第三百三十四話 生命の葉
お店の奥は古風なお部屋へと繋がっていた。
畳が敷かれた独特な香りが漂う部屋。
そんな部屋の真ん中には丸いテーブルがあり、その丸テーブルにはみかんと茶色い焼き菓子が置かれている。
「適当なところに座っとくれ。今、お茶を持ってくるからのう」
「わざわざありがとうございます」
店主のおじいさんは台所の方に向かい、お茶を淹れに行ってくれた。
その間に部屋の中を眺めてみると、寺院にあった絵と似た感じの絵が飾られていたり、茶碗やツボなどの土器も置いてある。
どれも相当年季が入っているのが分かるため、おじいさんが歴史について詳しいというのは部屋の家具を見ただけで納得できた。
「パッと見た限りでは質素な印象でしたが、ちゃんと見てみると絶妙なバランスで家具が配置されていますね。畳や襖が良い味を出しています」
「確かに寺院と似たような印象を受けますね。ディオンさんの言う通り、この部屋凄く落ち着きますし、とても居心地が良いです」
「ですね。この家の持ち主ならば、きっと詳しい情報を持っていると思いますよ」
『遊蛍堂』の部屋についての感想をディオンさんと話し合っていると、おじいさんがお茶を淹れて戻ってきた。
おぼんには湯呑茶碗が三つ置かれており、その湯呑茶椀から昇る湯気と共にお茶の良い香りが鼻孔をくすぐる。
「待たせて悪かったのう。儂に気を使わずに足を崩して座ってええぞ」
「ありがとうございます。お言葉に甘えて座らせてもらいます」
「ほれほれ、お茶と共に煎餅も食べてみてくれ。ゆっくりしながら儂の話を聞くとええ」
お言葉に甘え、俺はテーブルに置かれていたお煎餅を手に取り口へと運ぶ。
程よい醤油の塩っ気と、巻かれた海苔が非常にマッチしていて美味しい。
焼き菓子と言えば甘いクッキーとかは好んで食べていたが、お煎餅は初めて食べたかもしれない。
味も食感も非常に好みだし、何と言っても口に残ったお煎餅のかけらをお茶で流し込む……。
このしょっぱさとお茶の渋みが絶妙にマッチしていて、いくらでも食べれてしましおうな程美味しい。
次々とお煎餅を手に取りたくなる衝動を抑え、俺は今日訪ねた目的であるおじいさんの話に耳を傾けた。
「ほんで、寺院の絵……フルスオン寺院の『生命の葉』の絵について聞きたいんじゃったかな」
一瞬にして、色々と分からない言葉がおじいさんの口から発せられたが、俺が伝えた絵のことを言っているのだと思う。
あの寺院の正式名称がフルスオン寺院。
『生命の葉』というのは、巫女、神主、呪術師が描かれた絵の名前なのだろう。
「はい、そうです。あの絵についてを詳しく知るため、俺達は王国からやってきたんです」
「ほほぉ。お主たちはわざわざ王国から調べにきたのかね。フルスオン寺院と儂は何の関係もないんじゃが、なんだか誇らしい気持ちになるのう。これはしっかりと間違いのない話を教えねばならぬな」
「是非お願い致します。私達はできる限り詳しい情報を知りたいので、どんな些細なお話でも聞かせて頂けるとありがたいです」
今日初めておじいさんとの会話に混ざり、そうお願いしたディオンさん。
おじいさんはゆっくりと頷くと、一つ咳払いを挟んでから話を始めてくれた。
「あの絵はのう、一つの実話を元に描かれた絵じゃと言われておる。その話については知っておるかのう」
「はい。とはいっても、恐らく脚色されたものを知っているだけなんですけど」
「ほーほー。官長の娘であった巫女を呪い殺した呪術師がおり、その呪術師に一人の住職が復讐を果たした――というのが大まかな話じゃな」
「やっぱり出てくる人物が少し違うだけで、そのお話は知っていますね」
「そうじゃったか。それでは物語を語るのはやめて、詳しい情報についてを話させてもらうわい。あの絵に一番大きく描かれていたおり、絵の名前にもなった『生命の葉』。それが人を生き返らせる植物じゃと言われておる」
生命の葉。
俺はこの植物を追い求めて、この皇国までやってきた。
ここまで情報がおとぎ話のみで、非常にふわふわとしていて曖昧だったものが、一気に現実味を帯びてきた。
おじいさんは実話を元にしたお話と言っていたし、人を生き返らせることのできる生命の葉も存在すると思っていいはずだ。
「生命の葉は人間の住む土地には生息しておらず、呪術師が拠点としていた魔王の大陸にのみ生息している植物。ただ、生命の葉を探しに何人もの住職や冒険者が魔王の大陸に足を運んだが、これまで生きて帰ってきたものは一人としておらんのじゃ。じゃから、生命の葉が本当に存在するかは未だに不明。その存在は絵でしか確認されておらん」
「……そうなんですね。もしかしたら、生命の葉は創作物である可能性が高いということでしょうか?」
「なんとも言えんが、その可能性もあるといったところじゃろう。じゃが、巫女が呪術師に呪い殺されたのも、その巫女が生き返ったのも本当の話である可能性が非常に高い。様々な文献にその時の話が残されておるし、その巫女の子孫もおるからのう」
おじいさんのお話を聞き、俺はごくりと生唾を呑み込んだ。
残念ながらその存在は現在まで確認されていないようだが、曖昧だったものから現実のものへと変わった。
魔王の大陸を探し回れる実力をつけた俺なら、生命の葉を見つけられる可能性が高いはずだ。
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