第三百十九話 宣言


 手当てを終え、話せる状態となった三人だが……。

 改めて俺の顔を見て、放心状態となっている。


「お、お前って……。アーメッドに助けてもらってたガキだよな?」

「思い出した。……俺達を尋ねにギルドに来て、追っ払ったあの小僧だぞ!」


 まじまじと見たことで、ようやく思い出してくれたみたいだ。

 戦闘が始まる前までは、俺のことなんか眼中に入っていなかったみたいだしね。


「そうです。覚えててくれたんですね。【蒼の宝玉】のみなさん、お久しぶりです」

「な、なんであのガキが――俺達三人まとめて倒せるぐらい強くなっているんだ!?」

「それは、必死に修行したからですよ。……それよりもマーロンさん、あの時はありがとうございました」


 腰を下ろしたまま俺を見上げる三人は置いておいて、俺は傷だらけの男性――マーロンさんにお礼を伝えた。

 俺のことを覚えているか分からないが、マーロンさんにはあの時も良くしてもらったからな。


「いえいえ。今日も、あの時も……仲間が失礼な態度で申し訳ない」

「大丈夫ですよ! 俺は強くなりましたので」


 笑顔で声を掛けてくれたマーロンさんに、俺はそう言葉を返した。

 今回もそうだったが、荒くれ者しかいない【蒼の宝玉】の中で、唯一性格が穏やかな人だ。

 ……見た目は一番怖いけども。


「【青の同盟】の二人と一緒にいるってことは、あの後無事に出会えたみたいだね」

「はい。教えて頂いた通り、冒険者ギルドのギルド長さんから情報を頂けましたので! ……それよりも、【蒼の宝玉】の人達はなんでランダウストに?」

「だから、たまたまだっての! お前らが目の前に現れたから――」

「アーメッドさんの訃報を聞いたからですよ。着いたのは一週間くらい前なんですが、お墓もないと言われまして……立往生していたんです」

「おいっ! マーロン!」

「いいじゃないですか。隠したところで何にもなりません。この三人なら情報を持っていると思いますしね」


 本当のことを話したせいでレイラさんが怒ったが、マーロンさんはすぐに宥めた。

 やはりとは思っていたが、【蒼の宝玉】の人達はアーメッドさんに会いに来ていたんだな。


 冒険者ギルドで俺がアーメッドさんのことについて話した時も、四人の反応は嫌っている人の反応じゃなかったしな。

 そのあとの俺への反応は、マーロンさん以外酷かったけど……今日、三人を制圧したことでちょっとスッキリした。


「それならそうと先に言ってくだせぇ! そうすりゃ、あっしらだって素直に教えやしたぜ?」

「そうですね。てっきり喧嘩を吹っ掛けられたのかと思いましたが……【蒼の宝玉】の方々は、アーメッドさんに会いにきてくれただけでしたんですね」


 まだ言葉尻に棘のあるスマッシュさんとディオンさんだが、三人は一瞬で俺に倒されてしまったからか、ぷるぷると言い返したそうにするだけで反論はしてこない。


「言い争いはそこまでにして、仲良くいきませんか? 俺達もこれからアーメッドさんに挨拶に行く予定でしたので、良かったら一緒に来てください」

「そう言ってくれて本当に助かるよ。レイラさんもお礼を言ってください」

「あ、あ、あ……ありがとぅ」


 そっぽを向いたまま、俺に礼を言ったレイラさん達【蒼の宝玉】と共に、俺達は七人で治療師ギルドの特別霊安室へと向かった。

 移動している最中、マーロンさんが積極的に俺に話しかけてくれ、他の三人からは視線を痛いほど感じている。


「ここがアーメッドさんが眠っている特別霊安室です。先に声を掛けてあげてください」


 先に【蒼の宝玉】の四人に言葉をかけさせてあげるようで、ディオンさんは四人をアーメッドさんの下に案内してから、外へと出てきた。

 四人が霊安室の中に入り約二十分ほどが経過してから、中から戻ってきた【蒼の宝玉】の面々と入れ替わるように、俺達は霊安室の中に入る。


 揉め事があったお陰で気が紛れていたが、やはり直接の対面となると怖い部分がある。

 でも、その怖さも全てひっくるめて……俺は報告しに来たんだ。


 俺はディオンさんが空けた棺桶の中の――アーメッドさんと対面した。

 あの時は顔を見た瞬間に涙があふれ出て、ほとんど顔を見ずに言いたいことだけ言って逃げてしまった。


 ただ、今はしっかりと向き合えている。

 向き合えた上で……しっかりと俺のやるべきこと、成し遂げることをアーメッドさんに伝える。


「……アーメッドさん、お久しぶりです。この声が聞こえているか分かりませんが、俺もディオンさんもスマッシュさんも、強くなって戻ってきました。全てはアーメッドさんのためにです! いつかまでは明言できませんが、必ず俺が……俺達がアーメッドさんを生き返らせますので――生き還ったら、また元気な姿を見せてくださいね!」

「そうですぜ! 聞こえているか分からないでやすが、絶対に生き返らせてやりやすぜ!! 天国か地獄かわかりやせんが……鍛えて待っていてくだせぇ! 勝手に一人で死ぬなんて許してやせんから!」

「そうです。お二人の言う通り、勝手に死ぬことだけは許していませんから。いくら拒否したとしても、私達が必ず生き返らせますからね。そして――強くなった私とスマッシュさんで、アーメッドさんをギャフンと言わせます!!」


 俺達は三人で、笑顔でそう強く報告した。

 面と向かい直接伝えたからには、絶対にやり遂げなくてはいけないな。

 アーメッドさんにはもう少しだけ眠っててもらい――俺達は特別霊安室を後にした。


 

 外に出ると【蒼の宝玉】達が待ってており、レイラさんがそっぽを向きながら近づいてきた。

 そのまま何も言わずにしばらくの間が空き……マーロンさんが後ろから急かした様子。


「わーってるての。……絡んで悪かった。案内してくれてありがとな。それと――これ渡しておく」


 レイラさんから手渡されたのは……腕輪?

 シンプルなデザインの腕輪だが、一体何なのだろうか。


「これ、なんでしょうか?」

「アーメッドから貰った……? いや、パーティを抜ける時に置いていったものだ。お前に預けるのがいいと思ってな」


 よく見てみると魔力が漏れ出ているため、マジックアイテムだということが分かる。

 ……でも、なんで俺に渡したんだろうか。


「それだけだ。私達はグレゼスタに帰るから、それじゃあな」

「あっ、ちょっと待っ――」


 一方的にそう言い残すと、レイラさんは早足で行ってしまった。

 色々と聞きたいことがあったのだが聞けなかったな。

 呆然としながらその背中を見送っていると、レイラさんは突如振り返り大声で俺に対して言葉をかけてきた。


「――今度会った時はケチョンケチョンしてやるからよ! 覚えていやがれ!」


 中指を立てながら、舌を出して俺を挑発してきたレイラさん。

 その後ろで、ひょろ長の男性と隻腕の男性も俺を煽っている。


 追いつかないであろう安全圏から、制圧された俺へのせめてもの抵抗だろうが……。

 俺が全力で走ったら追いつく距離だし、捕まえたらどんな反応を見せるんだろうか。

 そんなことをほほ笑みながら考えつつ、俺は【蒼の宝玉】を見送ったのだった。


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