第三百三十七話 初めての依頼
Bランクの依頼を一度全て確認し、いいなと思った依頼が二つあった。
一つはマグラヌ茸の採取。都から北西に進んだ先にある天爛山に生えている、マグラヌ茸を五本採取してきてほしいという依頼。
植物の採取は得意中の得意だし、採取地も一週間後に向かう予定のある天爛山。
得意分野でもあり、向かう場所である天爛山の下見にも行けるうってつけの依頼と言える。
正直な話、マグヌス茸の採取の依頼を即断即決で受けてもいいぐらいだったけど……。
どうしても、折角強くなったのにという思いが引っかかってしまっている。
ということで、いいなと思った二つ目の依頼は魔物の討伐依頼。
東の街道に出現するブラックキャップの討伐依頼だ。
ブラックキャップはゴブリン種で、戦闘能力はゴブリン種の中で最強とも呼ばれている種類。
ただ、最強と言えど結局はゴブリン。
ナイフによる近接から弓による遠距離もこなせる万能な魔物だが、その肉体的アドバンテージによりBランク止まりの魔物。
今の俺の実力なら楽に狩れると思う。
どちらも得意分野だし、楽にこなせる依頼ということで二つに絞った訳だけど、はたしてどちらの依頼をこなそうか。
残った方の依頼が明日もまだ張り出されていたら、明日はそのもう一方を受ける予定だし、正直な話どちらでもいいんだけど……。
報酬が少し高いブラックキャップの討伐依頼を受けようか。
ブラックキャップの依頼用紙を掲示板から剥がし、先ほどの依頼受注用の受付へと持っていく。
人がいないため並ぶこともなく、先ほどの受付嬢さんに対応してもらって問題なく依頼を受注することができた。
早速準備を整えてから、東の街道へ向かってブラックキャップ狩りを始めようか。
朝市の行われている商業通りで軽く準備を整えてから、そのままの足で東の街道へと目指す。
依頼内容の再確認なのだが、ブラックキャップ五匹の討伐。
制限期間は三日間で、討伐の証として左耳を剥ぎ取ってくることと言いつけられている。
五匹以上討伐しても大丈夫だけど、追加報酬は一切なく合計で金貨二枚の依頼だ。
グルタミン草やスパイスを生成しては売っていた身からすると、正直金貨二枚だと少ないと感じてしまうが、護衛する相手はおらず自分の力量次第でいくらでも時間を短くできることを考えれば妥当な金額。
サクッと依頼をこなし、一日で二つの依頼達成を目指して頑張るか。
……と、俺はそんな安直な考えで東の街道へとやってきたのだが――。
ブラックキャップを捜索して、約一時間が経過しようとしているが未だに一匹も狩れていない。
ブラックキャップを倒せないのではなくて、ブラックキャップの存在が確認できないのだ。
言われてみれば東の街道と言っても範囲はかなり広いし、東の街道のどの辺りで襲撃されたのかという情報を一切調べてこなかった。
キョロキョロしながら歩いているだけじゃ、絶対に見つからないというのはこの一時間で身に染みて分かった。
一度戻って情報を集めた方が早い気がしてきたが、とりあえずこの街道を利用している商人に話を聞いてみようか。
ブラックキャップを捜索しつつ、情報を聞き出せそうな商人が通らないかも探していると、程よい速度で走っている馬車が都の方面からやってくるのが見えた。
荷物の量からして商人だし、あの速度なら止めても大丈夫なはず。
盗賊と間違われないかは少し心配だけど、丁寧に対応すれば聞いてくれるだろう。
「すいません。少し話を伺いたいのですが良い――」
「ダメダメ。危ないから離れて!」
「少しだけでいいんですけど」
「駄目だって。走行の邪魔をするなら兵士を呼ぶよ?」
馬車と並走する形で話しかけたのだが、御者に話し終える前に軽くあしらわれてしまった。
せめて馬車の中にいるであろう商人と話がしたいのだが、取り合ってくれる感じがない。
この馬車は諦めて別の馬車を――いや、流石に大人しく都に戻った方が早いか。
そう諦めかけた時、俺の声が中まで聞こえたのか馬車の幌がゆっくりと開けられた。
馬車の中から外の様子を覗いているのは、少し肉付きの良い男性。
すぐに商人だとピンときた俺は、ここぞとばかりにその男性に話しかけた。
「すいません! 少し話を伺いたいのですが駄目でしょうか?」
「私にかね? ……少しくらいなら構わんが、馬車は止まらんよ?」
「大丈夫です。このまま並走しながら質問するので、もし知っていたら教えてください!」
「……分かった。知っていたら情報提供しよう」
少し怪訝そうな表情だが、なんとか質問の許可は得られた。
馬車の音がうるさいため、俺は大きめの声量でストレートに質問をぶつける。
「この東の街道にブラックキャップという魔物が出現すると聞いたのですが、何かご存じないですか? 実は討伐依頼を受けまして、ブラックキャップ探しているんです!」
「ブラックキャップ? ああ、巷で噂になってる強いゴブリンのことかね? それなら、この場所から更に東に二十キロほど進んだ林に巣作ってるから注意した方がいいって忠告を受けた気がするよ」
「二十キロ先の林に巣があるんですね! ありがとうございます! 情報提供、本当に助かりました!」
情報提供してくれた商人さんに何度も頭を下げ、俺は馬車との並走を止めた。
良い商人さんだったため、有益な情報を得られたが……ここから更に二十キロ先か。
ブラックキャップ討伐よりも、向かうまでが非常に面倒くさいな。
これで金貨二枚という報酬に不満が募るが、俺は【青の同盟】さん達にコルネロ山までの護衛+山での生活を四日間も付き合わせたからな。
それでいて報酬も金貨四枚だし、それに比べれば優良すぎる依頼か。
冒険者側の立場にたったことで色々と考えさせられながら、俺は二十キロ先の林を目指して歩を進めたのだった。
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