第三百五十七話 黒い靄
階段から三階まではそのまま登ることができ、三階からは先ほど見えた外に設置されている階段を使って屋上まで登った。
結局、この白い建造物が何の建物なのかは分からなかったけど、使われていない無人の建物で何者かに襲われることもなく屋上まで行けたのは良かった。
「うひょー! やっぱこの建物は高いだけあって、上からの景色は凄まじいですぜ!」
「風もいい感じに吹いていて気持ちいいですね。今日は天気がいいので遠くの方まで見渡せます」
「確かに景色もいいですが……さっさと『トレブフォレスト』を探しましょう。ルイン君、目印は暗い森でしたよね?」
「話によればそうらしいです。ただ正確な情報じゃないので、本当にそうなのかまでは分かりませんが……」
ヒューの話によれば真っ暗な森はあると話していたし、恐らく暗い森自体はこの魔王の領土に存在するはず。
三人で違う方角を向き、必死に目を凝らして探していると……急にスマッシュさんが叫び始めた。
「ルイン、ディオン! あそこを見てくだせぇ! 何か暗い感じがしやせんか!?」
スマッシュさんの下へと駆け寄り、すぐに指さした方向を見てみた。
かなり離れていたため目を凝らさないと見えなかったのだが、確かに黒い靄のようながかかっている森のような場所が見える。
「本当に暗くなってますね! あそこの森が『トレブフォレスト』なのでしょうか?」
「うーん、どうなのでしょうか。ここから見た感じですと、相当離れている気がしますけどね。ヒューさんの話ではこの建物の近くだったんですよね?」
「そうは言ってやしたけど、近くに暗い場所なんてありやせんからね! 絶対にあそこが例の暗い森ですぜ!」
「俺もそう思いますね。この建物は相当高さがありますし、離れた位置からでも近くに感じたんじゃないでしょうか? とりあえずもう少しだけ探してから、何もなければあの場所に行ってみましょう」
ディオンさんは疑問に思っているようだが、俺はスマッシュさんが見つけた場所がヒューの言っていた暗い森だと思う。
すぐにでも向かいたい気持ちだが、もしかしたら他にも同じような場所が存在する可能性もあるため、しっかりと全方角を探してみることに決めた。
それから約二十分ほどかけて白い建物の屋上から四方向全てを確認したのだが、結局あからさまに暗くなっている場所は見つからなかった。
根気よく遠くの場所も目を凝らして探したものの、スマッシュさんがすぐに見つけたところ以外は変なところのない普通の景色。
付近で目ぼしいところは一カ所だということが分かったし、早速あの場所に向かってみるとしよう。
「スマッシュさんが見つけたあの場所だけでしたね。すぐに下へと降りて向かってみましょう!」
「だからあそこだって言ったでさぁ! ディオンは違うと反対してやしたが!」
「可能性の話をしただけです。軽口はいいので向かいましょう。……まだあそこが『トレブフォレスト』と決まった訳じゃありませんし」
「ほれ、ディオンも軽口を言ってやすから! この建物の上から見てみなければ絶対に見つけられやせんでしたし、あっしのことを少しは褒めてほしいですぜ!」
「正直、上に登る判断はどうかと思っていましたが……来てみたのは正解でした。スマッシュさん、提案してくれてありがとうございます」
「へっへっへ。褒められるのってのはやっぱり悪くありやせんね!」
俺が褒めるとやたら嬉しそうにしてくれたスマッシュさん。
そんなスマッシュさんを見て、呆れた様子で先に階段を下りていったディオンさんを追いかけ、俺達は無事に白い建造物から出ることができた。
正直まだまだ謎だらけだし色々と調べてみたい欲はあるが、今はこの白い建物よりも『トレブフォレスト』が優先。
屋上で目星をつけた方向へと進み、真っ暗な靄のかかっていた場所を目指して歩を進める。
上から見て分かってはいたが距離があったこともあって、白い建物から歩くこと約三時間ほど。
道中で魔物との戦闘を挟みつつ、ようやく目指していた付近まで来れた気がする。
「スマッシュさん、ディオンさん。確かこの付近でしたよね?」
「あっしも確認しやしたが、この辺りで間違いないと思いやすぜ! ……でも、暗い場所なんて見えやせんね」
「遠くからでもはっきりと暗くなっていましたから、近づけば分かると思ったのだが……ちょっと私もどの辺りか分からないです」
確実にこの近くなはずだが、辺りを見渡してもそれっぽい場所が見当たらない。
何か影やらが重なって暗く見えていたのかもしれない――そう思い始めた時、途端に辺りが夜のように真っ暗になった。
魔物に襲われたと思い、慌てて剣を引き抜き構えるが……何者かが近くにいる気配はない。
大きく深呼吸をしてから、俺は最低限の声量で二人に声をかけた。
「お二人とも無事ですか? 無事でしたら返事をください」
「無事ですぜ。ルインも真っ暗なんですかい?」
「視界が急に暗くなりました。ディオンさんはどうですか?」
「私も全く同じ状況です。急に辺りが暗くなったので、剣を引き抜いて構えていますよ」
「やっぱりそうでしたか。俺が合図を出しますので、ゆっくりと後ろへ戻りましょう」
二人にそう指示を飛ばし、俺の合図と共に一気に後ろへと下がった。
何が出てくるかと構えていたのだが……後ろに下がると急に視界が明るくなり、暗くなる前に見た景色が目の前に広がっている。
正直、意味が全く分からずに脳みそがフリーズしている状態。
目の前は何もないように見えているだけで、一歩でも足を踏み入れると辺りが暗く感じるようになるのか?
「二人は問題なく見えていますか?」
「あっしはもう見えてやすぜ!」
「私も見えていますよ。ルイン君も見えているんですよね?」
「見えてます。暗くなった現象については全く分かりませんが……この先が『トレブフォレスト』の可能性は非常に高いと思います」
ようやく辿り着いた『トレブフォレスト』。
辿り着けた嬉しさやワクワク感よりも、疑問の方が大きい状態だが……この先に生命の葉が存在する可能性がある。
想像の斜め上の現象のせいで不安しかないが、気合いを入れて探索を行うとしようか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます