第三百三十六話 影響力


 時刻は早朝。

 本で目を疲れさせてから寝たお陰か、旅の疲れもすっかりと吹き飛ぶほどぐっすりと眠れることができた。


 さて、今日からは一応休養日となってはいるが、俺はお金稼ぎのために依頼を受ける予定。

 準備をしてから、冒険者ギルドへ行ってみるとしようか。

 

 軽くシャワーを浴びてから準備を整えた俺は、早速朝の都へと繰り出した。

 まだかなり早い時間だと思うのだが、どうやら朝市なるものをやっているらしく、商業通りは既に活気で溢れている。

 俺はそんな朝市の露店で適当に買った焼き貝にシチュー、甘いタルトのようなものを朝食として食べながら、冒険者ギルドへと辿り着いた。


 ボンブルクと同じように、少し変わった外観。

 建物自体の大きさは都なだけあり、ランダウストのギルドと同じくらい大きい。

 皇国の冒険者ギルドは悪い思い出しかないため、少し躊躇いつつも扉を押し開けて中へと入った。


 既に活気で溢れていた商業通りとは違い、冒険者ギルドの中は人が少なく閑散としている。

 やはり万国共通で冒険者は朝が弱いみたいだ。


 これなら変に絡まれることもないだろうし、気楽に依頼を受けるとしようか。

 俺は複数ある受付から依頼受注用の受付へと向かい、ひとまず受付嬢の話を聞いてみることにした。


 何度も依頼を出す側としてはお世話になっているため、依頼を掲示板から選ぶ――という流れは分かっているが、やはり一度は説明を受けておきたい。

 ダンジョンは何度も攻略しているが、依頼は初めてだしどこまでのランクの依頼を受注できるかも分からないしね。


 そんなことを考えながら受付の前に立つと、受付嬢さんがニッコリと微笑みながら俺を出迎えてくれた。

 服装は皇国だけに少し変わっているけど、受付嬢さん自体のこの何とも言い難いこの感じはグレゼスタやランダウストと変わらないな。


「いらっしゃいませ。こちらは依頼受注用の受付となりますが、よろしかったでしょうか?」

「はい。実は依頼を初めて受けるのですが、少し説明をお願いしても大丈夫ですか?」

「依頼を初めて受注するということでしょうか? 冒険者になりたての方ですかね?」

「いえ。冒険者には大分前からなっているのですが、依頼を受けるのが初めてといった形です。王国にあるダンジョンで主に活動しておりました」

「王国のダンジョン……。ランダウストのダンジョンでしょうか?」

「あっ、そうです! ランダウストのダンジョンに潜っていました」


 ランダウストは王国の三大都市の一つでもあるし、そのランダウストのダンジョンは皇国でも知れ渡っているようだ。

 話が通じたことに少し嬉しく思いつつ、俺は話を進めていく。


「となりますと、ダンジョンの攻略階層によって冒険者ランクも上がっていると思うのですが……。一度冒険者カードを拝見させて頂いてもよろしいでしょうか?」

「はい。こちらが冒険者カードです」


 俺は言われた通りに冒険者カードを取り出して受付嬢さんに見せると、何やら台座のようなものに置いて調べ始めた。

 身分証として使ってこなかったが、もしかしたら俺のダンジョンでの情報が冒険者カードに記載されているのかもしれない。


「えーっと、最高到達階層が三十階層ですか! 凄いですね。ベテラン冒険者じゃないですか!」


 淡々としていて冷めた感じの受付嬢さんが、少し声を上擦らせてそう言ってきた。

 十階層を超えれば中級者と言われていたし、反応を見る限りでもやっぱり三十階層到達は結構凄いことらしい。


 確かに三十階層までの道のりは険しかったし、思い出すだけで冷や汗が滲んでくる。

 でもそんなキツい思い出すらも、俺にとっては良い思い出でしかない。


 魔力溜まりの洞窟のお陰で以前よりも大分強くなったし、全てが達成できたらまたみんなとダンジョンに潜りたいな。

 ――っと、思わずダンジョンのことを思い出して感傷に浸ってしまったが、今は懐かしんでいる場合ではない。


「ベテランと名乗っていいのか分かりませんが、本当にダンジョンにだけ潜っていました。……それで三十階層到達だと、どれくらいまでの依頼を受けられるんでしょうか?」

「依頼経験が無しということも踏まえても、Bランクまでの依頼なら受注することができますよ。Cランク以上の依頼を三回こなせば、Aランクの依頼も受けられるようになります」

「えっ! いきなりBランクの依頼を受けられるんですか!」

「はい。ランダウストのダンジョンの三十階層到達はAランク冒険者に値しますので。――他には何か質問等はございますか? ないようでしたら、後ろの依頼掲示板から依頼を選んで頂き、その依頼用紙をこちらの受付までお持ちください。それで依頼の受注は完了となります」

「質問は特にありません。ご説明頂き、本当にありがとうございました。早速依頼の方を選ばせて頂きます」

「どうぞごゆっくりとお選びください」


 そう言ってお辞儀した受付嬢さんに俺もお礼と共にお辞儀をしてから、後ろの依頼掲示板へと向かう。

 それにしても、いきなりBランクの依頼を受けられるとは驚いたな。


 グレゼスタに居た時の【青の同盟】さん達のランクが、確かDランクだったはず。

 【蒼の宝玉】と揉めてBランクからDランクに落とされたというのも加味しても、ランクを落とされる前の【青の同盟】さん達と同ランクってことだもんな。


 冒険者歴としても短いし、大した実績も残していないと思っていたけど……。

 ランダウストダンジョンの影響力の大きさには、ずっと驚かされている。


 スポンサー料も破格の金額だったし、注目度も計り知れなかった。

 まさか王国を出てもその影響力に助けられるとは思っていなかったけど、何はともあれありがたい限りだ。

 早速、依頼掲示板で良さそうな依頼を吟味し、お金を少しでも稼ぐために頑張ろうか。

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