第三百十八話 制圧
向かい合った【蒼の宝玉】と【青の同盟】。
先に話を始めたのは、他の三人よりも一歩前へと立っていたレイラさんだった。
「お、なんだぁ? 私らの前に立って動かねぇと思ったら、アーメッドの腰巾着たちじゃねぇか! アーメッドの姿は見えねぇが元気にしてんのか? …………ん? あぁ、そうだ。魔王軍にやられて、くたばっちまったらしいなぁ!」
「……言いたいことはそれだけですか? それだけなら退いてほしいのですが。私達の前に塞ぐように立っているのはあなたたちですからね」
「ったく、つれねぇなぁ! 久しぶりなんだから話してくれてもいいだろ!」
レイラさんが両手を大きく広げて俺達に近づこうとしてきたのだが、スマッシュさんが片手を突き出して静止させた。
「それ以上近づいたら、あっしらとやり合うってことで捉えやすぜ? 覚悟して近づいてくるんでさぁ」
「――あ? 何、雑魚が私らに指図してんだよ」
笑顔だったレイラさんの顔に怒りの表情が張り付き、一気に険悪なムードが流れ始めた。
レイラさん達【蒼の宝玉】の言い方はアレだが、別にアーメッドさんを貶したいとかはないと俺は思っている。
以前、グレゼスタの冒険者ギルドで会った時も、【蒼の宝玉】の面々はじゃれてからかっているような印象があった。
アーメッドさんは本気で嫌っているだろうが、今回だって死んだことを聞いて駆けつけて来た可能性だってあるし、ここで揉めるのは俺としても嫌なことだ。
「ケッケッケ。アーメッドの腰巾着が強くなってつもりでいるのかね。身の程知らずもいいところだぜ」
「……剣を抜いたら分かってるだろうな。俺達とやり合うってことだぜ?」
ひょろ長の男性と隻腕の男性も頭に血が上ったのか、レイラさんに並ぶようにして前へと出てくる。
このままじゃ街中で小競り合いが始まる――俺がそう思った瞬間、スマッシュさんが抜剣してしまった。
「お前、私に対して剣を抜いたな? いいぜ、そっちがその気ならやってやるぜ!!」
レイラさんが帯剣していた剣に手が触れたのを見て、俺は慌ててこの争いを止めるために動きだす。
まずは目の前にいるスマッシュさんの剣を流れるように奪い取り、その剣を構えてレイラさんに一気に近づく。
剣を奪って近づいてきた俺に、ギョッとし驚いた様子を見せたレイラさんだったが、俺が止まることがないと分かると――剣を構え直した。
俺の目的は争うことではなく、互いを無効化させること。
初めてレイラさんと会った頃は、手の届かない強さを持っていたけど……。
今は逆に手の届かない強さを俺が持っているはずだ。
レイラさんが俺に向かって振り下ろしてきた剣を軽々と受け止め、少しだけ力を込めて押し返す。
あまり力を入れなかったのだが……勢いよくバランスを崩したレイラさんは、頭を地面にぶつけながら勢いよく倒れた。
俺はその倒れたレイラさんに近づき、手に持つ剣を奪い取って回収。
唖然としながらその光景を見ていた、ひょろ長の男性と隻腕の男性だったが、ワンテンポを遅れて俺に襲い掛かってきた。
ひょろ長の男性は手にはめるタイプの爪のような武器、隻腕の男性は男らしく素手。
レイラさんは女性だったから手加減したけど、この二人は二人掛かりだし少しくらいはダメージを与えてもいいよね。
謎ルールで自分を正当化させてから、俺は奪った二振りの剣を地面に置き、襲ってきた二人を向いて拳を構えた。
まず先に仕掛けてきたのは、ひょろ長の男性。
異様に長いリーチを活かし、予想し辛い角度から鋼の爪を振るってきているが、俺は躱すことは一切せずにその攻撃を素手で受け止める。
そのまま腕を掴み、思い切り手前に引っ張ってから――前傾姿勢でバランスを崩したひょろ長の男性の顎先を、掠め取るようにデコピンを打ち込んだ。
高威力のデコピンによって綺麗に脳が揺られ、気絶してしまったひょろ長の男性をゆっくりと地面に寝かせる。
後は隻腕の男性だけだが……レイラさんの剣を奪い、ひょろ長の男性を一撃で沈めたことから、かなり警戒した様子を見せている。
ただ、それでも攻撃を止める意思はないようで、大きく振りかぶって丸太のように太い腕を振るってきたため、俺も飛んでくる拳に合わせるように拳を突き出す。
手加減をしないと残った腕も機能しなくなってしまう可能性があるため、威力の加減だけは間違えないように……衝撃音と共に拳と拳がぶつかった。
手加減に手加減を重ねたため、もちろん俺へのダメージは皆無。
一方の隻腕の男性は、腕を押さえるようにして地面に倒れ込んだ。
多分折れたぐらいで済んでいるだろうし、後で薬草を生成してあげれば大丈夫だろう。
残るは傷だらけの義眼の男性だけだが――傷だらけの男性はずっと静観していたし、俺が見つめると両手をあげて降伏の姿勢を見せたため、これで場は綺麗に収まった。
…………やはり俺は、想定以上の力をつけているな。
手加減に手加減を重ねないと、人間相手では戦うのもヒヤヒヤする。
強すぎるということも大変なんだと実感しながら、俺は無力化した三人の手当てを行うことにしたのだった。
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