせいで別れてからそこまで時間が経過していないのに久しぶりのように思えるな。
「ディオンさん、スマッシュさん! 無事に戻ってきました!」
「おお、ルインッ! 無事だったんですかい!! 全然戻ってこないから本当に心配しやした!」
「ディオンさんの言う通り、本当に心配しましたよ。何度も森に入ろうか思って、あと一時間戻ってこなければ探しに行っていたところでした」
「ご心配おかけして本当にすいません。――ですが、無事に『生命の葉』を採取してきました!」
俺がそう告げると、二人は目を見開いて驚きの表情を浮かべた。
まさかこの短期間で見つけてくるとは思っていなかったらしく、ディオンさんですら口をパクパクとさせたまま声にならない声を上げているぐらい。
「……そ、それは本当ですかい!? 森に入っていく時に見つけてくるとは言ってやしたが、本当に見つけてくるとは思ってもいやせんでした!」
「わ、私はそんな植物が実在していたことに対しての驚きも大きいです。ルイン君、本当によく見つけてきてくれました!」
「ちょっ、ちょっとその実物を見せてくれやせんか!」
「見せたいところは山々なのですが、今は手元にないんです」
俺のその言葉に、今度は眉を大きく潜めながら首を傾げた二人。
別にからかっているとかではないんだけど、これじゃ状況的におちょくっているような感じになってしまっているな。
「ルイン、それはどういう意味ですかい? 採取はしたけれど、実物は手元にない……?」
「二人は『竜の谷』の洞窟のことは覚えていますか?」
「『竜の谷』の洞窟? もちろん覚えていますよ。ルイン君の気が触れたのかと心配しましたし」
「ずーっと引きこもって変な葉っぱだけを食ってた洞窟ですかい? あの時はあっしも本気で心配しやした!」
改めてその時の話をされると、少しだけ罰が悪くなる。
詳しく説明することもなく二人を待たせ、一人で勝手に洞窟に潜っていたからな。
「そうです! その時と同じなんですよ。俺は魔力を消費することで植物を生成できるので、生命の葉……本当の名前はライフというんですけど、ライフを生成できるようになったんです」
「そういうことですか。ルイン君が食べた植物を生成できるようになるってことですね。……ということは、今でも生成できるということではないのですか?」
ディオンさんにそう言われた通り、実は今すぐに生成できないかを試しているけど何度やっても生成されない。
多分だけど、常に魔力を張り巡らせていたせいで魔力を消費しすぎているのだと思う。
もしかしたら、完全に回復しても魔力が足らない可能性もあるけど……。
その時はまた『魔力溜まりの洞窟』に赴いて、で魔力の上限を高めればいいだけ。
以前枯渇させてしまったものの、日がかかるだろうけどいつかまた魔力が溜まると思うしね。
「今は魔力残量が足らないようで生成できないんです。寝て、魔力を回復させれば生成できるようになると思います」
「それじゃ今は、ルインの魔力回復待ちってことですかい! 採取したけど手元になって理由は理解できやした!」
「はい。……ということですので、何か面倒ごとに巻き込まれる前に魔王の領土から抜け出しましょう! とりあえず今日は寝て、明日の朝一でここを離れるってことで大丈夫ですか?」
「私は大丈夫です。特に準備するものもありませんので」
「あっしも大丈夫ですぜ! いつでも帰れる支度は整ってやす!」
「そういうことでしたら、ここで一晩休んでから朝一に出発しましょう」
二人への諸々の説明も終わり、明日の朝一で出発することに決まった。
あとは無事にこの魔王の領土を抜け出すことができれば、アーメッドさんにライフを届けることができる。
疲れているし体を休まなくてはいけないのだけど、逸る気持ちで心臓がドキドキし始めたその時――。
「……ねぇ、ルイン。そろそろ私を紹介してくれないかな!?」
背後から急に声をかけられ、俺もディオンさんもスマッシュさんも一斉に飛び跳ねる。
俺が飛び跳ねるのはおかしいけど、完全に虚をつかれたこともあって高鳴っていた心臓が更に鼓動を早めた。
「――ビックリしたぁ……。すいません、ペトラニーラさんのことを紹介するの、すっかりと忘れていました」
「だと思った! 私を放置して三人で楽しそうに話し始めるんだもん!」
「ル、ルイン! なんなんでやすか! そのガスみたいな魔物は!?」
「言語を話している……? ルイン君、操られているとかではないですよね?」
辺りが暗くなっていたこともあり、今の今までペトラニーラさんに気が付いていなかった二人が武器を構えて警戒してしまっている。
これはペトラニーラさんの説明だけでかなりの時間を要することになりそうだな。
俺は『トレブフォレスト』で何があったのかを全て話す覚悟を決め、ディオンさんとスマッシュさんへの説明を開始したのだった。
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