第三百二十話 ギラギラ


 【蒼の宝玉】を見送った後、ディオンさんとスマッシュさんは旅のための買い出しに行き、俺は一人で『鷲の爪』に来ていた。

 アーサーさんに魔力溜まりの洞窟についての報告と、修行の成果の報告。

 それから皇国についてと、魔王の領土についての話を聞きに来た。


 情報全てがアーサーさん頼りだが、なんとか協力してくれるよう頼み込まなければいけない。

 『鷲の爪』の扉を押し開け、俺は店の中へと入った。


「おお? ルイン、もう戻ってきたのか!」

「はい。アーサーさんのお陰で――この短期間で大幅に成長することができました」

「……どうやらそのようじゃな! パッと見ただけで、ハッキリと強くなっているのが分かる! でも、よくこの短期間でそれだけの強さを身につけることができたのう」

「全部、アーサーさんが教えてくれた魔力溜まりの洞窟のお陰です。今日はその魔力溜まりの洞窟についての報告と、その修行の成果についてを報告に来ました」

「魔力溜まりの洞窟についての報告?」


 俺の言葉に首を傾げたアーサーさん。

 ……うーん。少しだけ報告し辛い。


 教えてもらった魔力溜まりの洞窟の魔力を、全て使い切ってしまった訳だからな。

 今後、アーサーさんが利用することができなくなった訳だし。


「……おーい。どうしたんじゃ? その魔力溜まりについての報告というのを教えてくれ」

「実は…………魔力溜まりの洞窟の魔力を、全て使い切ってしまいました。アーサーさん、すいません!」

「魔力溜まりの洞窟の魔力を使い切った……? ははっ、そんな訳なかろうが。あそこには膨大な魔力が溜まっておったんじゃぞ? ルインが勘違いしているだけではないのか?」


 俺の謝罪を真に受けてくれないアーサーさん。

 確かに、俺のスキルの不調の可能性も考えられるが……自分の魔力ではちゃんと生成できていたし、さっきも【蒼の宝玉】の三人を治療した時に薬草を生成した。

 つまりは、俺のスキルが原因ではないということだと思う。


「いえ、洞窟の外……つまりは自分の魔力ででしたら、普通に使用することができたので、勘違いではないと思います」

「……………………だとすれば、本当に魔力溜まりの洞窟の魔力を使い切った?」

「アーサーさん、本当にすいませんでした」


 俺は深々と頭を下げたのだが、アーサーさんは俺を一切相手にせず、顎に手を当てて何かを必死に考えている。

 頭を下げた状態でしばらく待っていると、考えがまとまったのか話し出してくれた。


「正直、理解の範疇を超えているが……この短期間でそれだけの成長を見せたということは、あながち嘘という訳ではなさそうじゃな。――魔力溜まりの魔力なら、別に構わんよ。ワシはもう使うことはなかっただろうしのう。……ただ、情報を教えた礼を頂きたいのじゃがいいかのう?」


 いつもの優しい雰囲気ではなく、初めて会った時に発していたような――強い殺気とギラギラとした目を俺に向けてきた。

 『エルフの涙』のおばあさんがたまに見せる、異様な威圧感と似た感覚。

 礼として何を求められるか分からないが、覚悟は決めた方がいいかもしれない。


「もちろんです。俺にできることならば、なんでも言ってください」

「それは良かった。それなら……ワシと一戦だけ手合わせを願いたい」

「手合わせ……ですか?」

「軽い遊びのようなものじゃよ。老いぼれの道楽に付き合ってほしいのじゃ」


 そこらへんの若者なんかよりも、よっぽどギラつかせているのによく言ってくれるよ。

 ……でも、俺としてもアーサーさんとは手合わせしてみたい。


 魔力溜まりの洞窟に行く前までは、絶対にこんなことを思わなかっただろうけど、おばあさんの元パーティメンバーにして元自称人類最強。

 年齢を重ねてしまったせいで、全盛期の力は出せないのだろうけど、それでも力の一端を見たい気持ちが強く――。

 それと同時に、アーサーさんに俺の今の力を見てもらいたい。


「分かりました。ですが、やるからには負けるつもりはありませんよ」

「ほっほっほ。……言うじゃないか、若造が!」


 俺の言葉に怒気を強めたアーサーさん。

 怒りと笑顔が混在している凄い表情を見せている。


「それで、どこで手合わせをするんですか? ランダウストの外に出ますか?」

「いいや。地下室があるからそこを使おうか。広さも丁度良い広さなんじゃよ」


 全く知らなかったが、『鷲の爪』に地下室なんかあったのか。

 前を歩くアーサーさんについていき、店の奥へと向かい――地下へと続く階段を下りて行く。


 扉を開けると、そこには正方形の部屋があった。

 縦横、両手を伸ばした俺が五人ぐらいの広さ。

 戦闘を行うには狭く感じるが、模擬戦というのであれば丁度良い広さなのかもしれない。


「地下室って凄いですね。この部屋って何の部屋なんですか?」

「武器の試し斬りに使う場所じゃよ。あと、ワシの体がなまらないようするための運動部屋じゃな」


 軽く準備運動のようなものをしているが、動きは軽快でキレがある。

 ガタイの良さから分かる通り、力も衰えているようには感じがないし、パッと見た感じではディオンさんやスマッシュさんよりも強いかもしれない。


 二人もダンベル草の摂取に加えて、『竜の谷』で修行を重ねて強くなったはずなんだけど……。

 アーサーさんは、正真正銘の化け物ようだ。


「ルイン、準備はええかの?」

「はい。俺はいつでも大丈夫です」


 俺は準備運動を【蒼の宝玉】で済ませている。

 渡された木剣を構え、物凄い雰囲気のあるアーサーさんと対峙した。


「それじゃ、始めるぞい」


 その言葉と共に――アーサーさんとの手合わせが開始された。

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