第三百二十二話 魔王の領土
動けるようになったアーサーさんと共に上へと戻り、お店の奥の一室でお茶を振舞ってもらった。
お茶とお菓子をつまみつつ、魔王の領土についての情報を聞く。
「まず魔王の領土は、王国、帝国、皇国に挟まれているように位置する場所じゃ。領土の大きさについては不明な点が多いが、少なくとも王国と同等かそれ以上に大きい場所というのは頭に入れておいてほしい」
「王国よりも広いんですか?」
「ああ、そうじゃ。その上、生息する魔物の強さが桁違い。もちろん一般的な魔物も多くおるが……魔王が直々に生み出した魔物は、強さの桁が違う」
「魔王が直々に生み出した……? 魔物を生み出す力を持っているんですか?」
「うーむ……。ルインは、ダンジョンの構造については知っておるか?」
「魔力塊がダンジョンの奥にあって、その魔力塊によってダンジョンが形成されているんですよね?」
ここランダウストのダンジョンの魔力塊は一際大きく、信じがたいほどの広さのダンジョンが形成されているとトビアスさんから聞いた。
だからこそ、生きているかのように日ごとにダンジョンの構造が変わる――だったはず。
「そうじゃな。ダンジョンの奥には高濃度の魔力の塊が存在する。……ルインが一番分かりやすいのは魔力溜まりの洞窟。魔力塊は、あの場所のもっともっと魔力の濃い場所だと思えば、想像はつきやすいはずじゃ」
「魔力溜まりの洞窟の……もっともっと魔力が濃い場所。少し想像がつきました」
「あの洞窟よりももっと魔力が濃くなると、魔物が生まれるようになるんじゃよ。……そして、魔物が生まれるほどの魔力を保有しているのが魔王」
なるほど。かなり分かりやすい。
つまり魔王は、ダンジョンを形成する魔力塊と同等以上の魔力を持っているということだ。
……想像以上の化け物のようだな。
「魔王は大量の魔力を保有しているため、魔物を生み出すことできる。それで魔王が生み出した魔物は強いということですね」
「そういうことじゃ。魔王の領土では、魔王が直々に生み出した魔物に遭遇しないように動ければ、危険度を大きく減らすことができる」
「索敵能力が必須ということですか」
「そうじゃな。索敵能力か変装能力じゃ。魔物に化けることができれば、魔王の領土も怖くない場所じゃよ」
変装能力は持っていないけど、索敵能力の方ならばディオンさんとスマッシュさんがいる。
俺も常人よりかは索敵能力に長けているし、最低限の条件は揃えられている。
「とまぁ、魔王の領土の気をつけるべき点はこんなもので……本題に入ろうかのう。ルインが探しておるのは、皇国のおとぎ話についてじゃったよな?」
「はい。おとぎ話に出てくる魔女の森を見つけたいんです」
「ワシが皇国で情報を集めた時は、その魔女の森は魔王の領土の北東に位置する場所にあると聞いた。名称は『トレブフォレスト』。昼間でも目の前すら見えないほど、真っ暗な森だと聞いておる」
『トレブフォレスト』。
魔王の領土に人間が住んでいないことから、名称を知っても意味はなさそうだが、大まかな位置と特徴を知れただけでも大きい。
魔王の領土の北東に位置する森で、何も見えないほど真っ暗な森。
これだけの情報があれば、なんとか探しだすことはできるかもしれない。
「アーサーさん。情報を教えて頂き、ありがとうございます!」
「ワシが知っておるのはこれだけじゃがな。魔王の領土にも少ししか入ったことがないし、『トレブフォレスト』が実在するのかどうかも怪しいからのう」
「それでも……何の手掛かりもなかった俺には、本当に大きな情報です」
一度、皇国で情報を集めないといけないと思っていたが、アーサーさんのお陰でこのまま魔王の領土へと向かうことができる。
不安がないといえば嘘になるが、魔王の谷へ向かう準備は『竜の谷』で済ませてきた。
「王国から魔王の領土に入るのであれば、『リートロートの村』から真っすぐ向かうのが一番安全じゃ。……ただ、『トレブフォレスト』は皇国側から入るのが近い。一度、皇国に行ってから魔王の領土を目指すのが得策じゃな」
「確かにそうですね! 一度、皇国に行ってから、魔王の領土を目指したいと思います。アーサーさん、色々とありがとうございました!」
「いやいや、ワシが諦めた夢をルインが成し遂げようとしとるんじゃ。できる限りの情報提供はするわい。……無理言って手合わせまでしてもらったしのう」
そう言って楽しそうに笑ったアーサーさん。
思えば、アーサーさんもおとぎ話についてを調べていたということだよな。
皇国に行って話を調べ、実際に向かおうとして諦めた。
……このことからアーサーさんも、誰か生き返せたい人がいたのかもしれない。
「………………それじゃ、俺は皇国に向かいます。無事に戻ってこれたら、結果がどちらであれ報告にきますね」
「ああ、良い報告を待っておる。くれぐれも命を優先するんじゃよ? 何事も命あっての物種じゃからな」
「はい!」
俺はアーサーさんが、おとぎ話についてを調べた理由についてを聞こうとして……やめた。
ただ単な好奇心から調べただけかもしれないし、自分が死んだ時のためかもしれない。
理由はどうであれもし万が一、アーサーさんが俺にとってのアーメッドさんのような人がいて、生き返らせようと考えて諦めたのであれば……無駄に詮索することではないと思った。
――ただ、もし蘇生させる植物を採取できた時は、アーサーさんには聞いてみようと思う。
俺の【プラントマスター】でコピーさえできれば、アーサーさんにも分けてあげることができるからな。
この植物による復活が、どの状態なら復活させることができるのか分からないが、可能性が少しでもあるなら追わせてあげたい。
“命あっての物種”。
俺にそう忠告した際の悲し気な目を見て、そう思ったのだった。
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