第三百五十八話 対処法


 大きく息を吐いてから、急に暗くなった地点へと再び足を踏み入れた。

 すると、またしても辺りは急に暗くなって周囲は深い闇に落ちる。


 見えるのは手が届く範囲ぐらいまでで、その先は漆黒の霧に包まれたように真っ暗闇。

 ここが『トレブフォレスト』である可能性は非常に高く、一刻も早く先に進みたい気持ちに駆られるが……まずは自分達の安全を確保することが先決。


「ディオンさん、スマッシュさん。俺の声が聞こえていますか?」

「聞こえていますよ。声の感じから位置が離れているとかもなさそうです」

「あっしも聞こえてやすぜ! 本当にただ周囲が暗くなっているだけのようでさぁ!」


 二人の声もしっかりと近くから聞こえるため、スマッシュさんが言うようにただ暗くなっているだけのよう。

 そうと分かれば、この暗闇をなんとかすることができれば普通に進むことができる。


「なんとかしてこの暗闇を晴らせないか試行錯誤しましょう。ディオンさんとスマッシュさんは明かりをつけてもらっていいですか?」

「分かりました。私は松明に火をつけてみますね」

「あっしはランタンをつけやすぜ!」


 明かりの確保は二人に任せ、俺は風を起こしてみることにした。

 もし霧なのだとしたら、風を起こすことで飛ばすことができるかもしれないからな。


 リュックから汚れた服を一枚取り出し、前方に向かって本気で扇いでみる。

 汚れている服だし、破けても仕方ない覚悟で思い切り扇いだのだが……。


 いくら扇いでも暗闇が晴れることはなく、ただただ目の前に強烈な風を送り続けるだけとなった。

 霧っぽいけど霧ではなく、この暗闇の正体はもっと別の何かのようだな。


「すいません。風を送り続けていたのですが、うんともすんともしませんでした。お二人の方はどうですか?」


 振り返っても一向に明かりが見えないため、どうなったかを二人に尋ねてみた。

 結構な時間を服で扇いでいたし、そろそろ松明やらランタンやらに火が灯っていてもおかしくないと思うんだけど……。


「松明に火はついているんですけど……暗いままですね。明かりも効かないみたいです」

「あっしもランタンに火を灯してやすぜ! そもそも今は真昼間でやすし、明かりがどうこうの話じゃないんですかい?」


 言われてみれば、スマッシュさんの意見がごもっともだ。

 ただ強烈な光ならなんとか視界を確保するぐらいはできると思っていたんだけど、松明やランタン程度の明かりじゃこの暗闇は晴らせないか。


 こうなってくると試せる手段はもうないわけで、完全に手詰まりな状態。

 一度『トレブフォレスト』の入口から外へと出て、どう攻略するかを話し合うことにした。


「うわっ、急に明るくなったからなんか目がしばしばしやすぜ! それにしても……なんなんでやすかね? この変な現象は」

「私も初めての体験ですし、何が起こっているのか全く理解できませんね」

「土地特有のものなのか、それとも何かしらの妨害が働いているのか……。色々試しましたけど全く分からなかった――ということしか分かりませんでしたね」


 俺を含め、何が原因で暗くなっているのか分からなかった様子。

 魔女の森と言われているぐらいだから、俺は魔法による結界のようなものが濃厚だと思うけど、魔法だとして対処方法が一切分からない。

 

「あんな視界じゃ連携なんて取れやしないですぜ? 一度諦めて引き返しやすか? 『トレブフォレスト』の場所に関しては分かりやしたから」

「……いえ、探索は続けたいと思います。戻ったところで、どうにもならなそうな感じがぷんぷんとしますしね」

「でも、探索続けると言っても方法がなくないでしょうか?」

「パーティでの攻略は止めようと思います。攻撃が味方に当たる可能性がありますし、味方に気を使って攻撃の手が緩んでしまいますから」

「てことは、ルイン一人で探索するってことですかい?」

「そのつもりです。この中なら俺が一番強いと思いますし、魔物に襲われても対処できる策もありますから。お二人にはこの場所で待っていてもらって、万が一何かが起こった時のための道しるべになってもらいたいんです」


 俺がそう提案すると、二人は渋い表情を浮かべて黙りこくった。

 俺一人で行かせたくないけど、ついて行ったところでどうしようもない――そんな感情が顔に出ている。


「俺を信じてください。少しでも危険だと察知した瞬間に引き返しますので」

「……分かりやした! ひとまず『トレブフォレスト』の探索はルインに任せやす! あっしらは入口で待機しつつ、暗闇をどうにかする方法を考えてやすぜ!」

「……ですね。色々と思考しましたが、探索を続けるとしたらルイン君一人で探索するのが一番良い方法だと思います。無理について行っても足を引っ張るだけなのが目に見えていますから」

「俺に任せてください! あわよくば生命の葉も見つけてきてしまいますので!」

「そこは三人で見つけたいってのがあっしの本音でやすが、見つけられるなら見つけてきちゃってくだせぇ! ひとまずルインに任せやしたぜ!」

「私達も私達にできることをやっておきますので、ルイン君は自分の命を最優先に考えて探索の方をお願いします」

「はい! 任せてください」


 力強くそう返事をし、俺は一人で『トレブフォレスト』の探索を行うことに決めた。

 一切の策もなく、文字通り手探りで暗闇の森の中を探索する。


 この暗闇の魔物で魔物に襲われるのは少々怖いけれど、相当な強敵じゃない限りは対処可能だと思う。

 問題はこの暗闇の中でどう生命の葉を探すかなのだが……。


 伊達に十何年も植物を生業として生きてきていない。

 【プラントマスター】による植物鑑定だってあるし、俺ならば暗闇下でも生命の葉を探すことはできると踏んでいる。

 頬を軽く叩いて気合いを入れてから、俺は三度目となる『トレブフォレスト』へ足を踏み入れたのだった。


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