第三百二十六話 食事会


 ワインと共に出されたアミューズから始まり、オードブル、スープ、お魚料理と一皿ずつ運ばれ、甘くて美味しいアイスで口直し。

 それからメインであるお肉の料理を堪能し、デザートが運ばれた後に珈琲と小菓子で食後の一息をついている。


 一品、一品は少ないようにも思えたけど、食べ終えてみると満足感が高く、色々な料理を味わうことができて楽しい食事だった。

 コース料理の余韻に浸りながら、珈琲と小菓子を食しつつようやく本題の話へと移る。


「本当に美味しかったです! ロザリーさん、素敵な料理屋さんを紹介してくれてありがとうございました!」

「いえいえ! 私はここのお店知っていただけで、お礼を言われることはしてません! ……でも、喜んでくれたみたいで良かったです!」

「ん。ワインも美味しかったし満足」

「野菜専門店も良かったですし、新聞社の食堂のスイーツも美味しかった。ロザリーさんは色々なお店を知ってますね!」

「お恥ずかしい話ですけど、少し前までは食べることだけが生きてる中で唯一の楽しみでしたので……。でも、ルインさんのお陰で、最近は仕事の方も楽しくできているんです!」


 満面の笑みを浮かべながら、そうお礼を言ってきたロザリーさん。

 それこそ俺のお陰ではないと思うけど……ギルドでの仕事が順調そうで良かったし、その最近の仕事についてを詳しく聞きたいところだ。


「パーティを解散してから、ロザリーさんに迷惑が掛かっていないか心配でしたので、楽しく仕事に取り組めていると聞けてホッとしてます! アルナさんとアレックスさんから、初心者冒険者のサポートをやっていると聞きましたが、詳しくはどんな仕事なのか教えてくれませんか?」

「えーっとですね……。やってること自体は、以前までと大きく変わらないかもしれないですね! 【サンストレルカ】に加入したみたいに、初心者冒険者のパーティに参加してサポートする仕事をしているんです! もちろん、ルインさんやアルナさんみたいにガンガン階層を突き進むようなことはありませんから、戦闘の手解きやダンジョンでの進み方、注意点を教えているって感じですね!」


 なるほど。

 俺とアルナさんは、ギルド職員による穴埋めサポートを利用――もとい悪用し、ロザリーさんをパーティメンバーの一人として引き込んだのだが、今は本来の目的にそったサポートをしているということのようだ。


 今の俺の状況からしたら無理だけど、確かに初心者冒険者に手解きするのは楽しそうだと思う。

 色々な出会いもあるだろうし、もし自分が手解きをした冒険者達が強くなっていったら、自分が強くなるのとはまた別の喜びがあるだろうしね。

 似て非なるものだろうけど、ディオンさんやスマッシュさんが強くなっていく過程は、俺としても見ていて楽しい部分があった。


「楽しそうですね。ガチガチの攻略も楽しかったですけど、指導するのもよさそうです! 俺も何のしがらみとかがなくなったら……冒険者の指導とかしてみたいですね」

「毎日が楽しいですよ! 請け負ってるパーティが三つありまして、どのパーティも素直な人が多いので余計に教え甲斐があるんです! ルインさんもアルナさんも、やってみたら楽しいと思いますよ」

「そう? 私は教えるのやだけどな」

「アルナさんは……まぁそうかもしれませんね。知り合いじゃない人と接するのもあまり想像がつかいないですもん」

「それは流石に失礼。今、接客業してるし、知り合いじゃない人とも接してる」


 そういえば、確かに『亜郷楽』で働いているし接客業はできるのか……?

 そう言われても尚想像がつかないし、思えばアルナさんの制服姿はさっきも見たけど、接客している姿は一度も見たことがない。

 ……はたして本当に接客しているのだろうか。


「アルナさって接客しているんですか? 店主のお姉さんは、料理担当って言っていたような記憶があるんですけど」

「……料理出したり、飲み物出したりしてる。これも接客」


 怪しいところではあるけど、まぁ一応接客なのか。

 客とは一言も喋っていなさそうだけど、そのツッコミを入れたら少し機嫌が悪くなりそうだし流すことにした。


「とりあえず私の方は楽しくやれてます! もちろん、この三人での命を削るような攻略の方が楽しかったですけどね!」

「そう言ってもらえて嬉しいような、申し訳ないような……」

「いやいや、責めるつもりで言ったんじゃないので気にしないでください! ――それで、ルインさんの方は一体何をしていたんですか? 話せない内容でしたら話さなくて大丈夫ですが、話せる内容でしたら是非聞きたいです!」

「私は話せない内容でも聞く。話せ」


 ロザリーさんの近況を聞いたところで、俺の話となった。

 解散の仕方が仕方だっただけに、ロザリーさんは気を使ってくれている様子だが、アルナさんからはその気が微塵も感じらずに思わず笑ってしまう。

 

「笑ってないで早く」

「そう、急かさないでも話しますよ。……【サンストレルカ】を解散した後は、帝国に行っていたんです。お二人は帝国にある『竜の谷』って知っていますか?」

「聞いたことがありません。何か凄そうな名前の場所ですね!」

「私は知ってる。アーサーとの会話聞いてた」

「確かに、アルナさんはそうでしたね。ロザリーさんに向けて簡単に説明すると、帝国にはワイバーンが住処としている渓谷がありまして、そこの渓谷の名前が『竜の谷』と呼ばれているんです」

「ワイバーン……。ダンジョンでも見なかった魔物ですね! ルインさんは、そのワイバーンを倒しにいったんですか?」

「違う。魔力なんとかってところに行ったはず」


 ロザリーさんの質問を否定し、あやふやな回答を出したアルナさん。

 アーサーさんとの会話を聞かれていたのは分かっていたが、この様子だと本当に一言一句聞かれていたようだ。


「そうです。『魔力溜まりの洞窟』って言う場所が『竜の谷』には存在していて、俺はそこの洞窟に用があって帝国に行ったんです」

「魔力溜まりの洞窟ですか。名前の通り、魔力が溜まっている洞窟なんですか?」

「はい。その洞窟にいれば、魔法やスキルを使う際に大気中の魔力で補えるため、ほぼ無限に使えるって訳なんです。……俺はその現象を利用して、洞窟に籠もって修行してたんです」

「なるほど。……ルインが一気に強くなった理由が分かった。一人だけ卑怯な場所にいってずるい」

「ずるいと言われましても……。俺も強くなるのに必死でしたので!」

「ルインさん。この短い間で、アルナさんがそこまで言うほど強くなったんですか? 私も少し気になりますね! 強い魔物とか倒した――みたいな話はないんですか?」

「面白い魔物は結構倒しましたよ。聞きたいのであれば話しますけど……この話いりますか?」

「いる」

「聞きたいです!」


 魔物の関連の話は蛇足になると思っていたが、二人が食い気味に返事をしてくれたので少し驚く。

 まぁ折角のゆっくりと話をできる時間だし、そういうことなら洞窟での出来事から順を追って話していこうか。

 それから俺は『竜の谷』での出来事を、ワイバーンゾンビ討伐まで事細かに二人に話したのだった。


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