第三百五十五話 手掛かりなし


 白い建造物付近へと辿り着き、その周辺を三人で手分けして探していく。

 ヒューの話が本当ならば、この近くに『トレブフォレスト』があるはずなのだ。


 ……ただ、白い建造物の付近を捜索すること約一時間ほど経った今でも手掛かりすら見つかっていない。

 木々が生い茂った森らしき場所はあるんだけど、森にしては木の密度が低すぎる気がするし、何よりの情報である暗い森の気配が一切ない。

 イメージでは夜のように暗くなる森って感じだし、こんな平凡な森ではないと思うんだよな。


 結局それから更に一時間ほど探したが見つからず、二人と合流して進捗を聞くことに決めた。

 もしかしたらディオンさん、スマッシュさんが探している方角に『トレブフォレスト』があった可能性がある。


 僅かな期待を胸に二人と分かれた場所へと戻ってみると、既に二人の姿が見えた。

 どうやら俺よりも先にこの場所に戻ってきたようだが、浮かない表情を見る限り見つかってなさそうにも見える。


「お待たせしてすいませんでした。俺の方は見つからなかったのですが、お二人の方はどうでしたか?」

「かなり探したのですが、見つからなかったですね。森らしき場所はあったんですけども……」

「あっしの方も駄目でしたぜ。『トレブフォレスト』らしき森は見当たりやせんでした!」


 やはりというべきか、二人も見つけることができなかった様子。

 近くにそれらしき森があれば、探さずとも見つけられそうな気もするしなぁ。


「うーん。完全に手掛かりがなくなってしまいましたね。もう少し東に進んでみますか?」

「私はそれが良いと思います。道中で『トレブフォレスト』の痕跡があれば、その付近を捜索すればいい訳ですしね」

「いっそのこと、あの白い建造物を探してみるってのはどうでやすか? 何か分かるかもしれやせんぜ!」

「……あの建造物の探索、まだ諦めていなかったんですか。私はあの虫の魔物で凝りましたからね。あの建造物に近づいても嫌な予感しかしませんし、スマッシュさんの案には反対です」

「俺も反対ですね。絶対に『トレブフォレスト』とは関係ありませんし」


 まだ諦めていなかったようで、再び白い建造物の探索を提案してきたスマッシュさん。

 『トレブフォレスト』を探している間も、ずっと視界には入っていたから気にならないと言えば嘘になるが……探索するメリットが一切ないからね。


「二人して反対しなくていいでさぁ! 確かに『トレブフォレスト』とは関係ないかもしれやせんが、あの白い建造物を探索するメリットがない訳ではありやせんぜ?」

「……いや、私もないと思いますよ。ただ単にスマッシュさんが行きたいだけでしょう」

「違いやすって! 白い建造物は見るからに高い塔ですぜ! あの建造物を登って、上から見てみればどこに『トレブフォレスト』があるか一発で分かりやす! 『トレブフォレスト』は、夜のように暗い森なんでやしたよね?」


 …………意外にもしっかりとした理由でビックリした。

 確かにあの建造物を登り、上から見渡してみれば一発で分かる可能性が高い。

 

 魔王の領土にある大きな建造物ってだけで馬鹿でも危険ということは分かるが情報のない中、足を使って探すよりも登って確認するメリットは大きい。

 俺はディオンさんの方をちらりと見たのだが小さく頷いたため、どうやら俺と同じ意見を持った様子。


「否定しておいてなんですけど……確かに上から探すのは良い案だと思います。例え周囲に『トレブフォレスト』が見当たらなかったとしても、ないという情報も大きいですから」

「へっへっへ。ルインもそう思いやしたか! ただあっしの好奇心だけで探索したいと言った訳じゃないんですぜ! ディオンはどう思うんですかい?」

「私もそういうことでしたら賛成できますね。闇雲に探すよりも危険を冒してでも登る方が圧倒的に楽ですから。……ただ、安全に行きたい派なので建造物に近づかないって意見に変わりはありませんけどね」

「ディオンは認めたくないだけでやしょう! よしっ! 二人も賛成してくれたなら、とっとと白い建造物へと向かいやしょう! 一体何の建物で何がいるんですかね?」

「私は完全に賛同した訳じゃないんですよ。勝手に先に行かないでください!」


 既に先へと急いでいるスマッシュさんと、それを追うディオンさん。

 この流れは白い建造物の探索で決まりのようだ。

 

 俺も気にならないといえば嘘になるし、ハエ蛾の一件で目新しいものだからといって飛びつく行為に懲りたといえば懲りたけど……大きなメリットがある以上は探索することに異論はない。

 かなり変則的な相手だったせいで若干苦しめられたが、単純な戦闘だけでみれば圧勝と言える内容だったしね。

 自分の中で納得させつつ、俺は二人の後を追って白い建造物の下へと向かった。


「いやぁ……本当に大きいでさぁ! どうやってこんな建物を建てたんですかい」

「凄い技術が用いられていることだけは分かりますね。……真下まで来たはいいですけど、どうやって中に入るんですか? スマッシュさん、何か策はあるんですよね?」

「窓がガラスでやすから、割って侵入しちまえばいいんですぜ! 割る方法は二種類ありやして、一つ目は火で炙るんでさぁ! 音が最小限で一番良い方法なんでやすが……今回は叩いて割っちまいやしょう」


 スマッシュさんは元盗賊なだけあり、窓を割る行為一つ取ってもかなりの知識を持っている。

 完全に不法侵入な訳だけど……ここは魔王の領土だし気にしたら負けだ。

 

 小刀と小さな金槌を使って釘を打ち込むかのように窓を叩くと、本当にあっという間に窓が割れた。

 手際が良いからか音もそれほど大きくなく、同じようなやり方で二つ穴を開けてから――腕を伸ばしてほんの一分程度で開錠に成功した。


「さて、中に入るとしやすか!」

「スマッシュさん、手際の良さが怖いです!」

「良い技術ではないことだけは分かりますね」


 各々感想を漏らしつつも、先に白い建造物の中へと入ったスマッシュさんの後に続き、俺も建物の中へと侵入したのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る