第三百六十七話 念願


 俺は興奮する勢いそのままにライフを採取しようとしたが、ギリギリでその手を止めた。

 付近を探しても自生しているのは目の前にある一本だけで、他に生えているライフは確認できない。


 植物というものは基本的に、採取した段階から栄養が摂取できずに枯れ始めてしまうため、ランダウストに戻る前に完全に枯れてしまうと予想できる。

 一本しかないライフを摘む前に、枯れてしまっても効果があるのかどうかの確認がまず先だ。


「ペトラニーラさん、この白っぽい桃色の葉がライフでした!」

「おおっ、おめでとう! 生えてなかったら申し訳なかったから、生えててくれて一安心したよ!」

「見つけることができたのはペトラニーラさんのお陰です! それでなんですが、ライフって枯れても効果は残るものなんですかね?」


 俺がそう尋ねると、ゆらゆらと揺れながら黙り込んでしまった。

 そしてしばらく上下に移動しながら揺れた後、ようやく言葉を返してくれたのだけど……。


「ごめん、分からない! 普通に考えたら、完全に枯れたら駄目だとは思うけどね!」

「やっぱりそうですよね。となると、やっぱり選択肢は一つしかないかな」


 枯れてしまったら元も子もない訳だし、自分で食べていつでも生成できるようにする方が良い。

 元から摂取するつもりだったけど、一本しか生えていないということで悩んでしまった。


 レベルも???だし、俺自身かなりの魔力を保有しているけど生成できない可能性が脳裏に過ってしまったのだ。

 ただ、どちらにせよ摂取しなくてはいけないというのであれば、悩む理由はどこにもない。


 俺は生命力溢れる樹の根元に生えているライフを採取すると、そのまま一気に口の中に入れた。

 味はほとんどなく無味無臭に近い。いや、若干柑橘系の良い香りが鼻を抜ける感覚がある。


「え? ええー!? なんで食べちゃったの!? 枯れたら効果がなくなると言っても、一本しかないんだよ!」


 俺の奇怪な行動に大きな声を張り上げたペトラニーラさん。

 その突然発せられた大声に驚いたせいで、ただでさえ味が薄いライフの味を完全に見失ってしまった。


「落ち着いてください。食べても大丈夫なんですよ。むしろ俺が食べた方が良いまでありますので!」

「ちょっと言っている意味が分からない!」


 騒ぐペトラニーラさんに説明するのに結構な時間がかかったが、何とか説明して理解してもらうことに成功。

 とりあえずこれで目的は果たした訳だし、後はランダウストに戻ってアーメッドさんに使うだけとなった。



「ペトラニーラさん、色々とありがとうございました! お陰様でライフの採取を行うことができました!」

「こちらこそルインのお陰で抜け出すことができたから! ありがとね!」


 来た道を戻り、ペトラニーラさんの家の前まで戻ってきた俺は改めてお礼を告げた。

 本当に偶然この場所を発見し、ペトラニーラさんを助け出すことができたのが幸運だった。


 あの魔法の結界で引き返していたら、多分ライフを発見することはできなかったと思う。

 それぐらい『トレブフォレスト』は未知すぎる森だったし、案内してもらえなければ特定の植物を探し出すなんて不可能な場所だと実際にライフを採取して思った。


「俺が助け出せたのは本当に偶然なのでお礼なんていらないです! それで……ペトラニーラさんはこれからどうするんですか?」

「うーん……分からない! この体だと不便だし、魔法も全然使えないからね! もっと良い体に変われるような研究から始めようかなとは思ってる!」

「それじゃ、この家にしばらくいるんですか?」

「そうなるね! 長年閉じ込められて飽きてはいるけど、研究できる場所が他にないからさ!」


 アーメッドさんの件が済んだら、ペトラニーラさんには改めてお礼をしに来たいと思っていたから残ると聞けたのは良かった。

 また改めて尋ねます――俺はそう言いかけたのだが、ふと一つ思い出したことがあった。


「……そういえば一つ思い出したんですけど、『トレブフォレスト』に来る道中に何かの施設のようなものを見たんです。ペトラニーラさんは何か知っていたりしますか?」

「何かの施設? 情報が少なくてちょっと分からないな!」

「白くて高い塔のような建造物で、もう何年も使われていないようでしたが何らかの研究を行っていたみたいなんです。見た限りでは人を魔物に変えるような実験をしていたような感じがしました」

「全然知らない! 多分だけど、私が閉じ込められてから建てられた施設なんじゃないかな? それにしても、人を魔物に変える研究か……。ルイン、一つお願いしてもいい?」

「お願いですか? もちろんです! 俺にできることでしたら何でもやらせてもらいます」

「良かった! それじゃさ、私をその研究施設まで案内してくれる?」


 研究という言葉で思い出したのだが、まさか案内してくれとお願いされると思っていなかった。

 まぁでも、あの白い建造物は帰る際に絶対に通る訳だし問題ないか。


「別に構いませんよ。ペトラニーラさんはその場所で研究を行うんですか?」

「それは行ってみないとまだ分からない! まぁそこで研究するか、この家に戻って研究するかの二択だとは思うよ!」

「そうなんですね。お礼を言いに改めて訪ねに来ますので、その時に何か分かったことがあったら是非教えてください。色々と気になりますので!」

「もちろん! ルインがまた来てくれるのは嬉しいな!」


 そんな会話をしながら、俺とペトラニーラさんは『トレブフォレスト』を抜けるために入口へと目指した。

 既に日が落ち始めており魔力を張っても暗いのだが、行きはこの暗さで歩いてきたから問題ない。

 ただ、ディオンさんとスマッシュさんは心配しているだろうし、少しでも早く戻るために早足で帰路へと着いたのだった。



―————————————


6/12(月)の18時から新作を投稿致します。

よろしければ見て頂ければ幸いです!

何卒、よろしくお願い致します <(_ _)>ペコ

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