第三百六十六話 生命力


 両手の中に留めるのでさえギリギリだったのに、自分の周囲に広げるなんて不可能に近い。

 これは別の方法を模索するしかないのか?

 ……それこそ、魔法陣を破壊して【ブレイン】の魔法を止めた方が早い気がしてきた。


「いやいや、そんな難しくないよ! 何事もゼロから一にするのは大変だけど、一から十にするのは簡単だから! 二時間くらいはかかるかもしれないけど、日が落ちる前までに習得できる――はず!」

「それ本当ですか? 二時間で習得できる気が一切しないんですけど」

「大丈夫大丈夫! 駄目だったら私の家に泊まればいいよ! 汚いけど屋根があるだけマシでしょ?」


 その提案はありがたいけど、【トレブファレスト】の入口にディオンさんとスマッシュさんを待たせている。

 心配して探しにきちゃう可能性が十分にあるため、習得できなかったら一度戻りたい気持ちがあるけど……流石に一日ぐらいは俺を信用して待っていてくれるか?


 何はともあれ、俺が日が落ちる前に習得してしまえばいいだけ。

 これまで以上に集中力を高めてペトロニーラさんの指導の下、魔力の円を広げる練習を始めた。



 練習を開始してから、約二時間が経過した。

 ついさっきまで手の中でしか魔力を留めることができていなかったが、なんとかコツを掴んで自分の半径五メートルほどまで広げることができた。


「おー! これだけ広げることができれば十分だよ! 時間もギリギリ間に合った!」

「ペトラニーラさんの指導のお陰です。ご指導ありがとうございました」

「私は何もしてないから! ルインの魔力量の多さで補った感じだしね! まだ魔力は切れてない?」

「ええ、まだ大丈夫です。日が暮れる前に探しに行ってもいいですか?」

「うん。案内するから行こう!」


 再び、【ブライン】の魔法が影響されている場所まで向かう。

 魔力で防げるため、今度は大丈夫だと思うんだけど……。

 本当に暗闇を防ぐことができるのか若干不安になりつつも、俺は魔力を周囲に覆わせてから一歩踏み込んだ。


「おおっ! 本当にちゃんと見えます!」

「だから言ったでしょ? これだけ見えたら迷うことはないね!」

「ですね。暗くて全く分からなかったですが、至って普通の森なんですね」

「私が【ブライン】の魔法を張り巡らせる前は、本当にごく普通の森だったよ! 唯一珍しいものといえば、ルインも探している『ライフ』ぐらいだね」

「さっきもそう言ってましたもんね。やっぱり生えていない可能性の方が高いんですか?」

「今のルインのように、ライフを求めて色々なところから『トレブフォレスト』に来てたから数は本当に少なかった! 数年に一本見つかれば良い方だったね!」


 数年に一本か……。

 その効能から分かってはいたけど、やはり相当希少性の高い植物のようだ。


「やっぱり見つからない可能性の方が高いんですね。今の内から、見つからないのが当たり前の精神でいます」

「精神衛生上はその方が良いと思う。……でも、私が言っているのはあくまで【ブライン】を張り巡らせる前の話だから! この視界の悪さのお陰で、どうやら人だけじゃなくて魔物や動物も数を減らしているようだし、もしかしたら自生している可能性は高いかもしれない!」


 そう期待が上がるような言葉をかけてくれたが、ガッカリしすぎないためにあくまでも見つからない前提でいる。

 魔王の領土への入り方も、『トレブフォレスト』の場所も、『トレブフォレスト』内での視界の確保方法も知ることができている状態だからな。


 今回見つからずとも、再び訪れて探しに来ることは容易くできる。

 そんなことを考えながら、ペトラニーラさんの後をついて『トレブフォレスト』を進んで行った。


 ペトラニーラさんの家から一時間ぐらい進んだ頃、少し遠くに見える一本の樹が俺の目に止まった。

 決して大きい樹ではないのだが、なんというか……神秘的な雰囲気を感じる樹。


「ペトラニーラさん。あの樹って何の樹だか分かりますか? 凄く気になるんですよね」

「おっ、流石はルイン! ライフと関係している樹だよ! あの樹は生命力が凄まじくて、あの樹の根元にライフが生えてくることがあるの!」

「やっぱりそうだったんですか。なんか神秘的な感じがするんですよね」


 よく分からないけど、神秘的な感じというのが生命力なのだろう。

 ライフを採取できるか、あの樹の根元を探せば分かるという訳か。


 日も沈み始めているため、早いところ確認して――できれば採取したいところ。

 心臓がバクバクと高鳴るのを感じつつ、俺は早足で見えた神秘的な樹の下へと向かった。


「見えてきたね! 根本には植物が結構生えているけど、ライフはあるかな?」


 ペトラニーラさんの言う通り、樹の根元には様々な種類の植物が生えているのが見える。

 生い茂っている植物からも、どれかがライフなのではないかと思うが……。


「うーん……。駄目だ! ライフがどれなのか忘れちゃってる! 樹は見た瞬間に思い出せたんだけどなぁ」


 俺よりも先に樹の根元まで飛んでいき、確認してくれていたペトロニーラさんはそう呟いた。

 普通ならば落胆するところだが、俺には【プラントマスター】で植物を鑑定することができる。

 種類が多いけど片っ端から鑑定していけば、ライフがここにあるならば見つけられる。


「大丈夫です。俺は植物を鑑定することができますので! 鑑定するので待っててもらっていいですか?」

「植物の鑑定? ルインも凄い能力を持ってるね!」


 ペトラニーラさんには少し待っていてもらい、俺は神秘的な樹の根元にある植物を端から鑑定していく。

 所々、気になる効能を持つ植物もあったのだが、俺の今の目的はライフただ一つ。

 余計なことを考えず、ひたすらに鑑定していくと――。


【名 前】 ライフ

【レベル】 ?

【効 能】 蘇生

【繁殖力】 極低

【自生地】 トレブフォレスト


 一本の植物を鑑定した瞬間に、ライフの情報が頭に飛び込んできた。

 白っぽい桃色の葉で、儚さを感じるような綺麗な一枚の葉。


 効能にはしっかりと蘇生と鑑定されており、名称からもこれの植物が俺が探して求めていた生命の葉で間違いない。

 思わず涙しそうになったけど……まだ目的は達成されていない。

 溢れそうになる涙をグッと堪えて、ようやく見つけたライフを俺は採取したのだった。


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