第三百四十六話 小型の機械兵
村を大きく迂回し避けてから更に進んで行くと、今度は魔物っぽくない魔物が行く手を阻むように現れた。
空を飛ぶというよりも、浮遊しているような感じの小型の魔物。
なんとなく厄介そうな感じがするし、魔王の領土だけあって天爛山を下りた先のこの森からまだまだ抜けられる気配がないな。
さっきの平原を真っすぐ進むべきだったかと、今更ながらに後悔しつつも――目の前にいる魔物の考察を行う。
「あの魔物なんですかね? 俺は見たことのない魔物ですし、近い系統の魔物も見たことないです」
「あっしも見たことないですぜ。ダンジョンにも近いタイプの魔物はいなかったと思いやす」
「……多分、人造の魔物じゃないでしょうか? 魔道具とかと近い感じだと思います。あの魔物の中心部に魔石が埋め込まれているのが見えませんか?」
ディオンさんの指摘した箇所を注視して見てみると、確かに胴体の中心部分に赤い魔石が埋め込まれていた。
人造の魔物ということであれば、ダンジョンでも戦ったエレメンタルゴーレムと同種ってことか。
ゴーレムは元々兵器として対人間用に人間が開発した魔物だと、トビアスさんから聞いたことがある。
見た目も大きさも違うが人間から作られた……いや、この魔物は魔人が作りあげた人造の魔物。
「サクッと倒しちゃいやすか? 小さいでやすし、空中に浮いてるって言っても弓で簡単に仕留められやしょう」
「倒すには倒せると思いますが、私は倒すのには反対ですね。ここから見えるだけで四体の人造魔物がいます。あの人造魔物の性能について分かりませんが、仮にダンジョンモニターのような映像を送る魔物だとしたら、私達が侵入してきたことから現在の居場所までバレてしまいます」
「んなこと言ってたら何もできやせんぜ? それに映像を送る魔物って……流石に現実的じゃないでさぁ!」
「単純な戦闘用なら、ゴーレムのような大型にするとは思いませんか? 映像を送っている――は最悪の想定ですが、情報を持ち帰る偵察部隊のような魔物である可能性は高いと私は思います」
目の前の人造魔物をどうするかで、ディオンさんとスマッシュさんが言い争っている。
スマッシュさんに至っては熱が入り徐々に声量も上がり始めているし、この声で話していたら身を隠していても音でバレてしまうだろう。
「二人共、とりあえず落ち着きましょう。言い争った声でバレてしまったら元も子もないです」
「……すいやせん。あっしとディオンじゃ埒が明きやせんし、目の前の人造魔物をどうするかはルインが決めてくだせぇ」
「ですね。どっちの判断だとしても、ルイン君の判断なら異論はありません」
やはりと言うべきか、俺の判断に委ねられてしまったか。
安全にいくのであれば、倒さずに避けていく選択肢がベスト。
ただこの先も小型の人造魔物がいるのだとしたら、その度に避けていかないといけない。
遭遇する度に迂回しまくっていたら、どれだけ時間があっても目的地まで辿り着くことはできない。
……ただ、未知の場所で周りが全て敵なのであれば、慎重に進むに越したことないはず。
かなり悩む選択ではあったが、命を大事にするという意味でも避けることを選らんだ。
「ディオンさんの案でいきましょう。仮に偵察目的だとしたら、魔王軍の兵に一気に囲まれてしまうかもしれません。余力のある内は、出来る限り慎重に進むべきだと思います」
「私はもちろん納得です。できる限り安全重視で行きましょう」
「ルインがそう言うのであれば、あっしも従いやすぜ」
倒して進む派だったスマッシュさんも、どうやら納得してくれたみたいだ。
この人造魔物が今見えている少数であることを祈りつつ、俺達は迂回して先へと進もうとしたその瞬間――。
「それは悪手じゃねぇかねぇ?」
背後から声を掛けられたと同時に、急に俺の肩を掴まれた。
相当警戒していたはずなのに触れられるまで存在に気づかず、完璧に背後を取られている。
声を掛けてきた人物が誰かは分からないが、この魔王の領土に俺達の味方はいないため魔人である可能性が極めて高い。
つい先ほど、有事の際は魔人が人間に似ていようが斬ると心に決めていたが、まさかこんなにも早く接敵するとは思わなかった。
俺は振り返ると同時に腰の剣を引き抜き、肩を掴んできた人物を即座に斬り殺しに動いたのだが……。
「お、おい! 俺は喧嘩を売りにきた訳じゃねぇ! 物騒なものは下ろしてくれ!」
魔人の首元ギリギリまで剣が届いていたが、振り切る前に声を掛けてきた魔人が両手を上げて敵意がないことを俺に示してきた。
姿も見ずに斬り殺そうとしていたため、ここでようやく魔人の姿を確認したのだが、確かに俺達と一戦交えに来たとは思えない戦闘向きではない小さな体。
魔物で例えるならば、ゴブリンに似た緑の体の魔人がそこに立っていたのだった。
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