第三百三十五話 抜け道
それからおじいさんから『生命の葉』についての話と、その近しい歴史についてを詳しく教えてもらい、人を生き返らせることのできる『生命の葉』はこの世に存在するという根拠を持てた。
話を聞くまでは正直雲を掴むような話で現実味はなかったのだが、詳しい情報を得られたことで俄然やる気が出てきたな。
「おじいさん、詳しいお話を聞かせて頂きありがとうございました。本当に貴重なお話で非常にタメになりました!」
「そうかいそうかい。こんな話で喜んでもらえたのなら良かったわい。……お、そうじゃ。『生命の葉』の物語が書かれた本があるから、興味があるなら読んでみるかの?」
「そんな本があるんですか? よろしいのであれば、是非読ませてほしいです!」
おじいさんは立ち上がると、一冊の本を本棚から取り出して持ってきてくれた。
本の題名は絵の名前と同じく、『生命の葉』と書かれている。
「一度持ち帰って、読み終わったら返しに来てくれたらいい」
「え? 持ち帰っていいんですか?」
「儂はあと二冊持っておるからのう。仮に盗まれたとしても困らんのじゃ」
ほっほっほと笑いながら、そう言ってくれたおじいさん。
俺はここで読ませてもらう気満々だったが、そこそこ分厚めの本だし居座った方が迷惑になるのかもしれない。
ここはお言葉に甘えて、一時的に借りて読み終わったら返しにこようか。
「そういうことでしたら、遠慮なくお借りさせて頂きます! 必ず返しに来ますので!」
「じっくりと読んでから返しに来たらいい」
「今日は本当にありがとうございました! この御恩は絶対に忘れません!」
「若い人に歴史を教えるのは儂の道楽でもあるからのう。何にも気にしなくてええ」
頷きながら微笑むおじいさんに頭を下げながらお礼を伝えてから、俺とディオンさんは『遊蛍堂』を後にした。
見ず知らずの俺を歓迎してくれ、丁寧に情報を教えてくれた優しい店主さんだったし、『生命の葉』の物語が書かれた本まで貸してくれた。
『エルフの涙』のおばあさんと似た、非常に親切なおじいさんに心が非常にぽかぽかとしている。
ボンブルクの冒険者のような人もいれば、『遊蛍堂』のおじいさんのような人もいる。
俺は後者のような人になりたいし、見ず知らずの人にも親切に接しようと改めて思えた。
「いやぁ、お茶菓子もお出ししてもらいましたし、本当に良い人でしたね。歴史にも詳しく良い情報も頂きましたよ」
「ですね! 本もお借りしましたし、俺はこの後宿屋でゆっくりと読みたいと思います。ディオンさんはここからどうしますか?」
「私ももう宿屋でゆっくりしたいと思います。スマッシュさんの動向も気になりますが、探しに行っても意味がないでしょうしね。明日以降はどうしますか? まだ情報を探しますか?」
「これ以上は手に入らない気もしますので、一週間は各々休息としましょう。旅の疲れを取りつつ、ディオンさんも出発まで備えてください」
「分かりました。それでは一週間は私も都を満喫させてもらいます。ですが、夜ご飯は一緒に食べましょう。何か問題が起こるかもしれませんし、軽い報告も兼ねて顔だけは合わせておきましょう」
「ですね! 夜ご飯は一緒に食べましましょうか」
それから俺はディオンさんと宿屋を探し、一緒の宿屋の別室を取ってから別れた。
取った宿屋は一人部屋だけど、ベッドと机と椅子のみのシンプル且つ狭めの安宿。
ただシャワーとトイレもついているし、値段の割には悪くないと思う。
シャワーを浴びて旅での汚れを落としてから、俺は椅子に座りながら早速本を読むことにした。
本はあまり得意ではないけど、情報を得るためと思い気合いを入れて読み進める。
内容は基本的におじいさんから教えてもらった内容を面白おかしく書いたようなもので、目新しい情報は記載されていなかったのだが……。
唯一気になったのが、魔王の領土への入り方についてはやけに詳しく記載された。
魔王の領土と皇国の境は大きな魔法壁で遮られており、正攻法で入ることは不可能らしい。
壁に触れずに飛び越えるか、飛行生物に乗って上を通るかの二択らしいなのだけど、都から北西に進んだ先にある天爛山。
その天爛山には、中を通り抜けることができる秘密の洞窟があるらしく、そこの洞窟を潜ることで魔王の領土へ行くことが可能らしい。
この情報が正しいかどうかも分からないし、正しかったとして未だにその洞窟が使えるかどうか分からないが、本当に魔法壁なるもので遮られているのであれば、行って試してみるのもありかもしれない。
天爛山から『トレブフォレスト』までの道のりも大雑把にだけど記載されているし、その洞窟から魔王の領土に入ることさえできれば、迷わずに『トレブフォレスト』に辿り着ける可能性も高い。
忘れないよう本の内容をしっかりと記憶してから、俺は借りた『生命の葉』の本をゆっくりと閉じた。
おじいさんのお話に続き、借りた本からも有用な情報を手に入れることができた。
本当に『遊蛍堂』のおじいさん様様だし、明日ディオンさんに貸して読んでもらったあと、本を返しに行く際は情報料代わりに『遊蛍堂』の商品を購入をしようと思う。
正直、骨董品に関してはいまいち分からないけど、これだけ親切にしてもらって無償でさよならとはいかない。
そのためにも明日から依頼を受け、この二週間で少しでもお金を稼がないといけないな。
依頼は初めて受けるため意外と楽しみだし、明日に備えて今日はもう寝ておこう。
慣れない本を読んだことで目の疲労も大分溜まったし、旅の疲れもあるためぐっすりと眠ることができそうだ。
明かりを消し布団に潜って、俺は少し早いけど眠りについたのだった。
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