第三百三十二話 皇国の都
「見えてきましたよ。あれが皇国の都です」
「おおっ! なんかすげぇ建物がど真ん中に建てられてやすぜ! なんですかい、あの建物は!」
「あれは寺院といって、王国でいう教会みたいなものらしいですね。一般の人でも参拝可能らしいですし、興味があるようなら行ってみてはいかがですか?」
「なんだ教会ですかい。生憎、あっしは無宗教なもんで興味はこれっぽっちもありやせん。寺院なんかよりも、まずは歓楽街の様子でも見に行くとしやすかね!」
確かに、スマッシュさんは宗教とは程遠い存在だな。
寺院より歓楽街。――このスマッシュさんの発言を熱心な信者の方が聞いたら、滅茶苦茶に怒られそう。
周囲を確認して誰もいないことに安堵しつつ、俺達は都の中を目指して歩を進める。
流石に栄えている都なだけあり、他国からの訪問者ということで厳重な検査を行ったのち、ようやく街の中へと通してもらうことができた。
街に入ってまず見えるのが、遠くからも確認できた街の正面奥に建てられている大きな寺院。
築年数も経っていて木造だしで、一見煌びやかさには欠けているようにも思えるのだけど、造りが非常に細かく神を象られた像も建てられていることから、単純に良い素材で綺麗に作られている教会よりも神聖な感じがする。
建物が古いながらも大事に扱われていることが垣間見えるため、その古さが非常にいい味を出している。
「近くで見るとより凄いですね。ボンブルクの街から思っていましたが、皇国の人々の信仰心が強い理由が分かった気がします」
「確かにそうですね。私もしばらくの間、寺院に目を奪われましたよ。スマッシュさん同様、参拝は別にいいかなって気持ちでしたが、ちょっと参拝してみたくなりました」
「えー、そうですかい? 別に普通の大きな建物ってだけでさぁ!」
「まぁ……スマッシュさんには少し難しいかもしれませんね。ルイン君、一緒に参拝に行きますか?」
「いいですね! 折角、皇国の都に来て時間もある訳ですし、参拝しましょうか」
「そういうことですので、私とルイン君は参拝に行ってきます。スマッシュさんは歓楽街に行って来ていいですよ」
「…………………二人が行くならあっしも行きやすぜ」
「いえ。文句しか言わないの分かっていますので、歓楽街に行ってきてください」
ついてくると言ったスマッシュさんに、深々と頭を下げて歓楽街に行くようお願いしたディオンさん。
酷い扱いのようにも感じるが、確かに文句を言うのは目に見えているからなぁ。
寺院の前で失礼なことを言ったらトラブルになる可能性もあるし、申し訳ないけど俺もディオンさんの意見に賛成かもしれない。
「本当に酷いですぜ! 別に文句なんか言わないでやすが……。まぁそういうことなら、一足先に歓楽街に行ってきやしょうかね!?」
「くれぐれも羽目を外しすぎないようにしてくださいね。ボンブルク同様、何かあっても助けませんし置いていきますから」
「あっしは大丈夫ですぜ。ボンブルクでトラブルを起こしたのはルインでさぁ! ルインは絡まれないように気を付けるんですぜ?」
「はい……。くれぐれも気を付けます」
ディオンさんからスマッシュさん、スマッシュさんから俺へと注意し合い、スマッシュさんは一人歓楽街へと向かって行った。
俺は見た目のせいで舐められてしまいがちなため、また問題に巻き込まれないようくれぐれも注意をしないといけない。
今回はディオンさんも一緒だから、多分大丈夫だとは思うけど……。
警戒するに越したことはないからな。
「それでは私達も寺院へと向かいましょうか」
「はい! 行きましょう」
賑わいを見せている商業通りを素通りし、俺とディオンさんは寺院の前の階段へとやってきた。
商業通りも歴史を感じる古風なお店が並んでおり、じっくりと見て回りたかったが、まずは寺院の方で参拝を済ませる。
寺院までの道のりに段差の高い階段が五百ほどあり、この階段を上りきらなければ寺院へ辿り着くことはできない。
俺もディオンさんもこれぐらいの階段なら苦でもないが、一般の人からすれば苦行といえるほどの段差幅と段数。
それでも参拝する人で埋め尽くされているため、それだけ信仰の深さが伺い知れる。
額に汗を滲ませながら登る参拝客の横を、俺とディオンさんは軽快に上って行き、階段上の寺院の前へと辿り着いた。
「上も凄い人ですね。ルイン君、見てください。水が破格の値段で売られています」
「五倍くらいの値段でしょうか? 階段上まで水を運ぶのも大変だと思いますが、それにしても高いですね」
「需要と供給ってところですかね。ささ、列に並んで順番を待ちましょうか」
階段上にも人が大勢おり、俺とディオンさんは最後尾に並んで順番が来るのを待つ。
スマッシュさんと同じく、俺もこれといって何かを信仰している訳ではないため、参拝の作法とか知らないんだけど大丈夫だろうか。
ここに来て不安になってきたが、前に並んでいる人のを真似ればまぁ大丈夫か。
俺よりも前にいる人の動きに注視しながら待っていると、人がどんどんと捌けていき寺院がはっきりと見えてきた。
「一般の人は寺院の中まで入れないみたいですね。……ん? 寺院の中に何か大きな絵が飾られていますね」
ディオンさんが指さす方向を見てみると、確かに寺院の中に大きな絵が飾られていた。
なんとなくその絵に見覚えがあるのだが、どこで見たのか思い出せ――。
ふと絵の全体像を見た時に、何に既視感を覚えたのかを俺は思い出した。
この絵は……おばあさんが教えてくれたおとぎ話の絵だ。
俺が聞いたおとぎ話と登場人物が微妙に違うから気づくのに遅れたけど、この絵は間違いなくおとぎ話をモチーフにした絵だと思う。
姫は巫女。王子は神主。魔女は呪術師。
これらに当てはめたら、全てが完璧に一致する。
「ディオンさん! あの絵、俺が情報を探そうとしているおとぎ話の絵だと思います!」
「本当ですか? ……確かに言われてみれば、ルイン君が話してくれたおとぎ話に構図が似ている気がしますね」
「王国には少し脚色されて広まったのかもしれませんね。……この寺院に勤めている人なら、『トレヴフォレスト』についても詳しいことを知っている可能性がありますよ」
思わぬところでクリティカルな情報を得られた。
寺院で働いている人を探してもいいし、寺院の絵についてを尋ねて回るのもアリだと思う。
おとぎ話という引っかかりしか持ち合わせていなかったけど、これは情報を聞き出す良い引っかかりが手に入った。
とりあえず感謝の意味も込めて心から参拝し……早速街で情報集めをしたいところだ。
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