第三百三十一話 不慣れな土地


 格安の宿屋しか取れなかったということもあって、三人で身を縮こませながらなんとか睡眠を取り、俺達は早朝にボンブルクを出立した。

 ここからの経路は、三つの村と一つの街を経由しながら、最短で皇国の都を目指すことになっている。


 情報集めはボンブルクで済ませてあるため、また変な人達に絡まれるなんてことはないだろうけど……。

 旅では何が起こるか分からないため、十分に注意しながら進んで行きたいと思う。



「うぅ……。まだ都には着かないんですかい」

「もう少しかかると思います。……それにしても、皇国に入ってから文句ばっかりですね。ボンブルクではあれだけテンションが上がっていましたのに」

「皇国の料理が微妙に口に合わないんでさぁ! ボンブルクは比較的大きな街だったから、美味しい料理もあったんでやすが……村の飯はひでぇひでぇ!」

「そうですかね? 俺は全然美味しく食べれてますけど」

「ルインは、あの糞不味い草を生で食えるほどの味覚オンチでさぁ! あっしの気持ちは絶対に分からないですぜ!」


 別に味覚オンチではないと思うけどなぁ。

 我慢して食べているだけで、ダンベル草もできることなら食べたくない。

 ただまぁ……ダンベル草のせいで、味に関しては驚くほど守備範囲が広くなったから、スマッシュさんの主張に強い否定ができないのが辛いところ。


「確かに食が合わないとは思いますが、昨日食べた変な虫の幼虫の煮物なんかは美味しかったですけどね」

「うへぇ。ディオン、思い出させないで欲しいですぜ! 味というよりも、虫を日常的に食べる習慣がそもそも合わないんでさぁ! 飯の話をしたらまた腹が痛くなってきやすから、都についてを話しやしょう!」


 スマッシュさんは、この旅の期間で食べた珍味を鮮明に思い出してしまったのか、吐き気を必死に抑える様子を見せながらそんな提案をしてきた。

 経由する村と街は全て辿り着いたし、もう少しで皇国の都のはずだから、確かに都についての話を今一度行うのはいいかもしれない。


「都について話すと言いましてもねぇ……。都では特別にやることとかはないんですよね?」

「そうですね。やること言えば魔王の領土についてと、『トレブフォレスト』についてを調べるくらいです」

「それは流石に勿体ないでさぁ! 折角、皇国の都まで来たんですぜ? 遊びに来た訳じゃありやせんが、少しくらいは羽を伸ばすのもアリだとあっしは思いやす!」


 うーん……。

 軽く情報を集めてすぐに魔王の領土に向かうつもりでいたけど、少しくらいの休養日はあってもいいのかもしれない。


 皇国に入ってからの期間、強い魔物に襲われることはなかったけど頻繁に魔物とは遭遇していたし、如何せん金がないせいで徒歩での旅となっている。

 王国とあまり変わりなかった帝国とは違い、完全に不慣れな土地で旅の疲れは出ているだろうし、魔王の領土に万全な体調で入るという意味でも、一週間くらいの休養は取ってもいいかもしれない。


「スマッシュさんの案にも一理ありますね。一週間くらいですが、皇国の都で休養を取るとしましょうか」

「よっしゃ! 流石ルインでさぁ! 話が分かりやすぜ!」

「ルイン君。スマッシュさんを甘やかさなくてもいいんですよ? この人は疲れた疲れたと口では言いますが、全然動けるところを散々見てきますから」

「いえ、甘やかしている訳じゃないですよ。帝国から皇国までほとんど休みなしで移動していて、旅の疲れもありますでしょうし少し休息を取りましょう。危険とされている魔王の領土に行く訳ですし、俺は万全な状態で向かった方がいいと思ったんです」

「そうですぜ! 万全な状態で乗り込むためにも、都での休息は大事でさぁ!」

「まぁルイン君がそう言うのであれば、私は異論はありませんが……」


 ディオンさんも納得してくれたところで、都で一週間ほどだが滞在することに決めた。

 俺はその間に、冒険者で依頼を受けて少しでも金を稼いでおこうと思う。


 なんだかんだ言って、冒険者になったはいいものの依頼自体は受けたことがないからな。

 こんな形で依頼をこなすとは思っていなかったけど、【青の同盟】さん達や【鉄の歯車】が親身になって依頼をこなしてくれたように、俺もしっかりとこなしてみたいと思っている。


「へっへっへ! こりゃ楽しみになってきやしたぜ! なんでも都には色々な遊び場があるみたいでさぁ! 二人も少しは羽目を外して遊んだらいいですぜ?」

「私はパスです。浮かれている暇もありませんし、情報集めと体を休めるのに時間を使わせて頂きます」

「俺もパスですね。別でやりたいことがありますので、遊びはまた別の機会にします」

「本当に二人は堅いですぜ。……あっしは羽を伸ばして遊びますぜ?」

「くれぐれも変なことに巻き込まれないでくださいね。仮に捕まったりでもしたら、都に置いていきますから」

「限度は守りやすから安心してくだせぇ! ――うぅ。早く都に着かないですかねぇ!?」


 休息を貰えると知ったスマッシュさんは、先ほどまでの体調が悪そうな感じはどこへやら完全に元気を取り戻した様子。

 この元気さなら休息はいらないのでは……とも思ってしまうけど、休息をなしと言った瞬間に元気じゃなくなるのも目に見えている。

 とりあえず、これから向かう皇国の都は最後の休息場所として、俺もしっかり体を休めつつ魔王の領土に向けての準備を進めようか。

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