第三百五十六話 研究施設
建物の中は薄汚れており、埃も溜まっていることから長年使われていないことが分かる。
中から生物の気配もしないし、もう誰も立ち入ってすらない建物なのかもしれないな。
「何の気配もありませんね。これなら楽に上まで行けそうです」
「それはどうでしょうか? 何かの仕掛けや罠があったらまずいですから、私は慎重に進んで行った方が良いと思いますよ」
「ディオンは慎重すぎるんでさぁ! 色々な場所が老朽化してやすし、そこまで警戒しなくても大丈夫なはずですぜ!」
「スマッシュさんは無警戒すぎるんですよ。そのせいで何度危険な目に合わされてきたか……って聞いてますか?」
ディオンさんの注意を無視し先を歩き始めたスマッシュさんと、その後ろを追って注意するように呼び掛けているディオンさん。
状況的に仕方がないとはいえディオンさんの声量が大きく建物内に響き渡っており、俺はそんな姿に苦笑いを浮かべつつ二人の後をついて建物の中を進んで行った。
「まずは上へと繋がる階段探しでしょうか。外階段もあるのはチラッと見えましたが、恐らく三階ぐらいの位置から設置されていましたよね?」
「確かに建物の途中から設置されていましたね。となると、中から上へと行ける階段があると私は思います」
「中は暗いし広いですぜ。窓から多少の光が差し込んでやすが、窓自体も少ないでさぁ!」
「極力避けたかったのですが、手分けして探しますか? 一つ階段を見つけてしまえば、そのまま屋上まで一気に行ける可能性もありますし」
入る前から分かってはいたが、中は大分入り組んでいる上に暗くて広い。
手分けして探したくはないが、俺は渋々手分けして捜索する提案を二人にした。
「あっしもそう思ってたところですぜ! 手分けして一気に探して――」
「私は反対です。流石に個々で動くのは危険ですし、何よりもスマッシュさんが一人で動いてほしくないですから」
「なんであっし限定なんですかい? 虫の魔物の件はありやすが、隠密行動も得意ですしルインの方が怖いでやしょう?」
「いえ、私はスマッシュさんの単体行動の方が怖いですね」
ピシャリとそう言われ、怪訝そうな表情を浮かべているスマッシュさん。
確かにディオンさんの言葉にも一理あるし、分かれて捜索するのであれば……。
「なら、ディオンさんとスマッシュさん。俺単独で捜索に当たるというのはどうですか? 俺なら一人で何か危険な敵と遭遇しても対処できると思いますし、スマッシュさんもディオンさんが見ていれば安全ですよね?」
「それなら文句はありませんが、私がスマッシュさんと二人行動ですか……」
「なんで言い出しっぺのディオンが変な顔してるんですかい! 二人行動が嫌なのはあっしの方ですぜ?」
「まぁまぁ。二手に分かれるということで納得してもらいましたし、早速建物の捜索に移りましょう!」
こうして、ここからは二手に分かれて捜索することに決めた。
口論している二人に軽く会釈をしてから、俺は一人で右回りで建物の中を進むことにする。
さっきまでは三人で話をしていたからあまり怖さを感じなかったが、一人で歩くとかなり不気味な感じだ。
何の施設だったのか見当もつかないが、見たこともない機械が至るところに設置されてある。
いくつか気になるものが目に入ってくるが、今はこの建物が何なのかを調べるのが目的ではないため好奇心を抑えて階段探しを続けた。
二人と分かれて建物を捜索すること約十分ほど。
手当たり次第に扉を開けては確認していると、ようやく上へと繋がる階段を見つけた。
広い建物からすると随分と狭い階段で違和感を覚えるが、とりあえずここから上へと向かえるはず。
二人と合流するべく階段の位置を頭に入れてから、早足で再び建物を右回りで移動を行った。
階段を見つけてから脇目も振らずに進んでいると、俺とは反対回りで進んでいた二人の姿を発見。
とりあえず二人に何の異常もないようで良かった。
「お、ルインですぜ! 階段は見つかりやしたか?」
「はい、見つけました。案内しますので階段を目指しましょう」
「それは良かったです。これだけ広い建物なのに、こちらは階段が見つからなくて焦っていたところだったんです」
「……なんか変な建物ですよね。不気味というか不可解というか」
「階段は見つけられませんでしたが、かなり奇妙なものを見つけたんですよ。歩きながら話しましょうか」
俺は来た道を戻る形で階段を目指して歩き、その間にディオンさん達が見つけたという奇妙なものについての話を伺った。
二人が見つけたのは、どうやら何かの実験レポートらしい。
文字がこちらのものとは違うため読めなかったようだけど、絵やその部屋に置かれていたものから察するに魔物を弄るようなものだったみたいだ。
スマッシュさんの読みでは、魔物を人工的に作り出していた施設。
ディオンさんの読みでは、魔物を使った実験を行っていた施設とのこと。
どちらの考えもあり得ない話じゃないし、もし仮にそうだったとしたら背筋が軽くゾッとするほど怖い研究。
長年使われていない形跡があることから、その研究が既に完成した可能性もある訳だからなぁ。
もちろん失敗して頓挫した可能性もあるんだけど、俺は嫌な予感を胸に抱えつつ……二人の話についてを真剣に考えながら、白い建造物の屋上を目指して歩を進めたのだった。
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