第三百二十八話 皇国
【サンストレルカ】での、久しぶりの食事会を終えた翌日。
昨日は食事会を終え、二人にお礼を伝えてから翌朝出発ということもあってすぐに解散。
俺は手頃な宿屋で一泊してから、ディオンさん、スマッシュさんとの待ち合わせ場所である街の入口へと向かっている最中だ。
本当は『ぽんぽこ亭』で一泊したかったんだけど、時間も時間だったし中途半端な挨拶をするぐらいなら止めようと思い、手頃な宿屋に決めた。
その選択に若干の後悔をしつつも、街の入口を目指して歩を進めると……。
俺を待っている二人が既に立っており、スマッシュさんが遅れてやってきた俺に両手を振ってくれている。
「すいません。少し遅れてしまいました」
「別に遅れていないですぜ? あっしらが早く来すぎただけでさぁ!」
「それよりも、元パーティの皆さんとはどうでした? ちゃんと話せましたか?」
「はい。お二人のお陰でしっかりと話すことができました! 背中を押して頂き、本当にありがとうございます」
「それなら良かったですぜ! 気まずいままは一番駄目でやすから」
「何はともあれ、これで何の憂いもなく魔王の領土に向かえますね! 未知の場所です。気合い入れていきましょう」
「はい! お二人共、よろしくお願い致します!」
俺はディオンさんとスマッシュさんの二人に深々と頭を下げてから、ランダウストの街を出発し、皇国を目指して出発したのだった。
一度、帝国に行っているということもあるし、今回は二人と一緒ということもあって、何の事件もなく国境を超えることができた。
帝国同様、国境を跨いだからといって大幅に風景が変わるとかもなく、整備された綺麗な道を進んで、俺達は国境から一番近い『ボンブルクの街』へと辿り着いた。
「ここが皇国の街ですかい。風景はあまり変わりなかったように感じやしたが、街はちょっと様変わりしてやすぜ」
「確かにどことなく信仰の強さを感じますね。オリエンタルな街並みですし、王国や帝国の街とはちょっと違って見えます」
「本当にそうですね。帝国は違いがあまり分からなかったですが、皇国は目に見えて違いが分かるので、別の国に来た感が強くてちょっとワクワクします!」
異国の地に来たというの実感を初めて湧くことができた。
グレゼスタの街を始めて観光した時のような、どこか懐かしい感情が芽生えつつ、俺はボンブルクの街を見渡しながら歩く。
「ちょっと観光したい気分になりやすが、目的地を探さないといけませんぜ?」
「ですね。もう日も暮れかけてますから、明日出発するためにも今日中に探しておきたいところです」
「やっぱり聞き込みといえば酒場でしょうか? 俺は皇国にあるミヤコを目指せと教えられているんですよね。だから、ひとまずミヤコへ向かいたいんです」
「ミヤコ……。聞いたことのない街でさぁ。探し出せやすかね?」
「ミヤコっていう街ではなく、都っていう区別なだけだと思いますよ。ルイン君、王国でいう王都……みたいな感じですよね?」
「俺も詳しくは分からないんですけど、ディオンさんの認識で合っていると思います!」
俺もミヤコという街だと思っていたが、ディオンさんがそう言うのであればそうなのだろう。
それにしても、村や街ではなく都か……。
グレゼスタやランダウストも非常に栄えていた場所だが、それ以上に栄えている場所。
王都に行ったことがないため想像がつかないが、なんだかワクワクしてきたな。
「そういうことですかい。それならすぐに探せますぜ? 皇国で一番大きな街を探せば、都ってとこに着きやしょう」
「それでは都とは別の、皇国で一番大きな街に着いてしまいますって。皇国で一番栄えている“場所”を探せば、そこが都だと思います」
「あっしもそう言いたかったんでさぁ! ルイン。とっとと探して、明日に備えて体を休めやしょう!」
「ですね! 三手に分かれて一気に情報を集めましょうか。一時間後に丁度この場所で集まりしょう」
「分かりました」
「了解でさぁ!」
こうして、俺達は一度バラバラに分かれ、“都”についての情報を集めることにした。
王国の王都、帝国の帝都を探すような感じだろうし、すぐに見つかるだろうから分かれる必要もなかっただろうけど……情報はいくらあってもいい。
さてと、とりあえず何処で情報を探そうかな。
ディオンさんは露店で聞き込み、スマッシュさんは酒場に聞き込みに行ったようだから、俺は冒険者ギルドにでも行こうか。
少し前までの俺だったら、初めての場所での冒険者ギルドはなるべく避けていたんだけど、実力をつけた今なら意識的に避ける必要はない。
もちろん治安が悪いし、面倒ごとを避けるという意味では極力避けるのがいいんだろうけどね。
俺はそんなことを考えつつ、ボンブルクの冒険者ギルドへとやってきた。
冒険者ギルドは……王国のと大差ないな。
違う点といえば、やっぱり冒険者やギルド職員の服装だろうか。
言い表すのが難しいけど、なんとなくひらひらしたような服の人が多い。
ただ俺がそう思うということは、向こうも俺の服装が変わっているように見えるのか、かなりの注目を浴びている気がする。
目立たないように立ち回ろうと思っていたけど、これじゃどう頑張っても無理だな。
開き直って、手当たり次第に声を掛けてみよう。
「すいません。ちょっといいですか?」
「あ? 俺になんか用かよ」
「皇国の都ってどこにありますか? よければ、情報を教えてください」
「都? 聖都の場所が知りたいのか?」
「聖都……ですか? はい! 是非、その場所を教えてください!」
「くくく。……別に構わねぇよ。地図は持っているか?」
俺はディオンさんがランダウストで買っておいてくれた、皇国の簡易的な地図を広げて冒険者さんに見せた。
口調も荒いし、見た目も強面の人だったけど……親切に教えてくれるようだ。
親切な冒険者さんはペンを取り出し、地図に聖都なる場所までの簡易的なルートを書くと、地図を返してくれた。
俺はお礼を伝えてから、地図を受け取ろうとしたのだが――親切な冒険者さんは地図を放そうとしない。
……なるほど。
この極悪なニヤケ面を見る限り、ただの親切な冒険者さんって訳じゃなそうだな。
やっぱり冒険者ギルドは失敗だったと思いつつ、俺は面倒くさいながらも相手にすることを決めた。
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