第三百二十五話 三人の再開
『亜郷楽』のマスターのお姉さんに怒鳴られながらも、その声を無視してお店を後にしたアルナさんと共に、俺は冒険者ギルドへとやってきた。
アルナさんの話によれば、ロザリーさんは未だに冒険者ギルドの職員と働いているようで、どうやら初心者冒険者のサポート役として方々のパーティに加わっているらしい。
ロザリーさんは、出会った最初の頃は話すのもたどたどしかったけれど、ダンジョンに潜ってからはしっかりと喋れるようになっていたし、ギルドで働いていた時よりもイキイキとしていた。
俺達とのパーティの契約が終わった後でも、こうしてダンジョンに潜れる仕事に就けたのは本当に良かったと思う。
そんなロザリーさんの近況についてを聞きながら歩き、俺達は冒険者ギルドの受付へと向かった。
冒険者ギルド内をザッと見渡したが――ロザリーさんの姿は見当たらないため、俺達は副ギルド長のアレックスさんに尋ねることに決めた。
「おや! 久しぶりですね。ルインさんにアルナさん」
「アレックスさん、お久しぶりです。実はロザリーさんに会いたくてやってきたのですが、居場所を知っていますか? ダンジョンモニターでも確認したのですが、見つけることができなくて……」
「なるほど。マティックさんに用事があって来たんですね。……丁度、サポートを終わってギルドに戻ってきたところですので呼んできます」
「本当ですか! ありがとうございます!」
ロザリーさんがダンジョンにいるのであれば、久しぶりに潜ろうかとも思っていたのだが、どうやら仕事を終えてギルドへと戻ってきていたようだ。
勢い任せにダンジョンに潜らず、ギルドに来てみて良かった。
アレックスさんが呼びに行ってくれているのを待っていると、間もなくしてギルドの奥からロザリーさんが飛び出てきた。
俺達の姿を見るなり、大急ぎでこちらへと駆けてくる。
「ルインさん、アルナさん! お久しぶりです!!」
「ロザリーさん、お久しぶりです!」
手を差し出されたためその手を握り返すと、ブンブンと勢いよく上下に振られた。
本当に嬉しく思ってくれているようで、若干涙目になりながらロザリーさんは笑っている。
「ルインさん、戻ってきたんですね! でも、全てが終わった……という訳ではないんですよね?」
「はい。少しだけ時間が取れたので、お二人には挨拶をしようと思って会いに来たんです」
「そうです……よね。――でも、会いに来てくださり本当に良かったです! ちょっと待っててくださいね! 副ギルド長にお願いして、今日は上がらせてもらってきますので!」
「アルナさんもそうでしたが、大丈夫なんですか? 無理にとは言わないですよ? こうして会えただけでも――」
「大丈夫です! 待っててください!」
ロザリーさんは俺にそう告げると、再び急いでギルドのバックルームへと戻って戻って行った。
そしてすぐに、私服に着替えて出てきたロザリーさんと合流し、俺達は冒険者ギルドを後にする。
「すいません。わざわざ時間を設けてもらって」
「大丈夫です! ずっと働き詰めでしたし、今日も一仕事終えて残るは書類にまとめるだけでしたので、この作業はいつでもできますから」
「私も大丈夫」
「アルナさんが大丈夫じゃないのは、知っているんですけど……。お二人共、ありがとうございます!」
怒鳴られながらも、それを全てシカトして出てきたからな。
絶対に大丈夫ではないのは分かるが、優先してくれたのは素直に嬉しい。
「それじゃ、どこかに行きますか? 落ち着いて話せるところに行きたいですね」
「んー。『亜楽郷』?」
「えーっと……それ、アルナさん大丈夫なんですか?」
即座に『亜楽郷』を提案してきたアルナさん。
さっき怒鳴れたところを逃げてきたばかりなのに、即座にこの提案ができるのは流石アルナさんだな。
「私、良いお店知ってますよ! 『レフェルヴューズ』ってお店なんですけど、個室で美味しい料理が食べれるんです!」
「へー、初めて聞くお店ですね。お腹も空いているんで、俺は大賛成ですけどアルナさんはどうですか?」
「私もそこで良い」
「良かったです! ダンジョン帰りだったので、お腹ぺこぺこだったんですよ! それじゃ案内しますので、『レフェルヴューズ』に行きましょうか!」
ロザリーさんの提案に乗り、俺達は『レフェルヴューズ』なるお店へと向かった。
辿り着いたのは、ダンジョン近くの一際繁盛していそうな料理のお店。
……このお店が『レフェルヴューズ』か。
「かなり混んでいますね。空いているでしょうか?」
「大丈夫だと思います! 個室は値段が高い分、取る人もあまりいませんので!」
ロザリーさんのその言葉通り、店員さんに個室の利用を伝えるとすぐに中へと通してもらうことができた。
一階が一般的な席で、二階が個室となっている。
店員さんに案内されるがまま階段を上り、一室の席へと通された。
「こちらがお席となります。ご注文がお決まり次第、お呼びください」
「あっ、注文は決まってます! 三人共メインのフルコースでお願いできますか? ……ルインさんもアルナさんも大丈夫ですよね?」
「俺はロザリーさんにお任せしますよ」
「それで大丈夫」
「……ということですので、コース料理でお願いします!」
「かしこまりました。メインのフルコースですね。お食事前にシャンパーニュはいかがでしょうか?」
「お願いします!」
「かしこまりました。お持ち致します」
品の良さそうなウェイトレスは頭を下げると、部屋から出て行った。
……なんか想像していたお店と違って緊張する。
高級店っぽいし、貧乏暮らしが長い俺からしたら何をしていのか分からない。
「シャ、シャンパーニュってなんですか?」
「えっと、お酒ですね! ルインさんってお酒飲めないんでしたっけ?」
「飲んだことはないです。一応飲める年ではあるんですけど……」
「すいません! 先に聞いておけばよかったですね……。アルナさんは飲めますか?」
「もちろん。バーで働いているし」
バーで働いていることとの因果関係は分からないけど……俺だけがお酒を飲めないのか。
ここで初めて飲んでもいいと思うけど、お酒に弱かったりしたら粗相を働きそうだし少し怖いな。
「ルインのは私が飲む。……個室だしマナーとかはいいでしょ」
「まぁ、そうですね! アルナさんお願いします!」
「アルナさん、ありがとうございます」
ウェイトレスがお酒を持ってくる間にそんな会話をしつつ、俺は料理が運ばれてくるのをそわそわとしながら待ち……。
個室で周りの目を気にしなくて良かったのが大きく、俺は運ばれてきた料理をちゃんと味わいながら食べることができ、久しぶりの三人での食事を気兼ねなく楽しむことができたのだった。
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