第三百五十一話 白い塊

 

 魔人であるヒューと別れ、デルタの泉を出てからとにかく東に向かって進んでいた。

 道中、たまに遭遇する小型の機械兵はキッチリと破壊することを心掛けながら、魔物も多い森を突き進んでいく。


 アーサーさんの話ぶりからして、強い魔物がうじゃうじゃいる場所を想定していたのだけど、ここまでは特段強い魔物というのには出会っていない。

 遭遇する魔物の数は桁違いに多いけど、単純な魔物の強さであれば『竜の谷』の魔物の方が強かった。


 そんなこともあって特に苦戦することや怪我を負うこともなく、順調に先へと進むことができ……。

 ヒューと別れてから約一日が経った辺りで、俺達は天爛山から続いていた広大な森を抜けることに成功した。


「ルイン、見てくだせぇ! ようやく周りが草木で覆われてない場所に出やしたぜ!」

「あっさりと平原へと抜けた時は、この森がここまで広い森だとは思っていませんでしたが……ようやく森を抜けることができましたね!」

「とは言いましても、見通しが良くなっただけで特段変化がある訳じゃなさそうですけどね。ルイン君、ここら辺で少し休憩にしますか?」

「そうですね。歩きっぱなしですし、少し休憩にしましょうか」


 ほぼ無休で歩き続けたため、ディオンさんの進言通り少し休憩とすること決めた。

 地面に腰を下ろし、ヒューから貰った水と軽食を食べながら少し辺りを見渡す。


 ……ディオンさんの言う通り、森を抜けたことで草木が大幅に減ったこと以外、先ほどの森とは大差なく本当に何もないな。

 魔王の領土に入ってから見かけたのはヒュー達の住む村だけだったし、予想以上に発展していないことが分かる。


 その分、中心部にあるインセントの街は凄まじい発展を遂げているらしいけど、これまでのことを考えると想像がつかないんだよな。

 魔物の気配もなく、本当に何もない風景をぼーっと見ながら水を飲んで休んでいると、ふと少し気になったものが目に入った。


「ディオンさん、スマッシュさん。あの木と木の間に見える白いのってなんですかね?」

「木と木の間にある白いの? んー? あっしには見えやせんがね」

「あー、見えました。木に何かが巻き付いているんですかね? 遠くなので分からないですけど、蜘蛛の魔物か何かでしょうか。ランダウストのダンジョンでそれっぽい階層主がいましたから」


 何やら遠くに白い物体が見えたため、ヒューが言っていた白い建造物かと思って目を凝らして見ていたのだが、ディオンさんの言葉を聞く限りどうやら建造物ではないようだ。

 言われてみれば確かに、ランダウストダンジョン十五階層の階層主だった鬼荒蜘蛛の糸で出来た罠と酷似したもののようにも見える。


 かなり遠くにあるため正確な判断はつかないが、糸でできた球体なのは間違いないと思う。

 何気なく気になったものだけど、微妙に見えづらいのも相まってかなり気になってきた。


「確かに鬼荒蜘蛛のボス部屋を思い出すような感じですね。微妙に緑も見えますし、ディオンさんの言う通り木に巻きついているんだと思います」

「木に巻き付いているとしたらなんなんですかい? 蜘蛛の魔物が近くにいるんでやしょうか」

「似てはいますけど、蜘蛛の巣には見えないので似た別の何かだとは思いますよ。詳しいことは近づかないと分かりませんね」


 ディオンさんがそう言い、三人で無言のまましばらくの間が空いた。

 気にはなるけど決して良いものではないのは確実だし、近づくだけ危険を招く行為なのは目に見えている。


 でも、一度気になるとずっと気になってしまうんだよな。

 ディオンさんとスマッシュさんも俺と同じ気持ちだろうと心の中で感じつつ、そこからは無言のまま少しの休憩を行ったのだった。


「それじゃそろそろ先に行きますか。体も休まりましたし、お腹も良い感じに満たされましたからね」

「ですね。白い建造物を目指して東へ向かいましょう」

「……ちょっと待ってくだせぇ! あの白い塊は放置ですかい?」


 無言の間もずっと気にしつつも俺は先に向かうことを提案し、ディオンさんもすぐに乗ってきてくれたのだが……スマッシュさんは違った。

 どこにあるのか一人だけ見えていなかったのも関係しているのだろうが、相当に気になってしまっている様子。 

 この中じゃ一番目が良いのに見当たらないっていう点も、本人は相当ムズムズしていたんだろうな。


「近づいても絶対に良いことないですからね。俺も気になりはしますけど、近づかないのが正解です」

「私もルイン君の意見に賛成です。この遠い距離からでも分かるってことは相当に大きな塊ですからね。危ないのは目に見えてます」

「でも、二人も何なのかは気になりやすよね? 少しだけ、少しだけでいいんで近づいてみやせんか?」


 説得してもあまり響いていない様子のスマッシュさん。

 俺も気にならないといえば嘘になるため、あの白い塊が何なのか分かるぐらいの位置にまでなら近づいてもいいかもしれない。


「……なら、白い塊が見える位置までは近づいてみますか? 索敵の方はスマッシュさんがキッチリとやってくださいね!」

「やっぱルインは話が分かりやすぜ! 索敵はあっしに任せてくだせぇ! それじゃ軽く見に行くとしやしょうか!」

「本当に調子が良い人ですね。あまりルイン君に迷惑をかけてほしくないんですが……」


 スマッシュさんを先頭に、俺達は出発前にあの白い塊が何なのかを確認することに決めた。

 正直嫌な予感はしているが、近づいたことで危険な魔物に見つかったとしても倒すことはできるはず。

 

 まだ本気で戦える相手に出会えていないし、出会えたら逆にラッキーと無理やりこの行動を正当化し……。

 十分に気をつけながら、木に巻き付いた白い塊の下へと歩を進めていったのだった。


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