第三百四十五話 森の中の村


 来た道を戻り、俺達は気持ちを切り替えて右手側を進んで行く。

 相変わらず魔物の数が尋常ではないが、人間というのは大抵の環境には慣れるもので、魔物が跋扈する森の中も苦なく移動できるようになった。


 そんな森の中を進んで行くと、続いて目の前に見えてきたのは村のような場所。

 魔物のいる森の中に作られた強固な防護柵で囲われた村なのだけど……俺はその村を見て大きな違和感を覚えた。


「目の前のあれって村ですかい?」

「私にも村に見えますので、多分村だと思いますよ。でも、魔王の領土に存在する村ということは魔物か魔人の村ですかね? ルイン君、また迂回しますか?」

「そうですね。警戒するに越したことはないので迂回しようとは思っているのですが……少し気になることがあるんです」

「少し気になること? そりゃなんでさぁ! あっしは何も気にならないですぜ?」


 スマッシュさんは、俺の言葉に首を傾げながら質問してきた。

 ディオンさんも分からない様子だし、気になったのは俺だけかもしれないが調べる価値はあると思う。


「村の防衛が過剰すぎることです。魔物が跋扈する森と考えれば当たり前なのですが、さっきディオンさんが言った通りここは魔王の領土です。魔物が跋扈していようと、ここまで過剰に防衛する理由がないとは思いませんか?」

「言われてみりゃそうでさぁ。てことは、村に住んでるのは人間ってことですかい?」

「もちろんその可能性もありますし、普通に魔人が暮らしている可能性もあると思います」

「仮に暮らしているのが魔人だと仮定しますと……魔人も魔物に襲われる?」

「そうです! その可能性を探りたいと思ったんです。人間だったとしても、魔人だったとしても収穫はありそうじゃないですか? ……もちろん、国境が近いという理由で過剰に防衛している可能性もありますけど」


 魔人も魔物に襲われるのであれば、攻め込まれた時等の対策に使える重要な情報となる。

 人間が住んでいたのだとすれば、魔王の領土についての情報を教えてもらえるかもしれない。

 どっちだったとしても、俺は村を調べる価値はあると考えた。


「やっぱルインは凄いとこに目をつけやすぜ! ディオンでもここまでは考えやせんから!」

「村を避けなければという考えで頭がいっぱいになり、確かにそこまでは考えていませんでしたね。ルイン君の言う通り、村の調査をするのは賛成です」

「そういうことでしたら、気づかれないように村の調査をしましょう! この中で一番隠密が得意なのは……」

「あっしでやす。ちょっくら行ってきやすので、二人はここで待っててくだせぇ」

「スマッシュさん一人で大丈夫ですかね?」

「心配いりませんよ。隠密に関してだけは、スマッシュさんの右に出る人はいませんから」


 俺もスマッシュさんの腕を信用してはいるものの、ここは魔王の領土だし少し心配だったのだが、ディオンさんがここまで言うのであれば任せて大丈夫だろう。

 スマッシュさんも緊張している様子が一切なく、いつも通り足取りながらも音は一切立てずに村へと進んで向かって行った。


 それから村を囲うように過剰に作られている柵を超えると、村の中へと消えてしまった。

 目視できないため、何か騒ぎが起こった音が聞こえた場合にすぐ駆けつけられる準備をしつつ、ディオンさんと待機していたが……。


 時間だけが刻々と流れるだけで、村の方からは特に変わった様子が見られない。

 常に張り詰めていた俺の集中が切れ掛ける――それぐらいの時間が経ったタイミングで、村へと侵入した所と同じ場所からスマッシュが帰ってきたのが見えた。


「スマッシュさん、おかえりなさい! 大丈夫でしたか?」

「全くバレる気配がなかったですぜ! それで村の中の様子でやすが、暮らしていたのは人間ではありやせんでした。オーガ種に近しい魔人でやしたね」

「魔人だったんですね。……この過剰な防衛についての理由は何か分かりましたかね?」

「ルインの読み通り、魔物から身を守るための防護柵だと思いやすぜ。村の中では魔物の肉なんかも売られてやしたし、魔物に襲われたような傷を負っている魔人も見受けられやした」


 暮らしていたのが同じ人間ではないことは少し残念だが、読み通り魔人が暮らしているようだ。

 それに魔人は魔物を食べているみたいだし、魔物にも襲われることがこれで分かったな。

 

 魔人といっても魔物を使役できる者は限られているのか、それとも使役できる魔物が限られているのか。

 どちらかは分からないが、これはかなり有益な情報なはずだ。

 ……『生命の葉』探しには役立たない情報だけども。


「やっぱり魔人も魔物に襲われるんですね。中の魔人の様子はどうでしたか?」

「以前見た魔人とは似ても似つかなかったですぜ。強さもあまり感じやせんでしたし、人間と同様に魔人にもかなりの個体差があるんだと思いやす」

「ルイン君の読み通りですね。この情報は相当大きいと思いますよ。スマッシュさん、この村の魔人は私達と友好的に接することができそうでしたか?」

「それは直接関わりを持たなければ分かりやせん。いざとなれば武力でどうにかできると思いやすが……子供の魔人も見受けられやしたし、あっしはやりたくないですぜ」


 俺は魔人を見たことがないから魔物と魔人の区別は難しいけど、スマッシュさんの反応を見る限り、限りなく人に近しい感じなのだろう。

 甘いかもしれないけど、そういうことならば無関係の魔人を襲うことはしたくないし、俺もスマッシュさんと同意見だな。


「そういうことでしたら、予定通り迂回して避けて進みましょう。俺も戦わずに済むのであればそれが良いと思いますし!」

「ルイン君がそういうのであればそうしましょうか。……ちなみにですが、私は魔人なら魔物同様に斬れますし、もしもの場合は躊躇なく斬ります」

「ディオンはそういう人間でさぁね! あっしの代わりに頼みやした」


 真剣な眼差しでそう告げてきたディオンさん。

 スマッシュさんの意見も分かるし、ディオンさんの意見も分かる。

 俺も何かあった際は……どれだけ人間と似ていようが斬る覚悟を今の内に持っておかなければいけないな。

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