第三百六十話 人工魔物
今は借りている形であるスカルナイトの剣を構え、音だけを頼りに俺は目の前にいる生物に斬りかかった。
何と対峙しているのか分からない状態というのは非常に恐ろしく、剣では斬れない大きさの魔物だったらどうしようという想像のせいもあり、今まで力をセーブしていたがここは本気で斬りにかかる。
謎の生物の距離と位置の読みは正確で、本気で振った剣から肉——そして骨を断ち斬った感触がしっかりと手に伝わってきた。
ずっと聞こえていた鳴き声とは違い、叫び声に近い声を上げた謎の生物だったが、すぐにその悲鳴も聞こえなくなり――地面に倒れ込む音が耳に届いた。
相手の姿が見えないということもあり、ワイバーンゾンビ以上に気合いを入れて斬りかかったのもあって一撃で絶命。
一無駄に警戒し余計な力を使ってしまった感は否めないけど、下手に力を温存してやられるよりかは何倍もいい。
戦闘と言えるのか分からない今の戦いを振り返ってから、俺は倒れた謎の生物の確認を行うことにした。
完璧に斬って絶命させたはいいけれど、結局最後までどんな生物だったのか分からなかったからね。
しゃがみ込んで見える範囲まで近づき、鳴いていた生物の確認を行ってみると……力なく倒れていたのは、無数の鋭い刺の付いた球体のような生物だった。
手も足もなく、大きな顔だけのような見たこともない不気味な魔物。
見えないということもあって突飛もない敵を想像をしていたつもりだが、そんな俺の想像の何倍も超える奇妙な魔物だ。
この奇妙な魔物を見てすぐに頭に過ったのは、白い建造物の人口的に作り出された魔物。
人間とは似ても似つかない容姿だが、刺のついた球体に張り付いている顔は完全に人間のもの。
ずっと聞こえていた鳴き声も思い返すと、人間のいびきに近いものに思えてきた。
色々と嫌な考えばかりが頭に浮かび、先へ進む足が止まりかけてしまうが……。
道を塞いでいた謎の生物は倒したと、なんとか気持ちを切り替えて先を目指して進むことに決める。
戻る際に先ほどの球体の奇妙な魔物の死体を持ち帰ることも検討しつつ、俺は森の奥へと進むべく重い足を必死に動かし先へと向かった。
球体の魔物を倒してから、更に約一時間ほどが経過。
先ほどの魔物を皮切りに出会う魔物が増えるといったこともなく、ただただ静かで真っ暗な森を進むだけの状況。
地面を注意しながら進んできているが、ここまでは何か特筆した植物等は発見できていない。
長年植物を見て過ごしてきた自負はあったけれど、そもそも暗すぎて植物自体が見えないのが厳しすぎる。
立った状態では足元がぼんやりと見える程度で、しゃがめば地面に生えているものがはっきりと見えるものの、しゃがんだとて見える範囲が狭いため植物を探しながら進むとなると地面に這いつくばったまま進まなければいけない。
平和な森だから這いつくばったまま進めるのかもしれないけど、やっぱりこの暗さは非常にネックで万が一を考えると、どうしてもすぐに剣を振れる立った状態で進みたくなってしまう。
生命の葉を見つけるつもりで一人で森に入ったが、やっぱりまずはこの暗闇をなんとかしなければいけない。
となってくると、先に見つけるべきは『トレブフォレスト』に住むと言われている魔女。
魔女が実在するとなれば強い反応を持っているだろうし、強い反応を持っているのであれば真っ暗であろうとも見つけることができる。
仮に魔女が存在しなかったとしても魔女の家らしきものが必ずあるだろうし、そこを目指して森を練り歩くことにしよう。
とりあえずは……このギリギリ道となっている先を進み、行き止まりもしくは森を抜けるまでひたすら真っすぐ進む。
どちらかにぶち当たったら、一度報告も兼ねて戻ることにしようか。
どっちつかずで進展のない現状を打破すべく、生命の葉探しは一度止めて方向性を定めた。
足元の確認を止めるだけで心情的にはかなり楽になり、先に進むことだけを考えて俺は暗い森をとにかく歩く。
それから更に二時間ほどは進展がなかったのだが――ようやく目の前に変わったものが現れた。
見えない壁のようなもので阻まれており、進もうとしてもビリッとくる電気のような痺れが襲ってくる。
恐らくだけど、この見えない壁のようなものは魔法の障壁なはず。
俺も初めて遭遇するものだけど、以前にトビアスさんから話を聞いたことがあった。
魔王の領土と人間の領土を阻んでいるのも魔法の障壁で、余程のことがない限り破壊されることはないと軽く話してくれたのを思い出した。
目の前にある障壁を軽く剣でも殴ったみたけど全く壊れる気配がないし、これは行き止まりといえば行き止まりなのかな?
ディオンさんとスマッシュさんに報告するため、一度引き返しても全然良いと思うんだけど……。
行く手を阻む魔法の障壁があるということは、この先に魔女の住処がある可能性が非常に高いと俺は見ている。
ならば引き返す前にこの障壁をなんとかして、障壁の先を見てからでも引き返すのはいいはずだ。
かなりうろ覚えだけど、トビアスさんは魔力を込めた一撃なら魔法の障壁を壊せる可能性があるとも言っていた。
領土間にある魔法の障壁と違い、目の前にある魔法の障壁は規模的に簡易版みたいなものだし、上手く剣に魔力を乗せることができれば俺なら破壊できる。
これで破壊できなかったら一度二人の元に戻ると決め、まずは魔力草を生成してすり潰し、そのすり潰したものを剣は刃に塗りたくっていく。
魔力なんて【プラントマスター】の能力を使う時にしか使わないし……というよりも戦闘で使えた試しがない。
そのための思考錯誤として、魔力を回復させる魔力草を塗りたくって魔力の伝導率を上げようという作戦だ。
この行動に意味があるのかは全く分からないけど、この状態で【プラントマスター】を使うときの感覚で剣に流し込む。
植物を生成するのを頭の中で思い描きながら、俺は剣に魔力を流し込み――振り上げた剣を正面にある障壁に思い切り振り下ろした。
魔力がしっかりと剣に伝わっているか半信半疑だったけど、剣が魔法の障壁にぶつかった瞬間にバチンッという凄まじい音が森の中に響き渡った。
俺もその音にビックリしたものの、正面にあった魔法の障壁が崩れ去ったのがガラスの割れるような音のお陰で分かった。
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