第三百六十一話 魔法の障壁
目の前にある魔法の障壁が割れた音がしてから、俺はその場でしばらく身構えたまま立ち尽くす。
障壁を壊したことで何か起こるかと思っていたけれど、特に何も起こらないまま数分が経過。
流石にこれ以上待っても何かが起こる気配もないため、俺は意を決して魔法の障壁があった位置へと足を踏み入れる。
先ほどまではビリッという電気に近い痛みが体を襲ったが、障壁を壊したお陰で何の弊害もなく先へと進むことができた。
そこからも暗闇が続き、そんな暗闇の中を歩き続けていたのだけど……とある地点から急に目の前が一気に明るくなった。
この数時間ずっと暗いままだったし、急な明るさに驚いて俺は思わず目を閉じてしまう。
薄目にして徐々に光に目を慣れさせ、ゆっくりと瞼を開けていったことで俺は目の前に広がる景色を視界に捉えた。
俺は光が差したことで、てっきり『トレブフォレスト』を抜けたと思っていたのだけど、目の前に広がっていた光景は草木の広がる森の中。
ただ普通の森の景色ではなく、小さな池と人工的に作られた小さな道。
その道の先には紫色の屋根の家が建っているのが見えた。
俺が思っていた以上に『トレブフォレスト』の奥まで来ていたということもあるだろうけど、深い森の中に建っている家がマッチした造りになっていて非常に幻想的な感じ。
しばらくその幻想的な光景に目を奪われていたのだが、頭を振って冷静さを取り戻し、その家へと向かってみることに決めた。
『トレブフォレスト』の中にある家と言ったら、おとぎ話にもなっていた魔女が住んでいる家というのが可能性としては高い。
森を常に覆っていた黒い何かもこの付近だけ消えているし、今尚住んでいる可能性だってある。
おとぎ話では魔女を倒したみたいになっていたが、本当に倒されているのであれば黒い何かの正体や先ほどの魔法の障壁も何だったのかって話になるし、俺としてはまだ現存していると考えている。
強い気配のようなものは一切感じないが、最大限の警戒をしつつ俺は紫色の屋根の家へと近づいていった。
小道の横の池も遠くから見ると幻想的だったけど、近くで見ると底が全く見えず不気味で引いた全体図と近づいた時の不気味さのギャップが凄まじい。
紫色の家なんかはその最たる例で、建てられてから相当な年月が経っているのか経年劣化が酷く、窓から見える家の中がホラーそのもの。
アンデッドでも出てきそうな雰囲気で一瞬躊躇ってしまうが、俺は意を決して家の扉を押してみた。
最初はびくともせず鍵がかかっているのかとも思ったが、立て付けが悪くなっていただけのようで少し力を入れて押したことで扉は開いた。
押し扉なのも嫌だし、鍵がかかっていないのも非常に嫌だ。
まぁ鍵に至ってはこんな場所に人が来ないから、鍵をかける必要性なんてないというのは分かるんだけど……。
俺の心理状態としては、招き入れられている感覚が非常に強い。
「……お邪魔します」
中に入る際に声を掛けるか非常に迷ったのだが、仮に誰かが中にいるのだとしたら扉を開けるのに手こずった段階で気づかれているだろうし、万が一この家の住人が良い人だった場合を考えて声を掛けることにした。
そんな俺の思惑も特に意味をなさず、家の中から誰かの声が返ってくることも襲ってくるなんてこともなかった。
家の扉の前で立ち尽くし、必死に何かの音がしないか耳を澄ましたが、家の中は本当に無音状態で生き物の気配も今のところは一切ない。
外から窓を覗いて見た通り、家の中は非常に汚れている上に生活感はなく、明かりもないため非常に暗い状態。
まぁ暗いといっても、『トレブフォレスト』の真っ暗闇と比べれば全然マシな暗さで、目も慣れることで一定の距離までならしっかりと視認することができる。
そこまで家が大きくないため、慎重に移動しながらさっさと探索しよう。
まずは玄関から真っすぐ進み、リビングのような場所が出てきた。
やはり長年使われた形跡はなく、かなりの汚れや色々な虫が蠢いている。
台所らしき場所も含めてザッと見たけれど、気になる部分はなかったため次の部屋へと移動する。
次に向かったのはリビングの横の部屋で、外の窓から見えた部屋。
劣化が酷く何の部屋なのか想像しにくいけど……寝室のような場所だと思う。
ベッドの残骸みたいなのもあるし、汚れているせいで一切映っていないけど鏡台のようなのもある。
……ここまでは薄暗く不気味なだけで、特に目新しいものもないただの家。
生物の気配がないのが救いだけど、逆にここまで何もないと何かいてくれた方が嬉しかったかもしれない。
勝手に家を探索しているのにそんなことを考えつつ、俺は先ほどのリビングへと戻り、そのリビングの更に奥に繋がっている部屋へと向かう。
多分だけどここが調べられる最後の部屋。
玄関からリビングまでの間にも、右側に一つだけ部屋があったがあそこは浴室。
だからこの奥の部屋が最後になるため、何も出てこなかったら完全に手詰まり状態となる。
誰に祈っているのか分からないけど、何か出て来てくれと祈りながら奥の部屋の扉に手をかけた。
――のだが、今度こそ扉には鍵がかかっているようで、押しても引いて開く気配がない。
ここまで見た中で鍵らしきものも見ていないし、今から小さな鍵を探すのは非常に億劫。
申し訳ないけど、もう既に使われている様子もないし扉をぶっ壊させてもらおう。
ここまでして何も出なかったら最悪だけど、このまま引き返すのはないため……。
俺は拳に力を込めてから、扉に向かって五割ほどの力でぶん殴った。
木製の扉はいとも簡単に砕け散り、その砕けた箇所から腕を伸ばして内側の鍵を開錠。
ぶっ壊した扉から奥の部屋へと入ったその瞬間――耳元で囁くような人の声が聞こえたのだった。
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