第三百四十八話 経緯


 俺達の前で無防備に腰を下ろした緑色の体をした魔人。

 そんな魔人を見下ろす形で、ひとまず俺達は話を伺うことにした。


「まずはなんで俺達を助けてくれたのか。この部分を詳しく聞かせてほしい」

「さっき軽く話したけど、三人に恩を売ろうと思っての行動なんだよ! 村の中に忍び込んだ姿を見た時、間違いなく腕の立つ人だっていうのが分かったからな!」

「へへへ。確かにあっしは腕が立ちやすが、正面からそう言われると照れやすぜ!」

「強い人に恩を売ろうと思った理由も聞いていいですか? 同じ魔人ならともかく、人間に近づくなんてリスクでもあったはずですから」

「それは俺達が魔王に命を狙われているからだ! 初めて見た人間でもあったし、人間ということはお前達は壁の向こう側からやってきたんだろ?」


 真剣に話を聞いているけど、今のところ要領を得ることができない。

 何故、魔王と同じ魔人なのに命を狙われているのか。


 理由として考えられるのは犯罪者ぐらいだけど、この魔人を見る限り犯罪者には見えない。

 少なくとも、ここまでの道中で絡んできた冒険者の方が犯罪者っぽかったしね。


「ええ。人間ですからこの壁の向こう側からやってきましたが……。あなた達はなんで魔王に命を狙われているんですか?」

「……脱走したからだよ。さっきの村で暮らしている人達はみんな脱走した人なんだ! 魔王の治めている国では、力を持たない魔人は奴隷のように働かされる」

「なるほど。奴隷のような扱いから逃れるため、魔王の国から脱走したせいで追われているということですか」

「正直、奴隷のように働かされるだけならまだ我慢できた! でも、食料が本当に足らない。食って生きるためには働かされている者同士で殺し合わないといけないほどに。そんな生活に耐えられなくて、俺達は集団で逃げ出すことに決めて脱走したんだ!」


 想像していたよりも重い話で、魔王の治める国が身内にも厳しいものだということが今の話で分かる。

 魔人の中でも強さによって格があり、使えない者は一生ゴミのように扱われる人生ということか。


 俺も治療師ギルドで働いていた時は似たような感じだろうけど、食料の話を聞く限りは……。

 俺以上に悲惨な生活を送っていたのが簡単に想像できる。


「なるほど。あなたにとっては、人間の俺達の方が助けを請う相手にふさわしいということですか」

「そういうことだ。さっきの飛んでいた機械は逃げた脱走者を見つける監視兵器! 記憶した映像を持ち帰られると魔王に全てが知られるって訳だ! 人間が迷い込んだなんて知ったら……大量の軍隊をこの森に送り込んでくるだろうよ!」

「映像を送っているのではなく、記憶して持ち帰っているってことですね。だから避けるのは悪手……話が繋がりました。でも壊してもバレないものなんですか?」

「この領土一帯は魔物がうろちょろしているからな。情報さえ持ち帰られなければ、壊したって誰が壊したかなんて分からない!」


 なるほど。

 下手に隠れてやり過ごすよりも、確実に壊して回った方が見つかる心配がないということ。

 流石に壊し過ぎたら勘付かれるだろうけど、遭遇した小型兵器を壊して回るくらいならバレない。

 

「貴重な情報ありがとうございました。あなたの目的も分かりました。……ただ、俺達に恩を売って見返りに何をしてもらいたいんでしょうか? 見ての通り三人しかいませんし、大層なことはできませんけど」

「壁の向こうの世界へと続く道を教えてくれればいい! 俺が求めるのはそれだけだ!」

「ということは、さっきの村のみんなで魔王の領土から抜け出す――と? あなた達が魔人である限り、こっちの世界も大概だと思いますけどいいんですか?」

「それでもこっちの世界に残るより何倍もマシだ! 捕まればまたあの奴隷生活に逆戻り。今度は絶対に逃がさないように工夫を凝らすだろうし、そんなことなら死んだ方がマシだ!」


 ここまで意志が固いなら、天爛山の抜け道を教えるぐらいは容易いこと。

 結果として魔人を招き入れることになるけど、この緑の魔人を見る限りは大丈夫そうだし既に魔王軍は侵攻してきているし。


「分かりました。そういう事情ならば道を教えます」

「えっ!? ルイン、それでいいんですかい?」

「悪い人ではないと思いますし、話を聞いてしまった以上は俺に見捨てる選択を取れないです」

「ありがとう! 恩着せがましいけど、本当に助かる!」

「ルイン君はやはり甘いですね。こんな私達にも優しくしてくれましたし、だからこそ私達もここまで気を許せている訳ですが……」

「勝手なことばかりしてすいません」


 二人はあまりノリ気ではないだろうけど、事情が事情だけに見捨てられない。

 この緑の魔人の作り話って可能性もあるけど、実際に他の魔人とも会ってみれば作り話かも分かることだしな。


「……ただ、抜け道を教えるに当たって条件があります」

「全然構わない! どんな条件でも呑ませてもらうよ!」

「その条件は、俺達が魔王の領土でやるべきことに協力してもらうこと。協力って言っても、過度な労働は求めないから安心してほしい」

「やるべきこと? 全然協力するけど、こっちもそこまで難しいことはできないぜ?」

「知っている情報の提供と、日用品の確保をお願いしたいんです」

「それぐらいならお安いごようだ!」

「俺達がその目的を達成してから教える。――この条件でも大丈夫なら抜け道はしっかりと教えます」

「全然構わない! 俺にできることは全部やらせてもらうよ!」


 この条件ならばお互いに損はないだろうし、何もかも手探り状態の俺達にも利が生まれる。

 『生命の葉』があるという、『トレブフォレスト』の情報も得られるかもしれないしね。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る