第三百三十話 二つの条件
路地裏に早々に戦いを放棄した六人を並ばせ、気絶した四人を寝転がせる。
このまま後処理を起きてる六人に任せ、俺は立ち去っても良かったのだが、手間をかけさせられた訳だし情報ぐらいは貰っておきたいと考えた。
俺がこうしている間にも、ディオンさんとスマッシュさんは情報収集を終えているだろうし、チンピラの相手をしていたせいで情報を集められなかったでは申し訳がない。
俺は路地裏に転がっている汚い雨水の貯まったバケツを手に取り、気絶した地図の冒険者の顔に雨水をかけた。
「――ぶわっ! ……ひ、ひぃいいいいっ!!」
水が顔にかかったことで飛び起き、俺の顔を見るなり地図を返さなかった冒険者は情けない声を上げた。
先ほどまでの態度とは大違いだが、あれだけの力量差を見せつけられたらこんな反応になるのも仕方ないか。
必死に俺から逃げようとしているが、掌底で突いた腹部の痛みが酷いせいか、逃げるに逃げられない状態となっている様子。
怯えているし、逃げることができないこの状況なら、すぐに情報を聞き出せそうだ。
「目が覚めたみたいですね。どうしますか? 俺とまだ戦いますか?」
「す、すいませんでしたあああ! もう二度と絡みませんので、ど、どうか許してください!!」
「戦う前に謝っていれば良かったものの……。あれだけ忠告してあげたのに突っかかってきたのは貴方です。――残念ですが、ここで死んでもらいましょうかね」
「ひいいいいいい!! い、いやだ! だ、誰か助けてくれえええ!!」
俺が笑顔で死の宣告すると、地図を返さなかった冒険者は泣いて助けを求め始めた。
そんな悲痛な叫びに、戦いから放棄し並んで座っている六人の冒険者も声を押し殺しながら泣いている。
……ちょっとした脅しのつもりだったんだけど、流石にやりすぎてるかな?
見た目で舐められた訳だし、これぐらいやらないと――と思ったんだが、収拾をつけないと路地裏だからといっても人が来てしまう可能性がある。
「助けを呼んでも誰もきませんよ。……そうですね、俺の出す条件を呑むのであれば、見逃してあげてもいいです。これが最後の警告ですが――どうしますか?」
「の、の、呑む! 俺にできることなら、なんでもやらせてもらいます!! だ、だから命だけは助けてくれっ!!」
俺が弱ければ金を毟り取られていただろうし、自分だけは助かりたいなんて身勝手な奴と思わなくもないが……。
キツイ仕置きになっただろうし、これぐらいが丁度良い塩梅だと思う。
さっさと条件を呑むことを約束させてから、情報を聞き出すとしようか。
「俺が出す条件は二つです。一つ目はもう二度とさっきのような行為をしないと約束すること。俺からだけなく、俺以外からやってるところを見た瞬間に――一切の容赦をしないと思ってほしい」
「は、はい! 二度と、二度と……ああいった真似はしないと、ち、誓います!」
俺はここから皇国の都に向かい、そのまま魔王の領土へと向かう訳だから、この冒険者達の行いを監視することは絶対にできない訳だけど……。
しっかりと釘を刺しておくことで、少しでも抑止力になればいいと思う。
「二つ目の条件はさっき話した通り、皇国の都についての情報をください。適当な情報ではなく、正確な情報をお願いしますね」
「わ、分かりました! そっちの六人とも情報を共有して話させて頂きます!」
「……二つとも条件が呑めるということで、“今回”だけは見逃します。ただ、本当に次はないですからね」
俺は本気の殺意を込めて、冒険者達にそう言い放つ。
静かな路地裏に生唾を呑み込む音だけが聞こえ、俺の真ん前で座っている地図を返さなかった冒険者は、滝のようにダラダラと冷や汗を流している。
これだけしっかりと脅しておけば、そうそう同じ過ちを犯すことはないはずだ。
それから、俺は絡んできた冒険者達から、持っている皇国の都についての情報を聞き、路地裏を後にした。
七人全員が本気で協力したということもあり、思っていた以上に都についての情報を手に入れることができたが……。
時間に関しては予定よりもかかってしまっている。
ディオンさんとスマッシュさんを待たせているだろうし、早く待ち合わせの場所に向かわないとな。
俺は路地裏から早足で分かれた場所へと向かうと、俺を待っている二人の姿が見えた。
一時間後という集合時間をかなり過ぎてしまっていたからか、二人は心配そうに辺りをキョロキョロと窺っている。
「ディオンさん、スマッシュさん。申し訳ございません! 予定の時間よりも過ぎてしまいました」
「あっ! ルイン君、無事でしたか。珍しく時間に遅れていましたので、迷っているのではないかという心配しましたよ」
「そうですぜ! あっしが遅れることはあっても、ルインが遅れることはなかったでさぁ。迷子になっているんじゃないかって、ディオンと話してたところですぜ?」
「すいません。ちょっとチンピラのような冒険者に絡まれてまして……。そのせいで無駄に時間を食ってしまいました」
俺が軽く事情を説明すると、驚いたような表情を見せた二人。
「チンピラの冒険者ですか! ルイン君は無事……ですよね?」
「はい。特に被害などはないですね」
「そりゃワイバーンゾンビを一撃で倒しちまうんですぜ? ルインの心配よりも絡んだ冒険者の方が心配になっちまうレベルでさぁ! ……そのチンピラ冒険者はどうしたんですかい?」
「大丈夫ですよ。ちょっと痛めつけただけで、大怪我とかはさせていませんので」
「それなら良かったですぜ! うっかり殺しちまって、殺人犯として指名手配——なんてことも無きにしも非ずでさぁ」
確かに、力加減を間違えて殺してしまわないようには、くれぐれも気をつけなければいけない。
俺が絡まれた側とはいえ、殺してしまったら俺が悪者になってしまうだろうしね。
「加減だけは十分に注意して、軽いお仕置き程度に留めてあります」
「それなら良かったです。こっちは特に事件もなく情報を集めることができましたので、予定通り問題なく都へ向かえると思いますよ!」
「ディオンさんもスマッシュさんもありがとうございます! 俺も情報は集めてきましたので、お互いの情報をすり合わせてから都を目指すとしましょうか」
「そうですね。ひとまず今日は宿を取って、そこでルイン君と私達の情報を精査しつつ、明日の朝一に出発しましょうか」
「うーしっ! 皇国の都——。遊びに行く訳じゃないのは分かってやすが、楽しみですぜ!」
無事に合流のできた俺達は、まずは今日泊まる宿の確保。
それから集めた都の情報の共有を行い、明日の出発に向けての準備を進めたのだった。
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