第三百二十七話 オーバーケア
「スカルナイトにサイクロプス、デッドリッチー。極めつけはワイバーンゾンビ……! 本当に凄まじい魔物ばかりじゃないですか!」
「本当にルインが倒したの? この短期間でそれだけの成長。ちょっと考えられない」
「それだけ魔力溜まりの洞窟が凄かったんですよ! ちなみにですが、これがスカルナイトが持っていた剣です」
俺は帯剣していた漆黒の剣を二人に見せる。
店で買うとすれば、白金貨数十枚はするであろう玉鋼の剣に、二人は食いつくように見ている。
「刀身の綺麗な剣ですね! スカルナイトになっても使われていたとしたら、長年に渡って手入れなんかされていなかったと思いますが……そんなことを微塵も感じないです!」
「ちょっと持たせて。……買った剣じゃないの? ロザリーの言う通り、長年手入れされていなかったとは思えない」
「買ってないですよ。本当に元冒険者のスカルナイトが持っていた剣です!」
素直に信じてくれないアルナさんに、なんと説明すればいいかもやもやする。
ワイバーンゾンビの死体を全て粉塵爆発で粉々に吹き飛ばさず、爪くらいは持って帰ってくればよかったな。
「怪しいけど、まぁ信じてあげる。それで、これから次にどこへ行くの?」
「次は皇国に向かおうと思っています。明日には出発予定ですね」
「皇国ですか……。また随分と遠いですね」
「ルイン、皇国には何をしに行くの? ただの観光って訳じゃないでしょ?」
「……皇国から魔王の領土に行きます。俺はそのために強くなりましたので」
「やっぱり魔王の領土。魔王の軍勢が襲ってきたことと、何か関係があるってことだよね?」
関係があるといえば関係があるし、ないと言えばないとも言える。
アーメッドさんのことは軽く説明したけど、復讐目的で魔王の軍勢を滅ぼしに行くつもりではないからな。
『トレブフォレスト』に行き、蘇生の植物を探すのが目的。
このことについてなんて答えようか迷っていると、俺が口ごもっていると勘違いしたのか、ロザリーさんが間に入ってきてくれた。
「ア、アルナさん! そこまでにしましょう! アルナさんの近況も聞かせてくれませんか?」
「む? 今が丁度いいところ。ロザリーも気になるでしょ?」
「気にならないといえば嘘になりますが、無理強いはよくないですよ! ささ、アルナさんの近況を聞かせてください!」
別に隠したいとかは思っていないのだが、一つ間を置いてくれたのは助かったな。
自分の中で考えをまとめ、帰る間際にキチンと話せる範囲の話をしよう。
「私の近況? 特に何もない。二人みたいになんかした訳でもないし」
「あれ? 副ギルド長さんから、アルナさんがダンジョンにも潜っていたって情報貰いましたけど、その後ってどうなったんですか?」
アルナさんもダンジョンに潜っていたのか。
確かに解散を報告した時の別れ際、アルナさんは立ち止まっているつもりはないと言っていた。
あの発言から鑑みても『亜郷楽』で働きつつ、現在進行形で冒険者としても活動していたのか。
「…………やめた。ソロで潜ってなんか違うってなって、『亜郷楽』のマスターに頼んでパーティを組んだけど、それもなんか違かった」
……なんともいえない回答に、俺もロザリーさんも口ごもってしまう。
てっきり未だにバリバリでダンジョンに潜っているのかと思っていたし、多分ロザリーさんもそう思って話を振ったのだろうが、予想外の反応に場の空気が固まった。
「ま、まぁ人それぞれ合う合わないはありますもんね! アルナさんも、またダンジョンに潜りたくなったら潜ればいいんですよ!」
「多分ならないと思う。何より色々と面倒くさい」
「ダンジョン攻略が面倒くさいんですか? 一緒に攻略していた時は、全然そんな風には見えなかったですけど」
「うーん……。ロザリーなら私の気持ちが分かるはず」
「確かに――アルナさんの気持ちは分かります。私はまだ低階層だから大丈夫なんですけど、深い階層に潜るとなったら私もそうなっちゃうかもしれないですね!」
二人の歯切れも悪く、理由がいまいち伝わってこない。
俺達のパーティが上手くいってたからこそ、他のパーティだとやりづらいみたいなことだろうか。
「どういう理由なんですか? お二人なら、どんなパーティでも即戦力だと思いますけど……。やっぱり慣れたパーティと比べると違うんですかね?」
「パーティっていうより、ルインの有無の差」
「俺の有無の差……ですか?」
「そうです! あまり意識してこなかったんですが、色々とルインさん任せだったなぁというのを、感じることが多々ありますね! 情報集めや荷物の準備に金銭管理。全てルインさんに任せていましたので」
「一番しんどいのが、ダメージを負った状態で動くこと。これが本当にしんどいし怠い」
「……っ! アルナさん、分かります! 当たり前になっていましたけど、普通に考えたら怪我をしてすぐに回復ってのはあり得ないことですからね! ちょっとしたかすり傷でも、ルインさんは惜しげもなく回復してくれましたので、体がそれに慣れてしまって違和感が凄いんです!」
俺は薬草を生成できるため、惜しげもなくポーションや回復団子を使用していた。
お店で買うとなれば、絶対にダンジョンの収入だけでは賄えないし、我慢することを強いられるのが当たり前。
俺は良かれと思って、二人が少しのダメージを負った瞬間に回復をしていたのだが……。
この過保護な回復なせいで、今困らせてしまっているってことか。
「……それは完全に盲点でした。善意で回復をしていたんですけど、本当にすいませんでした」
「いやいや! 謝ることじゃないですよ! ルインさんのお陰で快適にダンジョン攻略ができていたってだけのことですから! 感謝しているんですよ?」
「ん。甘やかされてたから忘れてたけど、ダンジョン攻略は面倒くさいし大変なのを思い出したってだけ。ルインがいなけりゃ、面倒くさくてダンジョンなんて潜ってらんないって話」
「そうです! ルインさんがいなければ、ダンジョンを深くまで潜れませんから! ……ですので、全てが終わったらまた私達と潜ってください!」
ロザリーさんが綺麗にまとめ、笑顔でそうお願いしてくれた。
酷い解散をしたのに、こうして戻ってこられる場所を作ってくれているということが、本当に嬉しく……思わず涙が出そうになる。
「…………ロザリーさん、アルナさん。ありがとうございます。全てが終わったら、またダンジョンに潜りましょう!」
「私はまだ分からないけどね。暇だったら付き合ってあげる」
「それで充分です。暇だったら、また一緒にダンジョンに潜ってください!」
こうして心がぽかぽかした気持ちで、『レフェルヴューズ』での食事会が終わった。
二人には本当に感謝しかないし、いつか二人の期待に応えられるようになりたい。
心からそう思えた――食事会だった。
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