第三百四十九話 現地の情報
俺達は早速、緑の魔人から色々と情報を聞き出した。
まずは互いの自己紹介から始め、この緑の魔人は名をヒュー・グレグと言うらしい。
そんなヒューから、俺達は最初に魔王の領土の地理について聞いた。
この魔王の領土で栄えている場所は、領土の中心部にある街——インセントという城下街のみで、魔王もその街にある城に住んでいるらしい。
インセントの街の場所を分かりやすく説明するのであれば、嫌な予感がした平原をずっと真っすぐ進んで行った先にある街のようで、どうやら俺の嫌な予感は的中していたみたい。
平原を進んで行ってたら、魔王軍に見つかっていた可能性が大だったとヒューは話していた。
そんなインセントの街に魔人のほとんどが暮らしているらしく、インセントに住む魔人は生まれた瞬間に魔力量と運動能力が量られ、基準値を大きく下回った者はヒューのように奴隷落ちさせられる。
人間とは違って魔人には天恵が授けられないようだが、その分魔力や運動能力が人間とは桁違いに備わっているらしい。
俺がもし魔人として生まれていたら、十中八九ヒューと同じ運命を辿っていただろうし、話を聞いて他人事とは思えなくなってしまっている。
……そこからはインセントの街についてを教えてもらったのだが、ヒューは元奴隷だったこともあり、あまり詳しい情報は持ち合わせていなかった。
基本的には地下で重労働を強いられており、地上に出られるのは月に一度だけ。
そんな生活をしていれば情報を持ち合わせていないのも仕方がないし、意図的に情報を得ることができない環境に置かれていたようにも感じる。
「なるほど。考えていた以上に過酷なところで生活していたんですね」
「生まれた時からそんな生活を送っていたし、俺にとっては普通といえば普通のことだったからよく分からねぇ! 食料問題さえ起こっていなければ、逃げ出すなんて選択肢も取っていなかったと思うしな」
「あっしも相当に酷い幼少期を過ごしてやしたが、あっし以上に過酷だと思いやすぜ。ルインが肩入れしたくなった理由も分かりやす」
「同情してくれるのはありがてぇけど、まずはそっちに利を生み出さねぇとな! それで欲しい情報ってのはなんだ? 一応、俺が知っている情報は渡したつもりではいるけどよ」
逃げ出してきたヒューが知っている可能性は低いだろうけど、一応『トレブフォレスト』について聞いてみようか。
ここまでの話の中には一切出てこなかったけど、この森で約一年潜伏していたのであれば、知っている可能性も僅かながらあるからね。
「実は『トレブフォレスト』って場所を探して、俺達はわざわざ魔王の領土までやってきたんです。ヒューがもし知っているのであれば、情報を教えてほしいんですけど知っていますか?」
「『トレブフォレスト』? すまないけど聞いたこともないな! 一応、村のみんなにも後で情報収集してみるけど……何か特徴みたいなのはないのか? その『トレブフォレスト』についてさ」
「俺達が知っている情報は、魔女が住んでいるというされていた森であること。その森には、『生命の葉』と呼ばれる生命を生き返らせる植物が存在すること」
「んー……。その情報を聞いても全然心当たりがないな!」
「……あっ、それと昼夜関係なく暗い森らしいんです。その『トレブフォレスト』は」
俺が思い出したその情報を話すと、ここまで全く心当たりがなさそうだったヒューの表情が一気に険しくなった。
何か心辺りがあるのか、顎に手を当てて必死に思い出そうとしてくれている様子。
「…………インセントから逃げてくる途中、あてもなく食料を探し回っている時に異様に暗くなった森があったかもしれない! 右往左往しながら移動していたし、約一年くらい前の話だから正確な場所は覚えていないんだけどさ!」
「いえ、とても大きな情報です! 曖昧でもいいので、覚えているだけの情報を教えてもらってもいいですか?」
それから俺は、ヒューにその暗い森についての情報を聞けるだけ聞き出した。
正直、内容も曖昧でこれといった情報はなかったものの、東側のどこかという曖昧ながらも貴重な情報を得ることができた。
それに何より『トレブフォレスト』が実在するという情報が俺にとっては大きく、ここまで手探りだけで探していた中でのこの情報は、自分でもビックリするくらいモチベーションが上がっている。
魔人だからとヒューを切り捨てなくて良かったと、俺は心からそう思えた。
「ヒュー、貴重な情報をありがとう! 抜け道についてはキッチリと教えさせてもらう」
「いいのか? 何度も言ったと思うけど、かなり曖昧な情報なんだけどよ……」
「曖昧な情報だったとしても俺は満足したからな。ディオンさんとスマッシュさんも問題ないですよね?」
「ええ。私はクリス君の判断に従うだけですし、情報の価値は高かったと判断してます」
「あっしも文句ないですぜ? あとは日用品を分けてくれたら完璧でさぁ!」
「日用品についても忘れてねぇぜ? ここでちょっと待っててくれ! 今から村に行って集めてくるからよ! ついでに、その『トレブフォレスト』についての情報も集めてくる!」
ヒューは笑顔でそう飛び跳ねると、俺達の返事も待たずに村の方向へと走り出してしまった。
本来ならばスマッシュさんにヒューの後をついていくことをお願いし、最大限の警戒をした方がいいのだろうが……ヒューならば信用して大丈夫だろう。
それにしても――本当に良い情報を聞くことができたな。
『トレブフォレスト』は実在することが分かり、そこに『生命の葉』が存在するかどうかはまだ分からないが、期待してもいいと思えるくらいには『生命の葉』の入手が一気に現実味を帯びてきた。
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