第三百四十話 魔王の領土へと続く道
昨日生成した魔力草を売りつつ情報を聞き出した俺は、早速マグヌス茸の採取に向けて天爛山を目指して歩を進めていた。
都を出てから北西方向に進むこと、約三時間。
昨日のゴブリンの巣があった林よりもかなり遠かったが、ようやく目の前に聳え立つ天爛山が見えてきた。
コルネロ山とはまた少し違った威圧感のある山で、自然豊かといった感じではなく岩肌がありありと見えているような険しい山。
麓ということもあり、まだ魔物の気配はしないけど……買取をしてくれたギルドの職員さんの話を信じるのであれば、頂上に近づくにつれて魔物が現れ強くなっていくとの話だった。
どんな魔物がいるかも分からないし、この山を越えた先は魔王の領土。
『竜の谷』で力をつけ、魔物との戦闘にも自信をつけたとはいえ、決して油断はせずに慎重に山を登っていこうと思う。
――とその前に、まずは来週のために向こう側へ抜けられるという洞穴の確認から行っていこうか。
わざわざ都から片道三時間の危険な山の依頼を受けたのだから、下調べをしないと割りに合わなくなってしまう。
何なら下調べがメインで、依頼はついでみたいな感覚で行わないと馬鹿らしくなってしまうため、入念に天爛山についての情報を頭の中に入れながら歩いていく。
ギリギリ道となっている山道からも外れ、事前に教わった情報を頼りに洞穴を探していると、大きな岩が立ち並ぶ場所を抜けた先に目印とされている一本の木が見えた。
岩肌が剥き出しで砂利や小石ばかりの道に生える、一本の逞しい大きな木。
話によればこの大きな木の後ろに洞穴があると言っていたが――あった。
入口は人一人入れるかどうかの狭い隙間。
中は真っ暗でどうなっているか外側からじゃ分からないが、この穴が魔王の領土へと抜けられる洞穴の入口だ。
山に入る前に杖代わりとして使っていた木の棒の先端に布を巻き付け、その布に火を灯して松明とし、少しだけ中の様子も伺ってみることにする。
襲われてもいいように片手は剣の柄を握りつつ、洞穴の広範囲を照らせるように松明は前へと突き出しながら中を探索する。
入口は狭かったけれど中は意外にも広く、横幅が十メートルほどの広さ。
それから洞穴の中は魔物の気配が一切なく、今のところの情報だが比較的安全に進むことができそうだ。
松明の明かりだけを頼りに前へと進んでいくと、正面から光が差し込む場所が見えてきた。
あの出口を抜ければ魔王の領土へと出るのだろう。
ようやく見えてきた俺が目指していた場所。
心臓が高鳴るのを必死に抑えつつ、ひとまずこの目で確認しようと洞穴の中から外を覗き見てみることに決めた。
…………うーん。
洞穴内から外を見た風景は、皇国側とさほど変わりはない。
冷静に考えてみれば、同じ天爛山であるわけだし当たり前のなのだが、頭の中では魔物が蔓延っている地獄絵図を想像していた拍子抜け感が凄い。
こうなってくると、もう少し先を確認したくなってきたが、流石にこの先はどんな危険に出くわすか分からない。
魔王の領土への行き方は分かったことだし、今日のところは引き返して次はディオンさん、スマッシュさんと共に来よう。
次に足を踏み入れた時は、必ず蘇生させることのできる植物『生命の葉』を採取する――そう心の中で誓い、俺は元来た道を戻って天爛山の洞穴へと戻った。
何か魔物に襲われるということもなく、無事に皇国側へと戻ってきた俺は、気を取り直して依頼のマグヌス茸の採取に取り掛かる。
まずは情報通り、頂上を目指してこの天爛山を登らないといけないんだよな。
魔王の領土をこの目で見たせいで、正直気持ちは依頼どころではないのだが、冷静になるためにも一度大きく深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。
焦りは絶対に禁物。
焦らずとも来週には魔王の領土に足を踏み入れると自分に言い聞かせ、頂上付近を目指して歩みを進める。
天爛山の登山を始めて約一時間ほどが経過した辺りから、急に魔物の数が増えてき始めた。
ギルド職員さんの情報通り、山を登るにつれて魔物の数も多くなり、力のある魔物の種類も増えてき始めた。
『竜の谷』でも見かけたサイクロプスの姿も確認でき、足場の悪い山での戦闘は避けるべく、サイクロプスには会敵しないように気をつけながら……俺は頂上付近まで辿り着くことができた。
道中に戦った魔物は計三十体ほど。
サイクロプス以外は積極的に倒しにいったということもあり、かなりの数の魔物を倒してきたが特に危ない場面などもなく、ほとんど一撃で屠ってこれた。
力の匙加減も大体掴めてきたし、相手の力量もなんとなく量れるようになってきた気がする。
『竜の谷』、ゴブリンの巣、『天爛山』。
短い期間でかなりの数の魔物と戦ったお陰で、『竜の谷』で身に着けた体にも慣れてきている。
以前ほど体の感覚のズレもなくなってきた気がするし、魔王の領土へ向かうに当たっての自信もつけたところで……。
依頼として出されていた、マグヌス茸も発見することができた。
さて、これで依頼完了なのだが、もちろん何もせずこのマグヌス茸で依頼達成する訳はなく、久しぶりの植物鑑定を行いたいと思う。
危険な山の頂上付近にしか生えていないキノコ。
割とすぐに見つかったはものの、わざわざ高額な報酬を出してでも探している人がいるということは普通のキノコではないはず。
美味しいキノコだから依頼したとかなら拍子抜けではあるが、俺はかなり期待を込めつつマグヌス茸の鑑定を行ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます