第三百五十四話 白い建造物
かなり不気味な魔物だったけど、ちゃんと連携を取ったことで倒すことができた。
ただ体の痺れが酷くなり始め、目もかすれてきてしまっていることから早いところ植物を生成して食べないといけない。
俺はすぐにハエ蛾の死体の傍から離れ、二人と合流する前にありとあらゆる植物を生成。
何が効くか分からないため、とにかく色々な植物を摂取しまくった。
俺の下に駆け寄ろうとしてくる二人には来ないでくれという指示を出し、植物の効果が効くまで待つこと十数分。
どうやら摂取した植物が効いてくれたのか、体の痺れも目のかすみも大分良くなった。
体の症状は落ち着いたものの、ハエ蛾から舞っていた粉が体や服に付着しているため、付着した粉から再び症状が発症するのは勘弁なので早く洗い流したいところ。
離れた位置からディオンさんとスマッシュさんと会話を行い、ひとまず水場を探してもらうことにした。
三人で手分けをして探したことで、戦闘場所近くに小さな川を発見。
俺はその小川で体と服をよく洗って鱗粉を流し、これでようやく二人とも普通に接することができるようになった。
「すいません。色々と迷惑をお掛けしました」
「いえいえ。大変な役割を任せてしまった訳ですし、迷惑だなんて思っていませんよ」
「そうですぜ! あっしとディオンは遠くから弓矢を当ててただけでやすから。体の方は大丈夫ですかい?」
「はい。すっかり良くなりましたし、もう戦闘前と変わらないほど万全の状態です」
小川を探している時間もあったことで、スマッシュさんに伝えた通り体調は完全に回復。
久々に植物の有用さを実感することができた。
「それは良かったです。あの虫の魔物が何だったのかは分かりませんでしたが、何事もなく倒すことができて一安心ですね」
「振り撒いている粉のせいで死体を調べることもできやせんからね。あっしのせいでやすが、完全に襲われ損って奴でさぁ!」
「久々の強敵と呼ぶに相応しい相手でしたから、俺としてみれば戦えて楽しかったですけどね。ただ、あれだけの魔物が平然といるっていうのは少し怖くも感じますが……」
「本当にそうですね。下手すれば一つの街ごと壊滅させられる恐れもあるほどの魔物だったと思います。あの木に巻き付けられていた繭から何匹生まれるのか、想像するだけでゾッとしますよ」
今回は一匹相手だったから良かったが、あのハエ蛾の群れに襲われていたら一溜まりもなかったと思う。
高い索敵能力に何より鱗粉が厄介極まりないし、ディオンさんが言うように人間の住む街を一つぐらい軽く壊滅させられるほどの脅威があった。
今から戻って、あの繭を全て焼き払った方がいいのかとも考えたが、他にあのハエ蛾がいたら厄介だし近づくのは止めよう。
ここは魔王の領土だし、無理をしてまで危険の目を潰す必要はないからな。
「この場所では気になるものがあったとしても、極力近寄らないようにしましょうね。それじゃ寄り道が長くなってしまいましたが、東にあると思われる『トレブフォレスト』の捜索に戻りましょうか」
「賛成ですぜ! 生命の葉を見つけて、早く魔王の領土から抜け出しやしょう!」
「目印は白い建造物でしたよね? 白い建造物にも注意して探してみましょうか」
思いがけない魔物との戦闘があったが、俺達は再び元来た道へと戻って『トレブフォレスト』探しを再開した。
とにかく気になるものがあっても近づかない。
今回の失敗で得た経験を胸に刻み、東を目指して再びを歩を進めた。
ハエ蛾との戦闘を行ってから、約丸一日が経過していた。
途中でキャンプを作って軽い休息を取ったはものの、ほとんど東に向かって歩き続けていたのだが、未だに『トレブフォレスト』らしき森も白い建造物も見えてこない。
そろそろ見つからないことに対しての不安と、本当にこの方角にあるのかという疑念が生まれ始めたその矢先。
陽気に鼻歌を歌っていたスマッシュさんが、急に大声を上げて立ち止まった。
「ルイン、ディオン! あれを見てくだせぇ!」
スマッシュさんが指さした方向を見てみると、その方向には薄っすらと白い建造物のような物が見えた。
まだかなり遠くにあるようで、本当に薄っすらとしか見えないのだが……この距離からでも見えるということはかなりの高さのある建造物なはず。
「あれがヒューの言っていた白い建造物でしょうか? かなり高い建物ですね」
「ヒューさんが言っていた建物かどうかは分かりませんが、どちらにせよ行ってみないと何も分かりませんね。あくまでも目的は『トレブフォレスト』なので、道中でそれらしき森がないかも見つつ、あの白い建造物を目指しましょう」
「やっと手掛かりらしきものが見つかりやしたぜ! 『トレブフォレスト』関係なく、あの建造物が何なのか調べてみたいでさぁ!」
「スマッシュさんは本当に凝りませんね……。もう昨日のことを忘れたのですか?」
「好奇心ってのは簡単に抑えられないでさぁ。仕方がないことですぜ?」
そうドヤ顔で言っているが、流石にあの建造物を調べるつもりはない。
スマッシュさんとは違い、俺は本当にハエ蛾での経験を胸に刻んだからな。
絶対に流されないように自分をしっかりと律しつつ、目の前に見えた建造物を目指して進む足を速めたのだった。
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