第三百六十三話 魔女
「閉じ込められた理由? 随分と昔のことだし、あまり覚えていないんだけど……確か危険とかそんな理由だった気がする!」
「危険……ですか? 魔族だった時のペトラニーラさんは、物凄い力を持っていたとかでしょうか?」
「うーん。力は持っていたと思うけど、危険だと思われたのは魔法の研究をしていたからだと思う。現に魔法に関する資料は全て焼き払われちゃったしね!」
魔法の研究が危険だと思われた?
聞いてみたはいいものの、未だにこの部屋に閉じ込められた理由にピンと来ていない。
すぐに生命の葉についてを尋ねた方がいいのだろうが、こっちも気になってしまっているためもう少しだけ聞いてみよう。
「ということは、危険な魔法を研究していたんですか? 魔法についてはよく分からないのですが、禁術みたいな魔法を開発していたりとかでしょうか?」
「流石に開発はしていなかったけど、禁術についても研究していたよ! でも、魔王が恐れたのは禁術なんかじゃなくて別の研究についてだと思う」
「禁術よりも恐れていたもの? ……俺なんかじゃ検討もつかないですね」
「誰でも簡単に魔法を使う方法。魔族だった時の私はその研究をしていて、実際に完成にまで至ったんだよ! 凄いでしょ!」
誰でも簡単に魔法を使う方法の研究を行っていて、その研究をペトラニーラさんは成功させたのか。
確かに凄いけれど……その事象と危険だから閉じ込めるという結論に至った経緯が結びつかない。
「本当に凄いことだと思うんですけど、どうしてそれで閉じ込められたんですか? 誰でも簡単に魔法を使える方法があるなら国力アップにも繋がりますし、魔王にとっても良いことな気がするんですけど」
「まぁ魔王にとっては非常に邪魔だったってことだろうね。……ルインは魔王の城がある街については知ってる?」
「はい、知ってますよ。この魔王の領土の中心にあるインセントの街ですよね?」
「そう、インセントって街! そのインセントでは階級がハッキリと分かれていて、大半が奴隷階級で同じ魔人ながらコキ使われているの。……もう察しがついたかもしれないけど、魔王は簡単に魔法を使う方法が広まることで奴隷として扱っている魔人に力を持つことを恐れたのよ。そうならないために、先に私を潰そうと考えた――っていうのが理由!」
感性が一般人な俺からみたら、無茶苦茶なことをやっているようにも思えてしまう。
ただ、反乱を起こさせないように力を持たせないというのが、魔王の考えということ。
……何よりもそんな無茶苦茶な理由のために、この部屋に閉じ込められたペトラニーラさんが不憫すぎる。
「ペトラニーラさんは巻き込まれた感じだったんですね。出会うなり叩き斬ろうとして本当にごめんなさい」
「知らなかったんだしいいって! それに前々から忠告を受けていたのを無視して、魔法の研究を続けてたから自業自得の部分もあるしさ!」
「なんでそこまでして魔法の研究をしていたんですか? 魔王の考えとは逆で、みんなに均等に力を得る権利を与えるためでしょうか?」
「そんな崇高な考えなんてないない! ただの好奇心? 探求心?——そんな感じかな! 自分が知りたいから研究していただけ!」
結果として魔物になってしまい、長い年月この家に閉じ込められることになってもこの明るさがあるのは後悔がないからだろう。
人間である俺とは相容れないであろう、元魔族で今は魔物というペトラニーラさんだけど、素直に生き方に憧れてしまうな。
「色々と教えて頂きありがとうございました。魔女と聞いて恐れていた自分が恥ずかしくなってきます」
「私も色々と話せて良かったよ! 次は私から質問していい? ルインは何でこの家にやってきたの? 何か理由があるんだよね?」
その質問をされ、一瞬頭から抜け落ちていた生命の葉についてを思い出す。
丁度いい質問をされたし、質問で質問を返すのはどうかと思うけど聞いて見ようか。
「実は生命の葉という植物がこの森にあると聞いてやってきたんです。それで植物を探しながら彷徨っていたら、偶然この家を見つけて中に入ったって経緯ですね。……ペトロニーラさんは生命の葉について何か知ってたりしませんか?」
「生命の葉? 生命の葉って植物に聞き覚えはないけど、『ライフ』って植物ならこの森に生えているよ!」
「ライフですか? それってどんな植物なんでしょうか?」
「死者の魂を元の体に戻す植物。簡単に言うと死んだ人を生き返らせる植物だね!」
サラッとそう説明したペトラニーラさんの話を聞き、俺は思い切りガッツポーズを取った。
間違いなく、俺の探していた生命の葉とライフという植物は同じもの。
まだ実際に見つけた訳ではないんだけど、諦めずに探して良かったと感極まってくる。
「ちょ、ちょっとどうしたの!? もしかしてルインはライフを探してこの森にやってきたの?」
「はい、そうです! どうしても生き返らせたい人がいまして、色々な場所を巡りに巡って探していたんですよ」
「そっか……。なら、私を助けてくれたお礼にライフが自生している場所まで案内してあげるよ! かなり珍しい上に生える条件も厳しいから、行ったところで生えているかは分からないんだけどさ」
「いいんですか? 是非、案内をしてくださると嬉しいです!」
「あまり過度な期待はしないでね? 今言った通り、実際に生えていないことの方が多いから!」
「大丈夫です。何の手掛かりもなく森を彷徨っていましたので、この森に詳しいペトラニーラさんに案内して頂けるだけでもありがたいです」
「分かってくれてるならいいけど……それじゃ早速向かおうか! ふふふ、久しぶりに外に出られるの楽しみだな!」
ウキウキした様子のペトラニーラさんの後を追い、二人で生命の葉を探すことになった。
あの暗闇の中で霧状のペトラニーラさんの後をついていけるかだけが心配だけど……。
何はともあれ、生命の葉まであと一歩というところまで来れたことへの嬉しさが凄まじいな。
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