第三百五十二話 巨大な繭
俺達はゆっくりと白い塊のある木へと近づいていき、はっきりと見える位置まで近づいたことで――木に巻き付いていたその白い塊の正体がなんとなく分かった。
蜘蛛の巣ではなく、あれは恐らく巨大な繭だと思う。
あれだけのサイズの繭だから、生まれてくるのはとんでもない魔物の可能性が非常に高い。
親も近くにいる可能性も高いし、早くここから立ち去るのが吉だと思う。
「木に巻き付いている白いのは魔物の繭じゃないですかね? ダンジョンで小さいのですが見たことがあります」
「あっしにもやっと見えやした! ルインの言ってる通りで間違いないですぜ。……ありゃ魔物の繭でさぁ!」
「やっぱりそうですよね。危険ですし、すぐにここから離れましょうか」
「ええ、逃げやしょう! かなり危険な臭いがしやす!」
「あの大きさの魔物と戦うのは確かに嫌ですね。私もすぐにこの場を離れるのに賛成です」
白い塊の正体も分かったことで、二人はすんなりと俺の意見に賛同してくれた。
すぐに踵を返し、道を逸れる前の場所に戻って再び東を目指して歩を進めたのだが……。
「ディオンさん、スマッシュさん。……確実についてきてますよね?」
「はい。確実についてきていると思います。――この音は羽音ですかね?」
「いやーな予感しかしないですぜ! あっしが連れて行っといてなんでやすが、あの繭を見に行ったのが間違いでさぁ!」
どうやって嗅ぎつけられたのか分からないけど、ディオンさんの言う通り虫の羽音のようなものが真後ろから聞こえ、確実に俺達の後をついて来ている。
まだ距離はあるようだが徐々に音が近づいているのが分かるし、羽音の音からも魔物の大きさが窺い知れる。
気づいた段階から道を右往左往して撒こうとはしているものの、どうやっているのか的確に俺達の後をついてきているんだよな。
無駄な戦闘……それも強敵とは極力やりたいくないんだけど、撒けないとなると戦闘は避けられないかもしれない。
「広い場所に出て迎え撃ちますか? 多分逃げることは難しいですよね?」
「正確に追尾されていますので逃げるのは難しいと思います。ルイン君の判断通り、戦いやすいところで迎え撃つのがいいですね」
「だったら広いところじゃなくて、狭い場所の方がいいと思いますぜ! 追ってきている魔物は確実に巨体の魔物でやすから!」
「ですが、狭いところの方が敵に有利に動いてくる可能性もあります。だったら、広い場所で確実に五分五分で戦えた方がいいんじゃないですかね?」
スマッシュさんの意見も分かるが、俺は広い場所で戦った方がいいと思った。
追ってきている魔物が危険であることには変わりないが、それでも戦えるだけの力はつけてきている。
虫型の魔物だとしたら特殊な攻撃を用いて襲ってくることも大いに考えられるし、変に立地で有利を取られたくないからな。
俺は自分の意見を曲げずに押し通すことに決めた。
「私もルイン君の意見に同意です。この辺りで狭い場所といったら木々の間だけ。羽音から飛行している魔物であることは間違いないですし、高い位置から攻撃されたら木のせいでこちらの攻撃が当てづらくなりますからね」
「……二人がそう言うんなら、あっしは広い場所で戦っても良いですぜ! あっしのせいで追われる事態になってやすし」
「それでは決まりですね。広い場所へと出て迎え撃ちましょう」
この先をどうするか決めたところで、早速広く戦いやすい場所を探して早足で移動を開始する。
森は既に抜けているため、すぐに見つかると思うんだけど……おっ! 見つけた。
右前方に開けた戦いやすそうな場所が視界に入る。
あそこならば地形に邪魔されることなく、思う存分戦うことができそうだな。
「あの広い場所にしましょう!」
「いいですね。地面も硬めの土で戦いやすそうです」
「それでルイン、作戦とかはあるんですかい? 作戦がないならないで、作戦なしで戦うってのもアリだと思いやすが……」
「特に決めずにで良いと思います。ただ、スマッシュさんは背後の木に隠れて様子を窺ってもらってもいいですか? 時と場合を見て、弓矢で援護してくださるとありがたいです!」
「あっしは隠れながらの後衛ってことですかい! 魔物を呼び寄せておいて楽な仕事ですいやせんね!」
開けた場所へと出た俺達は簡易的な陣形だけを作り、羽音を立てながら追ってきているただただ魔物を待つ。
スマッシュさんに言った通り作戦はほとんどなく、俺が自由に戦ってディオンさんにサポートしてもらうだけ。
魔物がおかしな行動を取ってきて不測の事態が起こった場合は、隠れて待機してもらっているスマッシュさんの援護をもらうといった簡単すぎる作戦。
ただ相手の姿すら分からない以上、シンプルな作戦の方が上手くいくことはダンジョンで散々経験してきたこと。
「ルイン君。来ましたよ!」
ディオンさんの言葉に頷いて返事をし、羽音が聞こえてくる方向に剣を構える。
非常に不愉快な羽音が鼓膜を振動させ、俺は顔を歪めつつこの羽音を立てている魔物を視界に捉えた。
見た目は茶色の蛾とハエを混ぜたような姿。
毛がびっしりと生えており、鱗粉のようなものをまき散らしながら近づいてくる姿はどうしても嫌悪感を持ってしまう。
六本の細長い足に足よりも更に長い触覚を蠢かせ、鋭い針のような口を上下に動かしている。
繭があれだけ大きかったことからある程度の想像はしていたが、体長も五メートル近くある化け物ような体だ。
……これは色々な意味で苦戦を強いられるかもしれない。
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