第三百十六話 ルインの強み


 俺の渾身の袈裟斬りを受け――。

 灼熱の炎を空に向けて吐き出しながら、ピクリとも動かなくなったワイバーンゾンビ。


 もしかして……今の一撃で死んだのか?

 アンデッド種に死んだという言葉が正しいのか分からないけど、とりあえず動く気配がないため、警戒しながら近づく。


「……動かないな。一応、首だけ撥ねておこうか」


 ワイバーンゾンビに近づいて、剣で突っついても動かない。

 俺はそう独り言をつぶやいてから、首を撥ねにかかる。


 これが死んだふりで仮に生きているのだとすれば、首を跳ねられる前に動き出すはず――。

 そう思い、首に向かって思い切り上段斬りを放つと、ワイバーンゾンビは一切の抵抗を見せることなく、あっさりと首が転がり落ちた。

 やっぱり、既に死んでいたのか。


「…………ルイン! 本気で一人で倒しちまったんでさぁ!?」

「首もしっかり落ちてますよ。……というか、ほぼ一撃で倒していませんでしたか?」

「ディオンさん、スマッシュさん。……なんか倒せちゃいましたね」


 駆け寄ってきた二人に、俺は頭を掻きながらそう報告する。

 本当はもっと接戦を演じるつもりだったのだが、まさかの七割程度の袈裟斬りで倒せるとは思っていなかった。

 死してもなお、禍々しいオーラを放つワイバーンゾンビの死体を見て固まる二人。


「ルイン君は、とんでもない力をつけたんですね。……アーメッドさんよりも強いんじゃないでしょうか?」

「確実に強いと思いますぜ! ワイバーンゾンビを一人でしかも瞬殺なんて――あっしは聞いたことないでさぁ!!」

「二人のお墨付きを頂けたなら安心しました。……アーメッドさんを生き返らせるべく、アーメッドさんよりも強くなることを目指していましたので。かなりズルのような方法ですが、強くなれて良かったです」

「全然ズルなんかじゃないですぜ! それは一緒に植物を食べたあっしらが保証しやす!」

「そうですね! ルイン君をズルというのであれば、アーメッドさんなんか生まれ持って強いんですから! ズルそのものの力ですよ!」


 そんな風に二人に励まされながら、俺達はワイバーンゾンビの片付けを行っていく。

 このまま放置していると、このワイバーンゾンビが発している瘴気から、更なるアンデッドを生み出しかねないらしく、しっかりと死体の処理をしないといけないらしい。


 逆に言うと、ダンジョンで倒した魔物は一瞬にして灰と化するため、一切の処理をしなくていい。

 倒した魔物が残り続けるメリットもあれば、こうして処理をしなくてはいけないデメリットもあるんだよな。

 ワイバーンゾンビの爪や鱗など使えそうな部位はあるものの、アンデッドのものということで今回は全て埋めることに決めた。


「これだけデカい魔物だと、穴を掘るのも大変でさぁ!」

「ですね。燃やしてしまうのが一番手っ取り早いんですけど、誰も【ファイア】の魔法が使えないですからね」


 そこまで言われて、俺は一つ方法を思いついた。

 ……ダンジョンで使っていた粉塵爆発を使えば、死体も一気に焼却できるんじゃないか?

 失敗するかもしれないが、試してみる価値はあると思う。


「あの、一つ思いついたことがありまして……。ちょっと離れててもらっていいですか?」

「……ん? また何か思いついたんですかい?」

「はい。一気に焼却できるかもしれない方法を思いつきまして、試してみたいんです」


 俺は二人に断りを入れてから、まずは粉をぶち撒いて死体全体にかかるように舞ったのを見てから――ボム草で着火させる。

 屋外、それも風もそこそこ吹いているからか、ダンジョン内で行ったよりも威力の高い爆発が起き、凄まじい衝撃音と共にワイバーンゾンビの死体は一気に灰と化した。


「な、な、なんですかい! とんでもない爆発でしたぜ!!」

「今のって、爆裂魔法ですか? 確か上級魔法のはずですが、ルイン君いつのまに――」

「いえ、違います! 今のは燃えやすい粉に火をつけただけです! ダンジョンで弱い俺がどうにか強烈な一撃を繰り出すために、頭を捻らせて思いついた方法でして……。とにかく上手く機能して良かったです」


 ちょっと予想以上に高火力だったが、狙い通りワイバーンゾンビの死体は一気に処理することができた。

 ダンジョン以外でも、この粉塵爆発は色々と使えそうだな。


「火をつけただけって……。あの爆発をワイバーンゾンビに食らわせていたら、多分一発で致命傷を与えられたと思いやすぜ! なんか色々とありすぎて、ルインは奇術師みたいでさぁ!」

「お二人なら知っていると思いますが……。俺は本当に弱かったので、試行錯誤しなくてはいけなかったんですよ。全てその成果の積み重なりって感じですね」

「……これは明確にルイン君の強みですね。出会ったばかりの頃は、本当に人類で最弱と言っていいレベルでしたから」


 思い返すと恥ずかしくなるくらい、【青の同盟】さん達と出会ったばかりの頃の俺は弱かった。

 たまたま低ランク帯にいた三人に護衛してもらい、なんとか植物採取を行っていたからな。


「そこから努力し、試行錯誤しながら力をつけていき――今は、ワイバーンゾンビを一撃で倒せるくらいの力をつけたんです。大抵の強者というのは、生まれ持ったものによるものが大きいですから。だから驕り高ぶり、技術が疎かになりがちです。……アーメッドさんは珍しく技術がある人ですが、それでも力に任せる部分が大きいですからね」

「でも、それで勝てちゃうのが……本当の強者って奴なんでやしょう!」

「そうです! 本当の強者はそれでも勝ててしまうんですが……。ルイン君は違います。本当の強者になったのにも関わらず、弱さも知っていますから。試行錯誤する力もありますし、ピンチの時に跳ね返す思考力も兼ね備わってます。これから幾多の強敵と戦っていくと仮定して……。弱かった時の経験が、ルイン君の最大の強みになると私は思ってます!」


 そう熱く語ってくれたディオンさん。

 ……俺が弱かった時の経験。そこから試行錯誤しながらも、なんとか自分よりも格上と戦ってきた経験は、これからもきっと役に立つと俺も思う。


 元々強いに越したことはないけど、弱い人間が強くなったからこそ、得られたものはたくさんある。

 弱かった時の経験を無駄だったと思うのではなく、ディオンさんが言う通り自分の強みとして活かしていきたい。

 ディオンさん、スマッシュさんとの会話で、俺はそう強く思ったのだった。

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